Jovian-Cinephile1002’s blog

古今東西の映画のレビューを、備忘録も兼ねて、徒然なるままに行っていきます

『 空母いぶき 』 -素材は一流、演技は二流、演出・構成は三流-

空母いぶき 50点
2019年5月25日 東宝シネマズ梅田にて鑑賞
出演:西島秀俊 佐々木蔵之介 佐藤浩市 
監督:若松節朗

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どこかのアホなハゲチャビン放送作家がいちゃもんをつけていたので、どれほどのものかと思い、鑑賞。観る前から酷評していたコピペ作家とは違い、Jovianは劇場に赴き、この目で観た。感想は、素材は一流、演技は二流、演出・構成は三流であった。

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あらすじ

世界の警察を自任する国がその座から降りたことで、各国にはナショナリズムが再燃しつつあった。その中でも小国家連合「東亜連邦」は、日本近海で緊張感を高め、軍事衝突の危機が高まりつつあった・・・

 

ポジティブ・サイド

佐々木蔵之介のキャリアで、これは最高の演技であろう。少々近視眼的な思考の持ち主であるものの、職務に忠実、使命を必達しようとする強い意志を持ち、何より有能にして、平和を真に希求する軍人にして船乗りである。自衛隊もしくは大日本帝国海軍にモデルとなる人物がいる/いたのだろうか。

 

空母いぶきを含む連隊全艦に、政治と軍事の狭間でぎりぎりの行動、つまり専守防衛を逸脱しない範囲で軍事力の行使をしなければならないという緊張感が全編に漂っている、いや漲っている。それは特に艦長の秋津竜太(西島秀俊)と副長の新波歳也(佐々木蔵之介)の関係が、日本という国の持つ矛盾(と言っていいだろう)をそのまま体現しているからだ。軍事力を有するということは、それを行使するかしないかの問題ではない。いつ、どこで、どのようにそれを行使するかが問題になる。なぜなら、現代の兵器はあまりにも進み過ぎてしまって、一発の破壊力が大きいからである。あるいは、日本の場合なら、ミサイルや爆弾の一発、敵機一機、敵船一隻、極端な話、敵兵一名に防衛線を破られただけで、ある意味負けだからである。守りに徹するというのは、甘んじて先制攻撃を受けるということであり、核兵器を持つような狂った相手が敵になるなら、その時点ですでに敗れているとさえ言える。それでも日本が核武装を選ぶことなく、そして今後もそうすることを選ばないだろうということを、本作は強く語りかける。

 

本作で最も光ったのは「忖度」シーン。Jovianの義父は元警察官であるが、どうしても同期と出世に差がつくことは有りうる。片や巡査長、片や警察署署長。同期であっても敬語で話す。しかし、二人きり、あるいはプライベートの付き合いであれば、警察学校時代の関係に戻れる。そうしたフラットな関係が根底にあるから、上司となった同期にも忖度ができる。周囲に対して、上下関係を示すことができる。そうしたことを切々と教えてもらったことがある。秋津と新波の対話は、ドラマのひとつのピークであった。

 

ネガティブ・サイド

コンビニのシーンは不要である。これは全てノイズである。中井貴一は素晴らしい役者だが、何の存在感も感じられなかった。本田翼もいらない。あんなジャーナリストはいらない。100社中でたった2社だけが建造間もない航空母艦の取材乗船を許可されたというのに、もっと張り切れと言いたい。冒頭で東アジアで軍事的緊張が高まっているとご丁寧にもアナウンスしてくれているのに、リポーターがこの調子では・・・ 中井貴一らは平和ボケ日本の象徴と言えないこともないが、マスコミまでもがこの調子では日本の未来は本当に暗いと言わざるを得ない。これらのシーンを全て削れば、2時間以内に収まったのではないか。

 

海上自衛隊も何をしているのか。マスコミの持ち物検査ぐらいしろ。何故に民間人が作戦行動中の船内を自由に行き来できるというのか。それを許可させるなら、広報担当官を貼りつけさせるか、もしくは護衛を口実に同室内にいてその挙動には常に目を光らせるべきだろう。戦闘において最も危険なのは、強大な敵ではなく足を引っ張る味方だからだ。結果的にグッジョブを成し遂げたとはいえ、それは偶然の産物に過ぎない。

 

キャラクターには臨場感、緊張感、緊迫感があるが、肝心かなめのストーリー展開にそれがない。何故に東亜連邦軍は、最もやってはいけない戦力の逐次投入をしてくるのか。いぶき艦隊に「どうぞ各個撃破してください」と言っているようにしか思えなかった。せっかく初撃でいぶきに打撃を与えたのだから、そのダメージの程度を探ろうとしないのは何故か。観る側としては、艦載機を飛ばせない空母に襲いかかる敵航空編隊というのをどうしても期待する。当たり前田の広島クリシェだが、それが最もサスペンスフルな展開だからだ。であるにもかかわらず、艦載機用のエレベーターの修理が完了した、ちょうどそのタイミングで敵機襲来というのは、あまりにもご都合主義が過ぎる展開だろう。これでハラハラドキドキしてください、と観客に伝えるのは無理だ。

 

佐藤浩市演じる垂水総理の優柔不断っぷりから歴史的決断に至る過程、周囲からの過剰とも思える圧力も、残念ながら既に『 シン・ゴジラ 』が描き出してくれていた。二番煎じであるし、何よりもポリティカル・サスペンスとして弱いと言わざるを得ない。

 

本作全体を通じての最大の弱点は、間延びした台詞の数々である。それこそ『 シン・ゴジラ 』の二番煎じとなってしまうが、全員が1.3倍速ぐらいで喋れたはずだ。トレイラーにあるのでネタばれにはあたらないが、玉木宏の「総員、衝撃に備えい!」がその最も悪い例であろう。記憶が鮮明ではないが、「アルバトロス隊、会敵まで○秒」や「敵魚雷、着弾まで○秒」というカウントにまったく緊張感がない。絶叫しろと言っているわけではない。張りつめた声を出してほしいと言っているのだ。戦闘シーンも前半はBGM無し、後半はありと方針がはっきりしない。とにかくキャラの台詞が間延びしていて気持ち悪い。特に気持ちが悪いのは高嶋政宏である。スーパーX3に搭乗してデストロイアに向かっていった孤高の軍人はどこに行った?この男だけは張りつめた声で軟弱な台詞を吐くという離れ業を見せてくれた。ギャグにすらなっていない、ひどいキャラクターである。

 

その他、対艦ミサイルを食らい、間近で僚艦が爆発炎上したにも関わらず、戦闘翌日の朝日を一身に浴びる空母いぶきのなんと美しいことよ。艦隊にいささかの煤けもなく、甲板に金属片や微細なひびなども見当たらない。戦闘そのものが乗員全員の白昼夢だったとでも言うのか。若松監督はこの絵で何を伝えたかったのというのか。一介の映画ファンには知る由もない。

 

総評

自衛隊の協力が得られていないところから色々と察することができる。原作未読者の感想であるが、キャラクターはいずれも立っている。しかし、一部の大根役者の演技がその他大勢の役者の足を引っ張っている。また、演出にリアリティが圧倒的に足りない。大人の鑑賞に耐える作品に仕上がっていない。かといって子どもに見せるような作りにもなっていない。残念ながら、興行的にも振るわないだろうし、批評家や一般ファンからの評価も芳しいものとはならないだろう。

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