Jovian-Cinephile1002’s blog

古今東西の映画のレビューを、備忘録も兼ねて、徒然なるままに行っていきます

『 ラストサマーウォーズ 』 -「映画を作る映画」の佳作-

ラストサマーウォーズ 70点
2022年7月10日 シネ・リーブル梅田にて鑑賞
出演:阿久津慶人 飯尾夢奏
監督:宮岡太郎

傑作『 成れの果て 』で監督・企画・編集を務めた宮岡太郎が、本作でも監督・企画・編集を務めた。それだけでチケット購入決定。

 

あらすじ

小学6年生の陽太(阿久津慶人)は、同級生の明日香(飯尾夢奏)が夏の終わりに外国に引っ越すことを知り、ショックを受ける。映画好きな陽太は、夏休みの自主研究課題として、明日香をヒロインにした映画を作ろうと思い立つが、肝心のスタッフがいない。陽太は担任に相談するが・・・

ポジティブ・サイド

サマーウォーズ 』や『 永遠の831 』、『 ビューティフルドリーマー 』、洋画で言えば『 SUPER8/スーパーエイト 』のような要素がふんだんに盛り込まれた映画である。「夏」、「少年少女」、「家族」、「映画作り」がハッシュタグにつくような作品と言えばいいだろうか。キーコンセプトが分かりやすく、どこに主眼を置いて鑑賞すれば良いのかが明確である。 

 

この映画なら、主人公の陽太に同化して観ればいい。本作は陽太から明日香への不器用なラブレター作りであり、それはすなわち少年のビルドゥングスロマンである。いわゆる陰キャな少年が想いを寄せる同級生の少女相手に映画を作るというプロットに共感できない者などいないだろう。逆にこの時点で「何だこの子?」と感じるのなら、チケットを買ってはダメだ。時間と金を無駄にすること請け合いである。

 

脚本家やプロデューサー、カメラ・オペレーター、照明などをゲットしていく流れもテンポが速くてよい。脚本家がネットに小説をアップしているアマチュア小説家というのも『 私に✖✖しなさい 』のようなウェブ小説プラットフォームを考えれば、それなりに説得力はあるし、スマホのカメラ、あるいは Zoom や Google Meet を使えば、誰でも一応は動画が作れて、なおかつ YouTube にもアップできる時代である。大学生や高校生ではなく、小学生が数人集まって映画を作るというのは、もはやファンタジーではなくなった。実際に本作にインスパイアされて、夏休みの自由研究で映画を作る少年少女が現れても全く不思議ではない。

 

ロケハンから衣装集めなどは、『 鬼ガール!! 』とは異なったアプローチで、このあたりは埼玉と大阪の地域性の違いが見て取れる。撮影が順調に進んできたところで、アクシデントが発生。このあたりから『 ぼくらの七日間戦争 』的な要素が現れ始める。すなわち、大人への反抗である。といっても暴力的なそれではなく、実に微笑ましいもの。子どもの目からは親が抑圧的に見える時が多々あるかもしれないが、それにはちゃんと理由があるのだ。

以下、少々ネタバレあり

 

ネガティブ・サイド

陽太の家族の因果の描写が少々弱い。たとえば陽太の兄をよくよく見ると、歩くシーンばかりだったり、もしくは食卓のシーンで特定の指が使えていなかったりといった、過去に何らかの(軽い)障がいを負ったことを暗示するような描写を入れるべきだった。それがないと陽太の母親の異様な執着が腑に落ちない。

 

担任の先生と陽太、あるいは脚本の女の子が台本を一緒に読む、あるいはロケ地や撮影の順序について話しているシーンも欲しかった。ほんの数秒でもよいから、そうしたシーンがあれば、終盤のとあるシーンで唐突に先生が陽太とその家族の前に現れるシーンの説明がついたはずだ。これがないと、広い入間で先生がどうやってピンポイントで陽太と明日香のところにたどり着けたのか分からない。

 

総評

入間のご当地ムービーでもありながら、主軸は少女への思慕と家族の再発見を通じたひと夏の少年の成長物語である。つまり万人受けするテーマを描いている。映画を作る映画はJovianの好物テーマだが、本作もなかなかの面白さ。80分と非常にコンパクトにまとまっているのもいい。大人と子どもで、本作の見方はかなり異なることだろう。夏休みに、ぜひ家族でどうぞ。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

a movie buff

映画マニアの意。別に映画に限らず、何らかの分野の熱狂的なファンは buff と呼ぶ。野球マニアなら a baseball buff、F1マニアなら an F1 buff である。

 

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