Jovian-Cinephile1002’s blog

古今東西の映画のレビューを、備忘録も兼ねて、徒然なるままに行っていきます

『 無限ファンデーション 』 -眩しく暗い青春の一ページ-

無限ファンデーション 60点
2020年4月2日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:南沙良 原菜乃華 小野花梨 西山小雨
監督:大崎章

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基本的にはTSUTAYAでは旧作か、あるいはキャンペーン割引料金の準新作しか借りないJovianであるが、劇場に行けない昨今、新作料金でDVDを借りるのもありだろう。嗚呼、南沙良・・・

 

あらすじ

内向的な女子高生・未来(南沙良)は、リサイクル工場から聞こえてくる歌声に惹かれ、不思議な少女・小雨(西山小雨)と邂逅する。学校では、未来のスケッチブックに注目したナノカ(原菜乃華)らに誘われ、演劇部に入部する。新しくできた仲間たちとの関係は、しかし、ある時から思わぬ方向へ向かい始め・・・

 

ポジティブ・サイド

全編これ即興というのは、大昔に大学の寮の先輩が出演していた芝居で見たことがある。下北沢だったか。本作には大まかなプロットが存在し、何度かリハーサルもやったらしい。それはそうだ。

 

冒頭で流れてくる西山小雨の「とべフレ」に、未来ならずとも引き込まれるだろう。あいみょん作曲かつ提供の『 さよならくちびる 』の「さよならくちびる」も良かったが、こちらの劇中歌の「とべフレ」も負けず劣らず美しい。いや、俳優ではなく歌手が歌っているだけあって、歌唱力や表現力はこちらの方が上だと言える。『 ロケットマン 』のタロン・エジャートンのように俳優が歌うことで生まれる味わいもある。一方で、本職の歌い手だから出せる味もある。西山小雨の起用は成功である。

 

少女漫画原作の映画とは異なり、青春、もっと言えば思春期の人間関係の暗い面にフォーカスする。友情とは、しばしば閉じた人間関係で、女子のそれは特にそうである。南沙良演じる未来は、いわゆる陰キャから陽キャへと脱皮する。だが、そのことがもたらす波紋の大きさは、この年代にとっては確かに受け止めづらいものだろう。主要キャストたちは、張り詰めた緊張感の中ですらも即興劇を完遂した。こうした映画撮影の技法は、もっと頻繁に採用されてもよいと思う。故・志村けんはアドリブを生み出すのも受け止めるのも名手だったということだが、役者のポテンシャルを発揮させるのも監督や脚本家、撮影監督や照明、音響の役割の一部でもあるだろう。そうした、良い意味での裏方スタッフと役者のケミストリーを最も強く感じさせたのは、やはり南沙良だった。持ち前の動物的な勘で各シーンを彩ったが、それにしてもこの若き女優の鼻水たら~りは、もはや芸術の域に達している。つくづくそう感じられる。

 

「傷つくのが怖い」というのは、なかなか吐露しづらい。しかし、そうした恐れの気持ちを持ったことのない人は圧倒的な少数派ではないだろうか。本作は、そうした人間関係の近さと遠さ、優しさと痛みの両方を思い起こさせてくれる良作である。

 

ネガティブ・サイド

ところどころでシーンのつながりが変であった。特に(悪い)印象に残ったのはスケッチブックを廊下で見せるシーン。「え、そこで切って、ここにつなげる?」という画の移り変わりがある。このあたりは即興劇の技術的な限界だろう。ただ、欲を言えば別の撮影監督ならばどうなっていただろうか、ということ。例えば『 1917 命をかけた伝令 』のロジャー・ディーキンスは絶対に無理だとしても、『 恋は雨上がりのように 』で小松菜奈の魅力を見事にフレーム内に捉え切った市橋織江なら、どのような画の切り取り方をするのだろうか。そんなことを考えてしまった。

 

また語りの力が弱かったのも気になった。特に演劇部顧問の先生にはもうちょっと頑張ってほしかった。屋上での語りは、抒情的でもなく、かといって叙事的でもなく、とにかく薄かった。陽光溢れる屋上で、ある意味で非常にダークな話を語っているのに、そこのコントラストが際立たなかった。

 

この先生自身が実に中途半端な大人であるせいで、部員同士の衝突を和らげる緩衝材になれていない。もしくは、部員間に蓄積されていたマグマの噴出量をコントロールできていなかった。大人の大人たるゆえん、子どもとの違いの一つは、妥協ができるところだ。青春模様、つまりは子どもの子どもらしさを強調させるためには、大人の大人らしさが対極に必要だった。

 

ラストショットは『 志乃ちゃんは自分の名前が言えない 』と重複している。大崎監督は、もっと違うビジョンを構想できたはずである。

 

総評

青春映画はアホかというぐらいの勢いで陸続と生産されているが、鮮烈な青春映画というのは邦画には存外に少ない。本作はその数少ない一作である。公開中の『 もみの家 』(観に行っていいのだろうか・・・)もそうらしいが、南沙良は居場所を探し求める少女を演じさせれば天下一品である。韓国語をマスターして韓国映画に出るか、あるいは英語をマスターしてアメリカや英国の映画に進出することを考えてみてはどうか。トップレベルのサッカー選手や野球選手が海外に活躍の場を求めるのは当たり前になりつつある。映画人もそうあるべきだ。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

You are so good at drawing, aren’t you?

「絵、超うまくない?」というセリフの私訳である。絵を描くというのはdrawやpaintという動詞で表されるが、draw = 固いもので描く、paint = 柔らかいもので描く、と理解しよう。鉛筆やペンで描けばdraw、筆やブラシ、もしくは自分の指(finger-painting)で描けばpaintである。英会話スクールのノン・ネイティブの先生の実力を確かめたければ、英検1級だとかTOEIC975点だとかではなく、上のような質問にその場でスパッと答えてくれるかどうかを目安に考えてみてほしい。

現在、【英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー】に徐々に引っ越し中です。こちらのサイトの更新をストップすることは当面はありません。

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