Jovian-Cinephile1002’s blog

古今東西の映画のレビューを、備忘録も兼ねて、徒然なるままに行っていきます

ラブ×ドック

ラブ×ドック』 35点

2018年5月27日 高槻アレックスシネマにて観賞
主演:吉田羊 野村周平
監督・脚本:鈴木おさむ

*本文中に一部ネタバレあり

 この映画のデモグラフィックは一体どこにあるのであろうか。30代後半~40歳ぐらいの女性がメインターゲットとしてまず思い浮かぶが、その場合、観客は吉田羊に感情移入すべきなのか、それとも大久保佳代子に感情移入をすべきなのか。端的に言えば、Jovianは吉田のキャラクターは全く好きになれなかった。理由は後述したい。

 物語はナレーションで、35歳から40歳の吉田羊演じる郷田飛鳥の人生を描くと宣言するところから始まる。飛鳥がIT社長宅で豪勢な夕食を作って、プロポーズされるのを待つのだが、ここで観客はいきなり飛鳥の本性を見せつけられる。過去に同じ相手からプロポーズを受けた時に、相手の事業がまだ軌道に乗っていないということから結婚に踏み切れなかったが、今やビジネスは順調に拡大、前途にも不安が無さそうだ、となったところで相手の気を惹こうと豪華なディナーを作るところでドン引きである。少なくとも自分は引いたし、嫁さんも引いていた。ある程度の年齢に達していながら独身である、しかし早く結婚したいんだ、という気持ちを爆発させる女子を描いて世界中の女子の共感を得たブリジット・ジョーンズは、女のダメダメな部分を凝縮させたようなキャラがしかし、どういうわけかイケメン2人の間で行ったり来たりをしてしまう、というご都合主義ゆえに大ヒットした。しかし、郷田飛鳥が体現しているのは女のダメな部分ではなくイヤな部分だろう。開始5分でいきなりキャラに嫌悪感を抱かせるとは・・・ ここから鈴木おさむ監督はどのようにひっくり返してくるのか・・・という期待は大いに裏切られるのであった。

 吉田鋼太郎演じるペイストリーショップ経営者との不倫は、色気もなければ罪悪感を感じさせる描写もない。挙句、「どうも奥さんとは別れてくれるっぽいんだよね~」や大久保佳代子演じる親友・細谷千種から注意されても「私は大丈夫だよ」と能天気に返すところなど、イヤな女っぷり全開のまま。もう一度強調しておきたいが、ブリジットがあれだけ世界中の女子から愛されたのは、彼女がダメなところを隠さない女だったからだ。イヤとダメの違いに注意されたい。イヤ=打算的、ダメ=努力できないと考えてもらえればいい。飛鳥と千種の会話から明らかになるが、ミスコンに勝つために美人が少ない(飛鳥曰く「ブスが多い」)大学を選んで入学した、美人が少ない(飛鳥曰く「ブスが多い」)演劇部を選んで入部し、芸能界入りを窺っていた、など観る者をドン引きさせるイヤな要素をこれでもかと並べ立ててくる。このことが後に、飛鳥と千種の対立軸に発展するのだが・・・

 2人目の玉木宏演じるスポーツジムのインストラクターとも、成行きのままにベッドイン。相手は千種がほのかな想いを寄せている男性であると知りつつ、その千種を使って2人きりのデートに持ち込むところなど、この女に罪悪感は無いのかと思わされる。そしてそのまま千種に交際の報告する。絶交される。そりゃそうだ。

 3人目は野村周平演じる星矢。この男が飛鳥の本命にして・・・ あまり書くとレビューを通り越してしまうので控えるが、ここで飛鳥は観る者の共感を決して得られないであろう選択肢を選んでしまう。これまで自分の年齢など気にかける素振りもなかったのに、ほんの少しの出来事でそれまでに築き上げてきた自己像を自ら破壊してしまう。星矢と別れた飛鳥はこれまで以上にパティシエとしての仕事に精を出すものの、そこに予想しなかった客がやって来て・・・

 さて、ここまで長々とレビューを読んで頂いたわけですが、いつになったら物語の焦点であるラブ×ドックが出てくるのかと訝しくなってくる頃でしょう。ご安心めされ。広末涼子の経営するラブ×ドックはあっても無くても物語に特に影響を与えることはない。本来ならば、一人また一人と飛鳥が出会いを経験するたびにラブ×ドックに赴き、何らかのカウンセリングを受けたり怪しげな注射をされたりすることで、事態が思わぬ方向に進展して・・・とならなければおかしいのだが、そんな展開は一切無い。完全に脚本段階でのミスというか、深夜ドラマを2時間枠にしてキャスティングだけ豪華にして作ってみました感が漂っている。これを観るぐらいなら、もっと有意義な金と時間の使い方を探すべきだ。よほど出演者に思い入れがないと、劇場観賞はキツイだろう。