Jovian-Cinephile1002’s blog

古今東西の映画のレビューを、備忘録も兼ねて、徒然なるままに行っていきます

『 アメリア 永遠の翼 』 -典型的女性賛歌だが、視聴価値は有り-

アメリア 永遠の翼 65点
2019年5月22日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:ヒラリー・スワンク リチャード・ギア ユアン・マクレガー
監督:ミーラー・ナーイル

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Jovianは時々、英語のテストであるTOEFLを教えるが、過去問や問題集に決まって出てくる人物が何名かいる。おそらく女性で最もフォーカスされているのは、20ドル札に載ることが決まっていて、映画『 Harriet 』が2019年11月1日にアメリカで公開予定のハリエット・タブマンと、(アメリカでの)女性パイロットの先駆けであり、2018年に機体および遺体の一部が発見されたとされるアメリア・エアハートである。本作はそのアメリアの伝記映画である。

 

あらすじ

1937年、飛行家のアメリア・エアハートは世界一周を達成すべく飛び立った。二度と着陸することなく、彼女は消息を絶った。彼女の人生とは、いかなるものだったのか・・・

 

ポジティブ・サイド

まずビジュアル面でのアメリア・エアハートの再現度合いが素晴らしい。ヒラリー・スワンク以外に誰が彼女を演じられようか。メイクアップ・アーティストの助けがあれば、サム・ロックウェルジョージ・W・ブッシュを、クリスチャン・ベールディック・チェイニーを演じられることは『 バイス 』でも証明された。しかし、本当に求められるのは、外見ではなく内面からにじみ出てくるものを再現することで、その意味でもヒラリー・スワンク以外に適任はいなかっただろう。溢れる自信、しかしその心の奥底にある満たされなさ、結婚という因習に囚われない自由な精神、その一方で誰かをひたむきに愛する心も忘れない。このアメリアの、いわば二重性を帯びた性格や行動が、夫となるパットナム(リチャード・ギア)との関係とクライマックスの対話で最もドラマチックな盛り上がりを見せる。Jovianの先輩には自衛隊の輸送機パイロットをしていた方がいるが、その奥様はいつもその仕事を辞めてもらいたがっていた。航空業界では「空を飛ぶのが危険なのではない。墜落するのが危険なのだ」と言われるらしいが、そんなことは一般人からすればどうでもいいことだ。しかしアメリアのような飛行家にとっては、空を飛ぶこと=生きること、パットナムのような実業家にとっては彼女を支援すること=生きることだった。この二人の愛の形がすれ違う様には、哀愁とそれゆえの普通の夫婦にはあり得ない深い愛情が感じられる。趣もプロットも媒体も異なるが、先へ進もうとする女とそれを追いかけてサポートする男という構図に興味のある向きは、小川一水の小説『 第六大陸 』をどうぞ。

 

Jovianは1995年にアメリカ旅行をした時、グランド・キャニオン上空をセスナ機で遊覧飛行したことがある。その時のパイロットは、おそらく40歳前後の女性だったことをよく覚えている。彼女も、アメリアの遺児で後継者だったのだろう。そんなことを、本作を観て、ふと思い出した。

 

ネガティブ・サイド

劇中で何度かチャールズ・リンドバーグが言及されるが、彼が妻アンと共にがソビエトで受けた衝撃、すなわち女性パイロットがごろごろいて、彼女たちは男性並みにガンガン空を飛んでいた、という描写はさすがに入れられなかったか。興味のある方は、アン・モロー・リンドバーグを調べて頂きたい。

 

飛行シーンのいくつかがあまりにも露骨に合成およびCGである。空を飛ぶ飛行機の描写こそが本作の映像美の肝になるところなのだから、このあたりをもっと追求して欲しかった。『 ダンケルク 』の最終盤でも燃料切れのプロペラ機がまっすぐに滑空するシーンがあったが、あれよりも酷い合成だと言ったら、お分かりいただけるだろうか。

 

不謹慎かもしれないが、劇中で飛行機がトラブルを起こす、もしくは墜落するような描写が極めて少ない。航空機は最も安全な乗り物であることは知られているが、その一方で最も悲惨な事故を起こす乗り物でもあり、また最も捕捉が難しい乗り物でもある。航空機に関するあれやこれや、計器類の多さ、それらを読み解く難しさ、天測の重要性と困難さ、機体バランスを保つための工夫(メモ用紙のやり取りなどは好例である)の数々などを、もっと描写してくれていれば、アメリアの悲劇的な最後にもっとサスペンスとドラマ性が生まれたものと思う。

 

総評 

2017年は大型旅客機の墜落事故が世界でゼロだったことが話題になった。一方で、同じ年にはオスプレイなる機が度々事故を起こしていた。空を飛ぶということの素晴らしさと怖さを我々はもう一度、知るべきなのだろう。奇しくも昨年2018年に、アメリア・エアハートの遺骨が発見されたとの報がもたらされた。本作製作からちょうど10年。あらためて再評価がされても良い作品なのではないだろうか。

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