Jovian-Cinephile1002’s blog

古今東西の映画のレビューを、備忘録も兼ねて、徒然なるままに行っていきます

『 アメリア 永遠の翼 』 -典型的女性賛歌だが、視聴価値は有り-

アメリア 永遠の翼 65点
2019年5月22日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:ヒラリー・スワンク リチャード・ギア ユアン・マクレガー
監督:ミーラー・ナーイル

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Jovianは時々、英語のテストであるTOEFLを教えるが、過去問や問題集に決まって出てくる人物が何名かいる。おそらく女性で最もフォーカスされているのは、20ドル札に載ることが決まっていて、映画『 Harriet 』が2019年11月1日にアメリカで公開予定のハリエット・タブマンと、(アメリカでの)女性パイロットの先駆けであり、2018年に機体および遺体の一部が発見されたとされるアメリア・エアハートである。本作はそのアメリアの伝記映画である。

 

あらすじ

1937年、飛行家のアメリア・エアハートは世界一周を達成すべく飛び立った。二度と着陸することなく、彼女は消息を絶った。彼女の人生とは、いかなるものだったのか・・・

 

ポジティブ・サイド

まずビジュアル面でのアメリア・エアハートの再現度合いが素晴らしい。ヒラリー・スワンク以外に誰が彼女を演じられようか。メイクアップ・アーティストの助けがあれば、サム・ロックウェルジョージ・W・ブッシュを、クリスチャン・ベールディック・チェイニーを演じられることは『 バイス 』でも証明された。しかし、本当に求められるのは、外見ではなく内面からにじみ出てくるものを再現することで、その意味でもヒラリー・スワンク以外に適任はいなかっただろう。溢れる自信、しかしその心の奥底にある満たされなさ、結婚という因習に囚われない自由な精神、その一方で誰かをひたむきに愛する心も忘れない。このアメリアの、いわば二重性を帯びた性格や行動が、夫となるパットナム(リチャード・ギア)との関係とクライマックスの対話で最もドラマチックな盛り上がりを見せる。Jovianの先輩には自衛隊の輸送機パイロットをしていた方がいるが、その奥様はいつもその仕事を辞めてもらいたがっていた。航空業界では「空を飛ぶのが危険なのではない。墜落するのが危険なのだ」と言われるらしいが、そんなことは一般人からすればどうでもいいことだ。しかしアメリアのような飛行家にとっては、空を飛ぶこと=生きること、パットナムのような実業家にとっては彼女を支援すること=生きることだった。この二人の愛の形がすれ違う様には、哀愁とそれゆえの普通の夫婦にはあり得ない深い愛情が感じられる。趣もプロットも媒体も異なるが、先へ進もうとする女とそれを追いかけてサポートする男という構図に興味のある向きは、小川一水の小説『 第六大陸 』をどうぞ。

 

Jovianは1995年にアメリカ旅行をした時、グランド・キャニオン上空をセスナ機で遊覧飛行したことがある。その時のパイロットは、おそらく40歳前後の女性だったことをよく覚えている。彼女も、アメリアの遺児で後継者だったのだろう。そんなことを、本作を観て、ふと思い出した。

 

ネガティブ・サイド

劇中で何度かチャールズ・リンドバーグが言及されるが、彼が妻アンと共にがソビエトで受けた衝撃、すなわち女性パイロットがごろごろいて、彼女たちは男性並みにガンガン空を飛んでいた、という描写はさすがに入れられなかったか。興味のある方は、アン・モロー・リンドバーグを調べて頂きたい。

 

飛行シーンのいくつかがあまりにも露骨に合成およびCGである。空を飛ぶ飛行機の描写こそが本作の映像美の肝になるところなのだから、このあたりをもっと追求して欲しかった。『 ダンケルク 』の最終盤でも燃料切れのプロペラ機がまっすぐに滑空するシーンがあったが、あれよりも酷い合成だと言ったら、お分かりいただけるだろうか。

 

不謹慎かもしれないが、劇中で飛行機がトラブルを起こす、もしくは墜落するような描写が極めて少ない。航空機は最も安全な乗り物であることは知られているが、その一方で最も悲惨な事故を起こす乗り物でもあり、また最も捕捉が難しい乗り物でもある。航空機に関するあれやこれや、計器類の多さ、それらを読み解く難しさ、天測の重要性と困難さ、機体バランスを保つための工夫(メモ用紙のやり取りなどは好例である)の数々などを、もっと描写してくれていれば、アメリアの悲劇的な最後にもっとサスペンスとドラマ性が生まれたものと思う。

 

総評 

2017年は大型旅客機の墜落事故が世界でゼロだったことが話題になった。一方で、同じ年にはオスプレイなる機が度々事故を起こしていた。空を飛ぶということの素晴らしさと怖さを我々はもう一度、知るべきなのだろう。奇しくも昨年2018年に、アメリア・エアハートの遺骨が発見されたとの報がもたらされた。本作製作からちょうど10年。あらためて再評価がされても良い作品なのではないだろうか。

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『 アメリカン・アニマルズ 』 -構成は見事だが、ストーリーは拍子抜け-

アメリカン・アニマルズ 50点
2019年5月19日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:エバン・ピーターズ バリー・コーガン ブレイク・ジェナー ジャレッド・アブラハムソン
監督:バート・レイトン

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シネ・リーブル梅田で始めたチラシを手にした時、これは面白そうだと予感した。しかし、Hype can ruin your experience. バッド・ジーニアス 危険な天才たち 』の水準を期待すると拍子抜けさせられる。本作の見せ場は、罪を犯した本人たちの回想録的なドキュメンタリーを含むところであって、本編の犯行のレベルの高さではない。

 

あらすじ

ウォーレン(エバン・ピーターズ)とスペンサー(バリー・コーガン)は、大学に進学したものの、キャンパスライフに馴染めずにいた。ある時、ウォーレンは大学の図書館に18世紀に書かれた稀覯本があるのを知り、それらを盗み出す計画を立てることに・・・

 

ポジティブ・サイド

犯罪にも色々ある。警察や法律家に言わせれば違うのだろうが、立ち小便は犯罪、少なくとも重犯罪ではないだろうし、盗んだバイクで走り出すのも若気の無分別で済ませてもらえるかもしれない。しかし、チャールズ・ダーウィン直筆の書物を盗み出して、闇マーケットで売り払い、大金を儲けてやろうというのは、どう考えても重犯罪だ。それを敢えてやろうというのだから、その意気やよし。存分にやってくれ。事実は小説よりも奇なりと言うが、大馬鹿と馬鹿と馬鹿と小利口者が計画をあれこれと練っていくシーンはそれなりに楽しい。また、役者たちの演技シーンと本人たちへのインタビューシーンが交互に切り替わるタイミングが絶妙で、重要文化財窃盗を決意する過程、そして何故それを実行に移してしまったのかという心情が赤裸々に語られるのがありがたかった。Jovianはビジュアル・ストーリーテリングを重要視するが、複雑な入れ子構造の映画も好きなのである(『 メメント 』みたいな晦渋過ぎるのは勘弁だが)。

 

本作は、アメリカの片田舎のアホな大学生がアホなノリでアホなことをやらかしてしまったという意味だけで観るべきではないだろう。内輪の仲間だけでシェアするつもりだったバイト先での愚行・・・というのとも少し違う。話を超大げさに拡大して受け取るならば、大日本帝国第二次世界大戦に揚々と参戦していったのと同じような思考の過程、行動様式、組織構造を見出すこともできるのではないか。事前の調査不足もさることながら、これで上手く行く筈がないと誰もが思いながら、なかなかそれを言い出せない。それをようやく言い出せても、声がでかい奴に押し切られる。まるでどこかの島国のかつての軍上層部とそっくりではないか。そして、このアニマルズが服役を経ても、芯の部分では藩政をしていないのではないかと思わせるところに本作の妙味がある。あの窃盗事件の真実とは何か。『 アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル 』と同じく、事実ではなく真実を追求しているということを鑑賞中は念頭に置かれたし。

 

ネガティブ・サイド

オーシャンズ11 』や『 オーシャンズ8 』、『 ジーサンズ はじめての強盗 』のような華麗にして緻密な組織犯罪を期待するとガッカリするだろう。というよりも、計画のあらゆる部分に無理があり過ぎる。アホな扮装をした中年ジジイ4人組が図書館に入ってくれば、何をどうやっても注目を集めてしまうし、よしんばそれで学生たちの目を欺けたとしても、逆にそれだけ強い印象を残してしまえば、警察がしらみつぶしに在校生のアリバイを調べていけば、捜査線上に自分たちが浮上してくるということに気付かないのか。神風など、そうそう吹くものではないのだ。

 

再現ドラマパートと本人たちへのインタビューによるドキュメンタリーパートを混在させるのは、非常に面白い野心的な構成だが、本編ドラマでもっと凝ったカメラワークが欲しかった。なぜ自分たちは満たされないのか。なぜ自分たちは特別になれないのか。自分たちと特別な人間の境目は何か。逆に、自分たちは凡百の人間ではない、あいつらとは違うんだ、という中二病全開思考を表すようなショットが欲しかった。キャンパスの芝生に寝そべって、他愛もないおしゃべりに興じる大学生たち、といった平凡な、しかし色鮮やかなショットが効果的にちりばめられていれば、アニマルズのダメさ加減や哀れさがもっと際立ったであろう。

 

総評

高く評価できる部分と、そうではない部分が混在する作品であり、評価は難しい。しかし、鑑賞後のJovianの第一感は「何じゃ、こりゃ?」だった。シネ・リーブル梅田推しの作品でも時々ハズレはあるのである。しかし、単なる物語の再構築以上に、危険な思考の陥穽、まとめ役あるいは諌め役の欠如したチームの末路など、教訓を引き出すには良い作品であるとも感じられるようになった。マニア中のマニアであれば、『 ブレア・ウィッチ・プロジェクト 』と比べてどっちが f**k という言葉をより多く使ったか調べてみるのも一興かもしれない。

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『 コレット 』 -震えて眠れ、男ども Again-

コレット 70点
2019年5月19日 大阪ステーションシティシネマにて鑑賞
出演:キーラ・ナイトレイ
監督:ウォッシュ・ウエストモアランド

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タリーと私の秘密の時間 』で描かれた男という生き物の生活能力の低さと、『 天才作家の妻 40年目の真実 』で晒された男という生き物の病的に肥大化しやすいエゴが、本作によってまたも満天下に晒されてしまった。Jovianが鑑賞した劇場でも、お客さんの7割5分は女性であった。男は本能的、直観的に本作を避けているのだろうか。

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あらすじ

 

自然豊かな地方で育ったガブリエル・コレットキーラ・ナイトレイ)は、物書きのウィリーとの結婚により、花の都パリに移り住む。ウィリーはコレットの文才を見抜き、彼女に「クローディーヌ」シリーズを代筆させる。しかし、浪費家な夫と才能豊かな妻は徐々にすれ違い・・・

 

ポジティブ・サイド

フランスの作家で読んだことがあるのは、マルセル・プルーストアルベール・カミュジャン=ポール・サルトルセバスチャン・ジャプリゾ、ジョルジュ・ランジュラン(彼は少し違うか)ぐらいだろうか。シドニー=ガブリエル・コレットという作家は始めて知った。ディズニーは作品の映画化に際して盛んにフェミニスト・セオリーを実践しているが、世界にはまだまだ発掘されるべき女性がいるものである。

 

キーラ・ナイトレイは、言葉は悪いが薹が立ってきたなと感じていた。しかし、本作では片田舎の純朴そうな少女から、パリのサロンでも堂々と立ち振る舞う淑女に、そして年上の夫を容赦なく怒鳴りつける芯のある妻に、そして自らの才能と能力を駆使し、心が命じるままに寝るべき相手や仕事を共にする相手を選ぶという強かさを備えた個人を見事に具現化した。ジェニファー・ローレンスが『 レッド・スパロー 』で我々の度肝を抜いたほどではないが、久々に胸も晒してくれる。彼女は色気、色香、艶というものをボディライン、スタイルの良し悪しではなく、大げさな言い方をすれば生き方そのもので体現してくれる。

 

それにしても、ダメな男、ダメな夫をあらゆる意味で具現化するドミニク・ウェストの芸達者ぶりよ。飴と鞭ではないが、折檻と愛情の両輪で、金のなる木である妻をコントロールしていたはずが、いつの間にか自分という人間の醜さ、弱さ、至らなさというものがどんどんと浮き彫りになってくるという展開には、昭和や平成の初め頃まで量産されていた、ヤクザ映画、任侠映画にそっくりだなと思わされた。どういうわけか女性という生き物には、男がふとした弱さを見せると、そのギャップにコロッといってしまう傾向がある。一方で、本作のコレットはそうした女性性を持ちつつも、女性であることを軽々と超えていく強さと自由な精神も有している。この男女の奇妙な夫婦関係は最終的に破局に終わるわけだが、結婚という奇妙な因習の限界と奥深さを表しているとも言える。共働きの夫婦で鑑賞して観れば、自分達の新たな一面に気付かせてくれるかもしれない。または、性生活、もしくは子どもを作る作らないで互いの考えに微妙な齟齬がある夫婦で鑑賞するのもありだろう。そう、子どもである。パリの文壇を席巻するのみならず、一般女性の偶像にまで昇華されたクローディーヌというキャラクターは、コレットの子どもなのだ。娘なのだ。冒頭で描かれるコレットの両親の関係、コレットとの親子関係に是非とも注目をしてほしい。そして、親にとって子とは何か。子を産み育てるのに、男はどこまで必要なのかという根源的な問いに、コレットの生きざまは一つの示唆的な答えを与えてくれる。クライマックスのキーラ演じるコレットの内面の吐露をしっかりと受け止めて欲しい。本作を観たからと言って夫婦関係に亀裂が入るようなことはない。むしろ、夫婦の対話、向き合い方について学べるはずだ。独身はパートナーと、既婚者は配偶者と観るべし。

 

ネガティブ・サイド

なぜフランス映画界は、ガブリエル・コレットその人の映画化を英米に委ねてしまったのだろうか。フランス人が脚本を作り、フランス人が演じ、フランス人が監督した「コレット映画」を観てみたかったと思うし、フランスversionが製作されるなら、喜んでチケットを買わせてもらう。立ち上がれ、フランス映画界よ! This begs for a French remake, c'mon!

 

クローディーヌというキャラクターもの以外の作品が当時のパリおよびフランスでどのように受け止められたのかを、劇中でもっと知りたかったと思うし、コレットの華やかにして異端児的な恋愛遍歴についても、もっと描写が欲しかった。というか、このような立志伝中の人物を描写するのには2時間ではそもそも不足だったか。パントマイムや両刀使いの描写をばっさりと切って、「クローディーヌ」シリーズの生みの親としての顔にフォーカスしても良かったのではないかと思う。さあ、フランス映画界よ、リメイク製作の機運は高まっているぞ。It’s about f**king time for a remake, French cinema!

 

総評

天才作家の妻 40年目の真実 』と同じスコアをつけさせてもらったが、エンターテインメント性では本作が優る。女性という生き物が生物学的に優れている(=子どもを産める)ことのみならず、個としての強さと弱さの両方を併せ持ち、それでいて夫婦というものの在り方についても教えてくれる、貴重な伝記映画である。単なる女性のエンパワーメント映画ではないので、男性諸氏も臆することなく劇場へと向かうべし。

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『 居眠り磐音 』 -“陽炎の辻”前日譚、または坂崎磐音は如何にして脱藩して浪々の身になったか-

居眠り磐音 75点
2019年5月18日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:松坂桃李 芳根京子 南沙良
監督:本木克英

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山本耕史から松坂桃李へと確かにバトンは受け渡された。長谷川平蔵水戸光圀など、役者を変えながらシリーズを存続させていく、あるいはリメイクし、あるいはリブートするというのは古今東西で用いられてきた手法である。それが奏功する場合もあれば、盛大に失敗することもある。テレビドラマから銀幕へと移ってきた本作はどうか。成功である。

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あらすじ

江戸勤番を終えた坂崎磐音(松坂桃李)とその仲間達。幼馴染であり、これからは祝言を挙げて義理の兄弟にもなろうという時に、ちょっとした行き違いから互いに斬り合うことに。親友を斬ってしまった磐音は、妻となるべき奈緒芳根京子)の元をも去り、江戸で浪々の身になっていた。そんな時、磐音に両替屋の用心棒にならないかとの誘いがあり・・・

 

ポジティブ・サイド

まずは何をおいても、ピエール瀧の代役を務めた、というよりも取り直しによって作品の質をさらに高めてくれた(勝手にそう断言させてもらう)奥田瑛二に満腔の敬意を表したい。『 ゲティ家の身代金 』で、ケビン・スペイシーの代役を務めたクリストファー・プラマーと同じく、彼の仕事は本作の骨格をより太くしてくれた。

 

そして芳根京子奥田瑛二が相対するシーンでの彼女の涙。喜怒哀楽は演技の基本にして究極だが、芳根がこのロングのワンカットで流す涙は、『 君の膵臓をたべたい 』で北村匠海が桜良の家で流す涙のドラマチックさに匹敵する。芳根には、今後はあまり女子高生役などは引き受けることなく、本格路線を目指してほしい。その時は、Joviam一押しの南沙良も一緒に連れて行ってあげて欲しい。

 

そして山本耕史からのバトンを見事に受け継いだ松坂桃李も称えたい。ドラマ版では柄の部分をシャキーンと持ち変えて開眼するスタイルだったのを、剣をまるで杖であるかのように扱う様が妙にシネマティックで銀幕に映えたのは、松坂の雰囲気と撮影監督の手腕であろう。また磐音が強すぎないのも良い。ドラマ版を毎回欠かさず観ていたわけではないが、昼行灯の磐音の描写は映画版の本作の方がより説得力があった。鰻を黙々と捌く手つきに職人気質がありありと感じられながら、長屋暮らしには生活感が欠けており、生活力がありそうなのに無い、しかし仕事はきっちりやるという、磐音の本質が見事に描写されていた。そんな磐音のチャンバラでも、適度に負傷するのも良い。何食わぬ顔で「浅手じゃ」と、おこんに告げるところでも、実はこの男が木刀剣術、道場剣術のみの男ではないことを間接的に告げており、心憎い演出。今、日本映画における侍ヒーローと言えば、坂崎磐音か緋村剣心だろう。

 

監督は『 空飛ぶタイヤ 』で、巨大な組織と個人との関わりについて非常に大きな示唆を残した本木克英。今作では江戸幕府や豊後藩という巨大な体制と、江戸の町人連中の中に生きる浪々の侍を活写した。会社勤めのサラリーマンが思わぬ形で同期を危地に追いやってしまい、それを苦にした本人も退職。フリーター生活を送るうちに、大企業や政府の巨大な陰謀を巡る、一般庶民の代理権力闘争に巻き込まれていくという具合に読み替えていくこともできた。それもこれも、磐音の剣の実力と、実直さ、誠実さ、勤勉さといった人間力に依るところが大きい。腕は立つが決して無敵ではなく、頭は切れるが、決して利得のみを計算することはしない。この新時代のヒーローは、社畜サラリーマンの心にかなりの確率で突き刺さるだろう。

 

ネガティブ・サイド

まずはトレーラーや予告編がよろしくない。ほとんど全部、話の筋がばれてしまっているではないか。特に奈緒を花魁にするシーンなどは、予告編には無用だろう。また、その奈緒が豊後の国家老の宍戸文六の“援助交際”の申し出を断るシーンは剣劇さならがの迫力だったが、全体を通して見ればノイズだったのかもしれない。

 

銭の妖怪と化した柄本明も凄みを見せつけるが、断末魔が間延びしすぎだ。磐音のトラウマを抉るような発言などしなくとも、観る側は人を斬るたびに磐音がトラウマを呼び起こされることなど百も承知である。受け手をもっと信頼した作りにしてもらいたい。熱演すればするほど、ストーリーテリングを壊してしまっていた。

 

また磐音と幼馴染たちの一人称が一定していないところも少し気になった。冒頭では「オレ」なのに、その後は「ワシ」になっていた。

 

総評

細かい部分に不満はあるものの、素晴らしい作品に仕上がっている。奈緒とおこんを巡る続編も観てみたいし、その時はパラレルワールドな展開を夢想したいと思う。芳根京子奥田瑛二と来ると、どうしても『 散り椿 』を思い出されるが、侍のパトスとエートスについては本作の方が上質な描写をしている。

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『 ザ・ミスト 』 -フランス産パニック・ムービーの珍作-

ザ・ミスト 40点
2019年5月17日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:ロマン・デュリス オルガ・キュリレンコ
監督:ダニエル・ロビィ

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TSUTAYAは時々、TSUTAYAだけでしかレンタルできません!的な作品を出してくる。本作もその一つ。大体において、この手の商品はただの製品であって作品ではないことが多い。が、Sometimes, I am in the mood for garbage. 駄作と分かっていて観るのも、亦悦しからずや。

 

あらすじ

マチュー(ロマン・デュリス)とアナ(オルガ・キュリレンコ)には、免疫疾患のため、金魚鉢的なコンテナに隔離された娘がいた。ある時、パリが地震に見舞われ、地下から謎の霧が噴出。それを吸った人々は倒れていく。娘は無事だが、機械のバッテリーがもたない。愛娘を助けるべく、マチューとアナは霧と対峙するが・・・

 

ポジティブ・サイド

ゲティ家の身代金 』のチンクアンタを熱演したロマン・デュリスが本作でも額に汗して、子どもを守ろうとする。火事場の馬鹿力ならぬ霧場の馬鹿力で、一般人では少々無理目なアクションを易々とこなしていく・・・というような安易な展開を見せないところが良かった。リミッターが外れれば、ひょっとしたらこれぐらいなら出来るかもしれないと思わせてくれた。

 

また、金魚鉢に閉じ込められた娘が同病相哀れむように同じ疾患を抱える他の者と通信していることに意味があることも評価できる。単なるパニック・ムービー、もしくはディザスター・ムービーの場合、多くの場合は自然 vs 文明、地球 vs 人間 といったような単純、単調なテーマがモチーフになっている。謎の霧の正体は何か?いつ、どこで、どのように発生したのか?そんなことは追及しない。このあたりがハリウッド映画とフランス映画の違いなのだろう。小説にしろ、映画にしろ、人間関係を広げ過ぎず、なおかつそこにエスプリを織り交ぜてくるのがフランス流で、フランス料理のフルコースとフランス産の映画、小説は全く趣が異なる。アメリカ映画で胃もたれをおこした時には、フランス映画で中和するのも一つの手かもしれない。

 

ネガティブ・サイド

パニック・ムービー、スリラー映画とはいえ、キャラクター達の行動原理がよく分からない。いや、子どものために必死になっているということは分かる。しかし、合理的とはとても言えない行動の数々を選択するのは何故なのか。単にサスペンスフルなシーンを演出したいがためにしか見えなかった。娘のための防護服が破損していても代用品はある。例えば、『 MEG ザ・モンスター 』でも一瞬映っていたアクアボールなどは、いくらパリが海から遠いとはいえ、冷静に考えればどこかしらで調達はできるアイテムだ。変に街をかけずり回るよりも、知識と知恵をフルに活用するような展開をもっと織り交ぜられたはずだ。

 

母親の行動も、美しいと見る向きもあれば、???となる向きも多かろう。Jovianは後者である。必要なのは電池であって伝者ではない。これも無用なドラマを無理やり仕立てるというプロットありきで、人間を描くことには失敗していたように思う。

 

字幕で父親が軍隊に、「自己免疫疾患の娘がいる」と言っていたが、これは誤訳ではないだろうか。自己免疫疾患は自分の免疫系が、細菌やウィルスではなく、自分の細胞を排除の対象として攻撃してしまう疾患だからだ。もちろん、隔離に意味が無いとは言わないが、それなら娘に必要なのは免疫抑制剤なのでは?と思えてしまった。フランス語に堪能な方がおられれば、是非お確かめ頂きたい。ただし、名作傑作と言える類の映画でないことだけはご承知いただきたい。

 

総評

それなりに捻りの効いたオチもあるが、それもオリジナルというわけではない。これなら、小松左京の小説およびその映像化作品の『 首都消失 』(YouTubeで視聴可能)を鑑賞し、返す刀でハヤカワSF文庫の『 アトムの子ら 』を読んだ方が面白いだろう。あれ、微妙にネタばれしてしまったかな?どちらも相当に古い作品なので、お目こぼしいただきたい。

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『 ソラニン 』 -青春モラトリアム映画の良品-

ソラニン 70点
レンタルDVDにて鑑賞
出演:高良健吾 宮崎あおい 桐谷健太
監督:三木孝浩

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Jovianは高良健吾を高く評価している。三木孝浩監督については、まだ評価は定まっていない。『 坂道のアポロン 』、『 ぼくは明日、昨日のきみとデートする 』は良作、『 先生! 、、、好きになってもいいですか? 』、『 アオハライド 』は駄作、『 ホットロード 』、『 青空エール 』は凡作であると思っているからである。ちなみに『 フォルトゥナの瞳 』を観るつもりはない。原作者を好きではないからである。

 

あらすじ

バンドのヴォーカル兼ギタリストの種田(高良健吾)は、アルバイト生活をしながら音楽に夢を見続けていた。そんな彼と同棲している芽衣子(宮崎あおい)は、OL生活二年目にして要領の悪い生き方、働き方をしていた。そんな芽衣子がある日、会社を辞めてしまう。経済的に不安定になる二人。しかし、種田は音楽に賭ける決心をして・・・

 

ポジティブ・サイド

チワワちゃん 』とは一味違った青春模様である。といっても、ほとばしるエネルギー、若気の至り、といったような青春の正の面にフォーカスするのではなく、かといって無分別さのような負の面にフォーカスするでもなく、モラトリアム的な時間をいかに生きるべきかに光が当たる。Jovianはいわゆる就職超氷河期の人間だが、確かに大学4年生や社会人1~2年生というのは、子どもでもない大人でもない宙ぶらりんの存在である。小説および映画の『 何者 』ではないが、本当に何者にもなれていないのである。自分の可能性を追求できる最後のチャンス、それがこの時期なのだ。種田と芽衣子の関係の強さが、どこか儚げでどこか朧げなのは、二人の可能性が追求されていないからなのだ。そのことがほんのちょっとした言葉のやり取りや表情、立ち居振る舞いに表れている。種田の無邪気な笑顔は確かにパートナーをエンパワーしている。しかし、経済的に自立できていない以上、そこに説得力は無い。しかし、若さがある。そこにはポテンシャルが確かにある。そうした二律背反的な不安定さを種田と芽衣子のみならず、ドラムの桐谷健太やベースの近藤洋一も持っている。彼らが実家の薬局を継いだり、就職先を決めていくことは、彼らの音楽的な可能性、音楽で生きる未来像が閉じていくことと同義である。それは若さへの決別でもある。しかし、音楽によって永遠を生きることも可能なのではないか。そのことを非常に婉曲的に示唆したの『 A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー 』であり、圧倒的なリアリティで主張したのが『 ボヘミアン・ラプソディ 』ではなかったか。少人数の間の濃密過ぎず薄すぎない人間関係の描写がコンパクトで心地よい作品である。

 

ネガティブ・サイド

うだつの上がらないOLの芽衣子が「辞表」を出すのはどういうわけなのだ?そこは「退職願」もしくは「退職届」だろう。脚本およびそれの校正担当者の重大ミスである。

 

宮崎あおいの歌唱力は、もう少し鍛えられなかったのだろうか。『 リンダ リンダ リンダ 』のペ・ドゥナのような野性的な歌唱でも良いから、魂の叫びが聞いてみたかった。

 

桐谷健太は、もっとドラムでもって心情を語らしめることができたはずだ。『 TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ 』でも見事な腕前を披露してくれたのだから、部屋で雑誌の山をベシベシ叩くだけではなく、色んなものをぶっ叩くシーンがあっても良かったし、ラストのステージシーンでも、芽衣子に声をかけるのではなく、シンバルでも一発バーンと気付けに鳴らしてやればよかったのではないか。音楽にフィーチャーした映画なのだから、そうした演出がもっと必要だった。

 

総評

宮崎あおいの若々しさと高良健吾の若さ。この二つが良い感じにブレンドされた作品である。音楽に生きる男とそれについて行く女という構図は『 アリー / スター誕生 』とそっくりだが、こちらの方が個人的には面白さは上であると感じる。

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『 ドント・ウォーリー 』 -車椅子エンターテインメントの佳作-

ドント・ウォーリー 70点
2019年5月12日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ホアキン・フェニックス ジョナ・ヒル ルーニー・マーラ
監督:ガス・ヴァン・サント

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原題は“Don't Worry, He Won't Get Far on Foot”である。つまり、「心配無用。あの男は遠くまでは歩けない」ぐらいであろうか。障がい者を扱う作品は近年、特に増えてきている。本作はしかし、アルコール依存など諸々の別テーマも放り込んでくる興味深い作りになっている。

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あらすじ

ジョン・キャラハン(ホアキン・フェニックス)は常に酒びたりのアルコール依存症。酒屋で酒を買うときにも手の震えが隠せない末期症状だ。そんな自堕落な男がとあるパーティーの帰り道、同乗者の飲酒運転で事故に遭い、胸から下が不随になってしまう。しかし彼は、新たに手に入れた車イスと風刺画の才、そしてアルコール依存脱却を目指すグループの人間関係で、第二の人生を歩んでいく・・・

 

ポジティブ・サイド

ホアキン・フェニックスの熱演よりも、ジョナ・ヒル演じるドニーの度量の大きさ、その器の大きさと小ささ、慈しみとその源泉たる悲しみ、語り口、表情などが圧倒的な迫力で迫ってきた。これは本当にジョナ・ヒルなのか。彼のファンならば決して見逃してはいけない。そう断言できるほどの会心の演技を披露してくれた。

 

主演のホアキン・フェニックスも魅せる。我々は障がい者に何らかの清い属性を投影しがちである。そのことは『 アイ・アム・サム 』や『 フォレスト・ガンプ 』などの作品を観ればよく分かる。一方で実在の障がい者を描いた作品は、彼ら彼女らの苦悩や人間的にごく自然で基本的な欲求を満たせないことから来るストレスなどを真正面から描く。『 ブレス しあわせの呼吸 』や『 こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話 』が好例であろう。ジョン・・キャラハンという主人公が自分では酒瓶を開けることができず、満足に動かせない手でボトルを掴み、コルクに齧りつく姿は滑稽以外の何物でもない。しかし、その姿に我々が見出すのは酒に溺れた憐れな男ではなく、生命力にあふれるしぶとい男なのである。食欲、性欲、睡眠欲は三大欲求と言われるが、キャラハンの飲酒欲は、彼が確かに生きていることの証明になっている。

 

そしてセックス方面もしっかり経験するから、スケベ映画ファンはそれなりに期待してよい。『 ドラゴン・タトゥーの女 』のレイプ/被レイプのような滅茶苦茶なベッドシーンではなく、非常にマイルドな描写なのであくまでも期待はほどほどに。それにしても、ルーニー・マーラは不思議な女優だ。ある作品では包容力ある大人の魅力ある女性を演じたかと思えば、別の作品ではパンクで過激な一匹狼を演じたりもする。我々にはもっとこういう女優が必要なのである。

 

そして、疾走するキャラハンの車椅子のスピード感よ。車イスと同じく、物語もテンポよくスイスイと進んでいく。ホアキン・フェニックスの近年の作品では白眉だろう。『 グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち 』には及ばないものの、ヒューマンドラマの佳作になっている。

 

ネガティブ・サイド

キャラハンとルーニー・マーラ演じるアンヌの関係の深堀りが見たかった。障がい者のロマンスには、常にサスペンスとスリルとドラマがある。トントン拍子ではないベッドシーンが見たかったと個人的には思う。

 

キャラハンが車イスに適応するまでがかなり短く感じられた。そこはそんなものかと納得できないこともないが、彼の車椅子生活への順応と、周囲の人間のキャラハンへの順応の過程も見たかった。馴染みの店や学校以外の場所でもキャラハンが生き生きとしている描写があれば、彼という人間のリアリティがもっと生み出せたはずである。不世出の天才物理学者スティーブン・ホーキングが車イスで街中を散歩するのが馴染みの光景になっていたように、キャラハンもコミュニティの重要な風景の一部になっていれば、彼の人生の迫真性がもっと増したはずである。

 

総評 

障がいと向き合うというよりも、人生における不運、アクシデントにいかに向き合うのかというストーリーである。アンヌとジョンの関係にもっと迫った作りのストーリー、つまり障がい者のロマンス、またはセックスが見たいという向きはベン・リューイン監督の『 セッションズ 』、松本准平監督の『 パーフェクト・レボリューション 』などもお勧めである。

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