Jovian-Cinephile1002’s blog

古今東西の映画のレビューを、備忘録も兼ねて、徒然なるままに行っていきます

『 パーティで女の子に話しかけるには 』 -変則的かつ王道なボーイ・ミーツ・ガール-

パーティで女の子に話しかけるには 70点
2020年4月29日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:エル・ファニング アレックス・シャープ ニコール・キッドマン
監督:ジョン・キャメロン・ミッチェル

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ウィルスといえば本作も忘れてはならない。コロナもウィルス。『 貞子 』もある意味ウィルス(意味が分からない人は小説『 リング 』を読むべし)。そして本作もある意味でウィルスの物語である。

 

あらすじ

 

時は1977年、場所はロンドン。高校生のエン(アレックス・シャープ)は、ひょんなことからザン(エル・ファニング)という少女と出会う。意気投合する二人。エンはたちまちザンに恋するが、ザンは実は宇宙人で・・・

 

ポジティブ・サイド

原作はニール・ゲイマン。『 ピープルVSジョージ・ルーカス 』で創作について印象的なコメントを発していた小説家で、オンラインのcreative writing講座の広告で最近はよく見かける。

 

なんとも不思議なボーイ・ミーツ・ガールである。異星人に恋をするストーリーは、それこそ『 火星のプリンセス 』(『 ジョン・カーター 』として映画化されている)の昔(1910年代)から存在する。本作がユニークなのは、パンクという反体制・反社会・反規範のイデオロギーを個性の尊重=individualityと対比させた点にある。このことが喜劇にも悲劇にもなっている。

 

喜劇だなと感じられるのは、パンクについて語ることで意気投合するエンとザン。寒空の下で、ボロボロの木造部屋で、パンクについて語らう。まったくロマンチックではない。漫画『 CUFFS ~傷だらけの地図~ 』で、主人公とヒロインが夜空の下でB級アクション映画についてこんこんと語り合うシークエンスがあったが、ロマンチックさのかけらもないシーンこそロマンチックに見えるものである。キス、あるいはセックスをする直前が最も盛り上がるという一昔前の少女漫画的な描写になっていないところもいい。なにしろ、エンはザンに吐しゃ物をぶっかけられるからである。ザンはある意味で英国版『 猟奇的な彼女 』なのである。このように、エンという何者にもなれていない少年が、ザンと知り合って男に脱皮していく過程には、実にほほえましいものがある。だが、そのほほえましさが胸に刺さるシーンも見逃せない。決められたルールに反逆すること、それがパンク・ロックの精神であるが、母親に反発し、逃げた父親を今でも尊敬するエンに、ザンの何気ない一言が突き刺さるシーンは強烈である。少年はこのように大人になっていく。精神的な意味での父親殺しこそ、西洋文学の一大テーマなのである。

 

悲劇だなと感じられるのは、タイムリミット。恋とは障害があればあるほど激しく燃え上がるものだが、48時間という時間の制約はいかんともしがたい。『 はじまりのうた 』や『 ベイビー・ドライバー  』でも用いられた、一つのイヤホンやヘッドセットを二人でシェアするという演出は本作でも健在。実際にDVDのジャケットにも使われている。これがすべてだろう。 限られた時間では、時に言葉は無力である。B’zの『 Calling 』の歌詞にある通り“言葉よりはやく分かり合える”のが、音楽を通じて時に可能になる。こうした直感的な交信とでも言うべき現象は古典映画『 未知との遭遇 』から小説『 鳥類学者のファンタジア 』まで、古今東西に共通のようである。こんなに深く分かり合えるのに、交わることができない。何と切ないことであろうか。もう一つの悲劇的要素はザンの種族のある習性。ニール・ゲイマン冨樫義博の漫画『 レベルE 』を読んでいたのかと勘ぐってしまう。現実的に考えれば、大人は子どもを食い物にするなというメッセージなのだろうが。

 

エル・ファニングは安定の演技力と存在感で不思議ちゃんを好演。本作でのパンクでロックなインプロビゼーションは『 ティーンスピリット 』の歌唱シーンを全て吹っ飛ばすような迫力とエモーションに満ち満ちている。また、川面を行くカモの群れがちょうど良いタイミングで現れガーガー鳴いているのを指して“What are they saying?”と言ったのはアドリブっぽく感じられた。もしも本当にアドリブなら大したもの。計算ずくのショットなら、ジョン・キャメロン・ミッチェル監督の会心の絵作りだろう。ザンの放つ「あなたのウイルスになりたい」との一節が、今という時期だからこそ、いっそう強烈に響いてくる。恋愛経験のない、あるいは好きな人と付き合った経験のない男女は、本作のラストにエンの親友のヴィックがくれるアドバイスにしっかりと耳を傾けよう。『 ハナレイ・ベイ 』のサチのアドバイスと双璧を成す金言である。

 

ネガティブ・サイド

随所にどこかで見た何かが満載である。PTステラを最初に目にした瞬間、『 怪獣総進撃 』のキラアク星人または『 三大怪獣 地球最大の決戦 』の金星人の女王様かと思った。ゴジラはグローバル・アイコンなので、ミッチェル監督が観ていたとしても何の不思議もないが、もうちょっと捻るというか、工夫が欲しかった。あとは『 アンダー・ザ・スキン 』的な演出かな。これも気になった。ストーリーをシュールなSFにしたいのか、ボーイにとってのガールとは、別の星からやって来たエイリアンのようなものという実感を絵にしたかったのかが、少々分かりにくかった。

 

難点のもう一つは、ニコール・キッドマンエル・ファニングの英語か。これでバリバリのロンドナーで御座い、というのは無理がある。頑張って似せようとしているのは分かるが、『 ブレス しあわせの呼吸 』のアンドリュー・ガーフィールドにも及んでいない。アメリカ・イギリス合作だが、イギリス単独資本で作るべきだった。その方がリアリティも生まれたし、何よりも本作の横軸であるエンとザンの恋愛関係と対照をなす縦軸、つまり様々な親子関係に、もう一本の線が通ったと思うのだ。そこが惜しい。

 

総評

 

普通に面白い。パンクの何たるかをよくわからなくても、「そいつはロックだな」、「そんなのはロックじゃねえ!」みたいなノリが分かれば十分である。性別云々を言うのは野暮だしpolitically correctでもない。しかし、本作はぜひ中学生・高校生あたりの男子に観てほしい。女の子ってのは別の生き物に思える時があるが、それは本当にそうだからだ。話しかける時はプレイボーイぶらなくていい。王子様である必要もない。日本映画界が安易に量産する漫画原作の恋愛映画だけではなく、こういう映画も時々は観てほしい。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Rise up

Jovianの属する業界にも、ちょっと前にやってきた会社の名前である(スペルは違うが)。「立ち上がれ」の意味であるが、get upやstand upと何が違うのか。get up = 寝ている状態から起き上がる、stand up = 座っている状態から立ち上がる、である。rise up の意味する「立ち上がる」は“立ち上がれ、立ち上がれ、立ち上がれ、ガンダム”ということである。意味が分からないという人は、周りの40歳以上の男性に尋ねてみよう。

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