Jovian-Cinephile1002’s blog

古今東西の映画のレビューを、備忘録も兼ねて、徒然なるままに行っていきます

『 メアリと魔女の花 』 -先行ジブリ作品のパッチワーク-

メアリと魔女の花 40点
2020年8月7日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:杉咲花 神木隆之介
監督:米林宏昌

f:id:Jovian-Cinephile1002:20200809133717j:plain
 

思い出のマーニー 』の米林宏昌監督の作品。最近、ジブリが映画館に復活しているが、ジブリ退社後の氏の手腕はどうか。残念ながらさっぱりであった。公開前は、色々な劇場で死ぬほど流れていたトレイラーを観てスルーを決めた。どうにも地雷臭がしていたから。今あらためて観ても、やはりこれは地雷である

 

あらすじ

メアリ・スミス(杉咲花)は、黒猫に導かれて迷い込んだ森の中で、7年に1度しか咲かない不思議な花「夜間飛行」を発見する。それは、かつて魔女の国から持ち出された秘密の花だった。一夜限りの魔法の力を手に入れたメアリは、雲の上の世界でエンドア大学へ入学する。しかし、そこにはある秘密があり・・・

 

ポジティブ・サイド

スペクタクルとして過不足なくまとまっているので、大人でも子どもでも、飽きることなく観ることができる。古い洋館、鬱蒼とした森というだけで、なにか冒険に誘われているように感じる人は多いことだろう。某都知事の言う「特別な夏」(こんなものはただの言葉遊びだと思うが)ではない普通の夏であれば、多くの都会っ子が田舎に赴き、ひと夏の冒険に興じる時期である。本作からは、特に強く子ども向けのまなざしを感じる。

 

メアリやその大叔母さんシャーロット、召使いのバンクス、園丁のゼベディさんも素朴で純な良いキャラクターたちである。現実世界がどうかは別にして、どこか退屈な人間界とエキサイティングではあるが邪な気を感じさせるエンドア大学の教師たちの対比が映える。

 

クライマックスからの展開もスピーディーで良い。だらだらと見せ場になりにくいシーンをつなぎ続けるのではなく、きりの良いところでスパッと終わるのも大切である。

 

ネガティブ・サイド

冒頭からエンディングまで、驚くほど、いや呆れるほどの過剰なまでの先行ジブリ作品へのオマージュに満ち満ちている。いや、これはもうオマージュではなくパッチワークである。オープニングからして『 天空の城ラピュタ 』でシータが飛行船の窓から逃げるシーンであり、そこからホウキにまたがって逃げるシーンは『 魔女の宅急便 』、そして追撃してくるのは『 千と千尋の神隠し 』から抜け出てきたかのようなクリーチャー。場面が変わって映し出される洋館の趣は『 思い出のマーニー 』と同じ匂いが漂い、ちょっといけ好かない男の子との出会いは『 となりのトトロ 』のカンタや『 魔女の宅急便 』のトンボのそれとの劣化バージョン。これらが意図的なパッチワークでなければ、米林監督は重度のジブリ・コンプレックスに罹患していたと見て間違いはない。

 

エンドア大学も『 ハリー・ポッター 』のホグワーツラピュタと油屋とその他B級SF映画に死ぬほど登場してきたガジェットのごった煮。そもそもエンドアも『 旧約聖書 』の「サムエル記」に描かれるエン・ドルで、『 スター・ウォーズ 』のエピソードⅥのエンドアの月でもお馴染み。原作の児童小説があるとはいえ、アニメ映画化に際してのオリジナリティはいずこに・・・

 

マダム・マンブルチュークとドクター・デイの追究しようとする究極魔法が“変身魔法”というのも狙い過ぎである。バイオテクノロジーや核技術、コンピュータ技術への皮肉が込められているのは明白であるが、もっとさりげない形で提示できなかったのかと思う。なぜドクター・デイが脳を半分いじくったようなマッド・サイエンティストなのか。脳を改造した設定は、ファンタジーには不要である。また変身がもたらす不幸や悲劇については『 美女と野獣 』がすでに十二分に描いており、なおかつ本作が否定している“変身”そのものの先に幸福があることも示している。変身をテーマにしていながらも、メアリが自分を好きになれない一面である赤毛の扱いが弱い。

 

赤毛についてもう一つ。冒頭で逃走する魔女も赤毛であるが、そのことをもっと大胆に、なおかつさりげなく示しておくシーンは不可欠だった。何故それがないのか。たとえばバンクスさんとシャーロットの会話の中で「私たちも若い頃には・・・」といった台詞などがあれば、中盤の展開にもっと得心がいったはずである。

 

最も腑に落ちないのはピーターとメアリの関係である。メアリが罪悪感に苛まれるところまでは納得できるが、ピーターがメアリを救い出そうと必死になる理由や背景がほとんど見当たらない。ボーイ・ミーツ・ガールにしても不可解だし、それを予感させるシーンもなかった。せめてカンタがサツキに傘を無理やり渡すようなシーンとまでは言わずとも、ほんのちょっとだけでよいので二人の関係性が発展する芽を描いてくれていれば、すべて納得できたはずなのに・・・

 

総評 

大人には大人なりの見方が成り立ち、子どもには子ども向けの見方が成り立つ作品。それを子ども騙しと見るかどうかは受け取り手次第だろう。小学生ぐらいの子どもがいるならば劇場で真正ジブリ作品を見せてやるのがベストだとは思うが、「特別な夏」を#StayHomeで過ごすのならば、本作も一応、選択肢に入るのではないか。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

go in the woods

森に入る、の意味。同じく、go into the woodsもよく使われる。『 もののけ姫 』に出てくる、人里離れた森は forest 、人の住むところの近くにある森は woods であると理解しよう。

 

現在、【英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー】に徐々に引っ越し中です。こちらのサイトの更新をストップすることは当面はありません。

I am now slowly phasing over to https://jovianreviews.com. This site will continue to be updated on a regular basis for the time being.