開戦前夜 75点
2026年8月2日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:池松壮亮
監督:石井裕也
『 アルキメデスの大戦 』と同系統の作品だと思いチケット購入。
あらすじ
1941年、官民軍から選抜されたエリートたちが模擬内閣を結成し、日米が開戦した場合の戦局を徹底的に予測していくことを求められる。期せずして内閣総理大臣役に任命された宇治田(池松壮亮)は、軍部および官憲に複雑な思いを抱いており・・・
ポジティブ・サイド
『 アルキメデスの大戦 』+『 シン・ゴジラ 』『 日本のいちばん長い日 』というたとえがどれだけ適切かは分からないが、これが自分が一番に抱いた感想である。
戦争前にその勝敗について綿密にシミュレーションをする。極めて当たり前に思えるが、当時としては画期的だったのだろう。軍のお歴々が見ている前で自由闊達な議論もなさそうだが、それでも各人がそれぞれの立場で非戦と開戦について意見を戦わせていく様は文句なしに面白い。
観ている側は当然歴史を知っているわけで、彼らの議論の結末とその報告が歴史的にどのようなインパクトを持つのかを知っている。だが、幸か不幸か本作は、ロシアの対ウクライナ戦争やアメリカの対イラン戦争の前夜に、それらの国々でなにがあったのかを想像させてくれる。トップがアホだといくらその直下のエリートが知恵を振り絞っても無意味である。日本の場合は、しかし、そのトップが誰なのかが昔も今も不透明なところが他国と一線を画すところ。
これが政治思想史家の丸山眞男が言う「つぎつぎになりゆくいきほひ」=次々になりゆく勢いというものか。日本の場合、国家というリヴァイアサンの頭が天皇なのか、内閣総理大臣なのか、それとも主権者たる国民なのか分からない。ひとたび「自分たちは被害者だ」、「アメリカは許せない」という空気が醸成されてしまえば、もはや誰にも止められない。つくづく愚かな国民性であると思う。2021年の東京オリンピックについて「今更やめられないという結論になった 」ということで強行開催したのと同じ理屈が、80年前から存在していたことに、開いた口が塞がらない向きも多いのではなかろうか。
とある登場人物のモデルと目される人物の孫が「祖父はそんな人物ではなかった」と裁判沙汰にしているそうだが、仕事で見せる顔と家庭で見せる顔がまったく異なっていたのもあるのではないか。家では平和主義、職場ではタカ派というのは当時も今も普通のことだと思う。
ネガティブ・サイド
山本五十六は出せない事情があったのだろうか。
東条英機の苦悩である、戦争をして敗れる未来と戦争をせずに自尊自立を脅かされる未来の、いったいどちらがマシな選択なのか、という二者択一的な思考がすでに陥穽にはまっていると言える。戦争をせずに自尊自立を守り抜くという選択をすべきだった。
総評
机上で常に何かを計算する宇治田に、英国近代史家ならフローレンス・ナイチンゲールを見出したのではないだろうか。彼女はほぼ独力で大英帝国の軍部と官僚機構をデータでぶん殴った偉人である。実は今年か来年、個人的にナイチンゲールに関する論文を書くかもしれない。また、ナイチンゲール関連の映像もAIその他ツールをぶん回して作ってみる予定である。本作を楽しんだという向きは、ぜひフローレンス・ナイチンゲールのクリミア戦争後の業績を調べてみてほしい。
Jovian先生のワンポイント英会話レッスン
national power
国力の意。日本は残念ながら、これがどんどんと低下している。まあ、アメリカも大絶賛低下中ではあるが。ちなみに劇中でも盛んに触れられる工業力は industrial power またはより力強く industrial might とも言う。このあたりは英検準1級以上を目指すのであれば、ぜひ知っておきたい。
次に劇場鑑賞したい映画
2週間の海外出張に出るので、今はなし。
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