Jovian-Cinephile1002’s blog

古今東西の映画のレビューを、備忘録も兼ねて、徒然なるままに行っていきます

『 空へ 』 -大阪市近郊在住者にお勧め-

空へ 60点
2020年9月14日 梅田スカイビル40Fシアターにて鑑賞
監督:山田詩音

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これは『 GENJI FANTASY ネコが光源氏に恋をした 』や『 The Fiction Over The Curtains』などの劇場以外の場所で公開されている作品。この作品をレビューする物好きは日本広しといえどJovianぐらいだろう。

 

あらすじ

大阪のランドマーク、梅田スカイビルの誕生とその後の25年をアニメーションで描き出す。

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ポジティブ・サイド

非常に荘厳なオープニングである。太古の昔から、人類は高みに憧憬を持ち、高みに到達しようと様々な建造物を生み出してきた。そうした人類の歴史的な営為の一面を色鮮やかに映し出す開幕の映像は圧倒的である。ちょうど同じフロアに世界各地の空中庭園や高層建築物についての展示があるので、それを一通り眺めてから本作を鑑賞すると良いだろう。

 

スカイビルの誕生=建設の過程が見られるのも面白い。どうやってこんなユニークな形のものを作ったのかと常々疑問に思っていたが、なるほど、このように作ったのか。

 

単なるショートビデオではない。周辺地理を事前に綿密にリサーチして作られた映像である。ある男女の出会いと次世代の男女の成長物語が一体になって描かれているが、その時々にスカイビルを背景に映し出される街の描写は真に迫っている。分かる人が見れば、「あ、これはあそこだ!」と気が付くはずだ。

 

最後の最後にスカイビルを上空から俯瞰するショットがあるが、スカイビルが「あるもの」の象徴であると説明されれば「なるほど」と納得すること請け合いである。4~5分で観賞できるので、スカイビルに来た暁には、ちょっと足を止めて観てみよう。旅行者よりも地元民向けの作品である。

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ネガティブ・サイド

序盤に女性設計士と思しき人物を横向きに捉えているショットがあるが、女性が止まっているにも関わらず、壁との距離が徐々に縮んでいくという少々気持ちの悪いシーンがある。背景を男性が歩いており、その男性を遠めにカメラが追っているので手前側の女性も相対的に動いて見えるということなのだろうが、それにしても遠近感がめちゃくちゃであると感じた。

 

スカイビル誕生後の次世代の男女の物語パートでは、二人の関係性がなかなかつかめなかった。最初は兄妹なのかと思ってしまったが、れっきとした赤の他人だとその後に判明した。このあたりの描写には改善点を認める。

 

最後は上空からの俯瞰のショットで締めくくられるが、欲を言えばここは徐々にホワイトアウトしていくのではなく、俯瞰視点がどんどんと上昇していく、というシークエンスにすべきだった。それこそがスカイビルに込められた「スカイビルの未来の姿」ではないだろうか。「空へ」というタイトルは「宇宙へ」という意味でもあるはずだ。

 

総評

山田詩音監督は、短時間で切れ味鋭いメッセージを送るアニメーション制作に長けているようだ。またディテールへのこだわりもなかなかのものがある。国はクール・ジャパンという名目で訳の分からん箱物に投資するぐらいなら、こうした人材にカネを回すべきだ。カネのあるところに才能は集まるようになっているのだから。

 

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