Jovian-Cinephile1002’s blog

古今東西の映画のレビューを、備忘録も兼ねて、徒然なるままに行っていきます

『 春待つ僕ら 』 -あまりにも薄っぺらいバスケと恋愛のコラボ-

春待つ僕ら 40点
2018年12月16日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:土屋太鳳 北村匠海 小関裕太
監督:平川雄一

 

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巷間言われて久しいが、土屋太鳳は本当にもうそろそろ女子高生役は卒業すべきだ。せっかく『 累 かさね 』で一皮むけたところを見せながら、これでは元の木阿弥ではないか。彼女のハンドラー達は何をやっているのだろうか。また、今作も漫画を映画化するにあたって、漫画的な文法を取り入れている。映画と漫画は異なる媒体なのだから、世の映画監督たちはもっと原作者と突っ込んだ議論を行い、おおいに芸術論を戦わせればよい。原作者や原作ファンをリスペクトすることと、彼ら彼女らに阿ることは全くの別物なのだ。

 

あらすじ

春野美月(土屋太鳳)は引っ込み思案な女子。しかし、高校入学を機に自分を変えようと思い、周囲に溶け込もうと努力するも空回り。そんな時、バイト先のカフェで同じ高校のバスケ部の面々と知り合うことに。バスケ部と過ごすうちに確かな変化を実感する美月の前にしかし、幼馴染が現れて・・・

 

ポジティブ・サイド

どうしても題材として同じ競技を扱う『 走れ!T校バスケット部 』と比較せずにはいられない。バスケをプレーしているシーンに限っては、本作の圧勝である。T高の方は、あまりにも珍妙なプレーシーンが多かったし、何よりもストーリーとバスケの試合内容が噛み合っていなかったのが致命的だった。本作は、役者連中にかなりバスケを練習させたと見え、一連のプレーやシュートシーンに合成の類はほとんど無かったように見えた。これは大きな加点材料だ。特に北村匠海磯村勇斗は意外にバスケの動きが様になっている。経験者なのだろうか。

 

また小関裕太も良い味を出すようになった。演技力には改善の余地があるが、何を観ても金太郎飴的な演技しかできないアイドルやなんちゃって役者が跳梁跋扈する日本映画界で、それなりに幅のある役を任せられる(それらを見事に演じ切っているかどうかは別にして)というのは、ポテンシャルが認められてのことだろう。本作でもかなりユニセックスな演技を披露してくれる。来年か再来年には、『 クローズ 』に出ていそうなヤンキー役をやってくれないだろうか。

 

ネガティブ・サイド

これでもかというぐらい欠点や弱点がある作品だが、それらを全て指摘することに意味は無い。なので、どうしてもこれだけは見逃せない、許せないという類のものに焦点を当てたい。

 

まず第一に、北村匠海のキャラ、永久に「寝たらなかなか目覚めない」などという属性付けは必要だったか。そんな『 SLAM DUNK 』の流川の二番煎じキャラに何の意味があるのだ?原作がそうなっているからといって安易にそれを踏襲し、そして肝心の映画ではその属性に何らかの意味があったのだと感じさせるシーンがゼロと来れば、監督に文句の一つや二つも言いたくなる。10巻以上の漫画の物語を2時間という尺に過不足なく収めるのは至難の業だ。それこそが脚本や監督の腕の見せ所のはずなのだが・・・ また同じシーンで美月が「起きて!!」と大声を出すシーンがあるが、これも必要だったか?引っ込み思案で内気な少女が、友情に触れることで変わり、成長し、仲間の応援のために心の底から大声を張り上げられるようになる、という余りにも分かりやすい展開のために、美月の大声はもっと後までとっておくべきではなかったか。といっても、トレイラーで件のシーンはしこたま強調されているので、今更そんな指摘をしても詮無いことではあるのだが。

 

バスケのプレーについては、それなりにリアリティのある絵を撮れていたものの、その他の描写が弱い。というよりも首を傾げざるを得ないものもある、というのが残念である。例えば、いくらアメリカ帰りのバスケの申し子とはいえ、シュート成功率90%はないだろう。NBAのトップ中のトップでもフリースロー成功率が90%を超えるのはイースタンウェスタン、両カンファレンス合わせても毎年10人にも満たないはずだ。それこそシャキール・オニールを日本の高校に連れて来てプレーさせでもしない限り、そんな数字は絶対に生まれない。漫画は漫画であるが、映画とは大きな嘘をつくために細部のリアリティに徹底的にこだわりぬかねばならないのである。

 

最後に、永久と亜哉の 1 on 1 のシーン。何度も倒され、顔に泥がついた永久のシャツがびっくりするぐらい真っ白なのはどういうことなのだろうか。また、「チャラくは無いな、皆マジでバスケやってるから」と豪語する部員たちのスポーツバッグが、夏を過ぎても新品同様にしか見えないのは何故なのか。運動部の連中がバッグを使いこめば、数カ月もすれば、あちらこちらに擦り傷や綻びが目立ってくるものだ。そうした、バスケに費やした時間を観る者に感じさせる小道具が一切出てこないのが最大の減点材料だ。平川監督はそれなりにキャリアがあるが、もう一度、映画監督の仕事とは作品世界を存立させるに足るリアリティを担保することであるということを勉強し直してほしい。

 

総評

40点なのか45点なのか悩んだが、総合的には『走れ!T校バスケット部』と同点か。バスケシーンでは本作の勝ち。バスケ以外のリアリティはT高の方が上。しかし、良作とも光るところはあるものの、欠点の方が大きく目立った。土屋や北村のよほどのファンでなければ、わざわざ劇場でチケット代を払ってまで観ることはない。