Jovian-Cinephile1002’s blog

古今東西の映画のレビューを、備忘録も兼ねて、徒然なるままに行っていきます

『 ダンス ウィズ ミー 』 -看板に偽りあり-

ダンス ウィズ ミー 45点
2019年8月16日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:三吉彩花 やしろ優 宝田明
監督:矢口史靖

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マンマ・ミーア! 』のレビューで、Jovian個人が選ぶオールタイム・ベストのミュージカルは『 オズの魔法使 』と『 ジーザス・クライスト・スーパースター 』で、次点は『 ウエスト・サイド物語 』であると述べた。ミュージカルというジャンルは、まあまあ好みなのだ。なので、それなりに期待して本作に朝イチで突撃してきたが・・・

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あらすじ

大手商社に勤める鈴木静香(三吉彩花)は、ふとしたことからマーチン上田(宝田明)の催眠術によって、音楽を聴くと歌わずにはいられない、踊らずにはいられない体質になってしまった。街中でも職場でもレストランでも歌って踊ってしまう静香。なんとか催眠を解くために、いんちき催眠助手の千絵(やしろ優)と共にマーチン上田を追うが・・・

 

ポジティブ・サイド

いぬやしき 』で木梨憲武に散々ブー垂れていた女子高生が、わずかな歳月で立派なOLになっていた。女子も三日会わざれば刮目して見なければならないようである。本作の成功は、主役たる三吉彩花の歌唱力とダンス力にかかっている。その意味では、三吉はよく頑張ったと言える。自宅マンションのロビーではパンチラを厭わないスピンを披露し、「お、これは本物か?」と思わせてくれた。カメラ・オペレーターにも“Good job!”と言わせていただく。キム・ヨナが印象的だったが、やはり踊りそのものを魅せるには、スラリと手足が伸びた長身の方が有利である。三吉はまさに適材適所だった。

 

おそらく最も良い仕事をしたのは、やしろ優だろう。一人自家発電、一人自己啓発セミナーができそうなテンションの高さで、「ああ、俺もたまにはこれぐらいポジティブに人生送らなアカンな」と思わされた。彼女の前向きな姿勢に共感する、あるいは胸を打たれる視聴者は多いだろう。仕事にくたびれた社畜リーマンなどは特にそうではなかろうか。人生に疲れていると思うなら、やしろ優にエンパワーされようではないか。選曲も昭和全開なので、30代後半以上なら楽しめるはずだ。

 

ネガティブ・サイド

スウィングガールズ 』の矢口監督はどこに行ってしまったのか。この監督は音楽的なセンスがある人だったはずだ。あの、横断歩道の効果音でジャズのリズムを女子高生たちに感じ取らせる演出には感心したものだった。ならば、音楽を聴くと踊らずにはいられなくなるという体になってしまった静香を、もっともっと思わぬ形で躍らせ、観客をエンターテインしなくてはならない。ここでそう来るか、と感じたのは函館駅の時計ぐらい。それも踊らずに歌うだけ。それを見たムロツヨシが「マジか・・・」と絶句するが、別に衝撃を受けるシーンでも何でもないだろう。ちょっと変な奴だな。ぐらいにしか思わないはずだ。そうではなく、「え、こんなんでも踊っちゃうの?」というシーンが必要だったのだ。極端な例を挙げれば、心療内科を受診する際にMRIで撮影をされたが、そこで出る音にすら反応してしまうぐらいの極端な演出があれば、医師ももっと茫然自失して、匙を投げることができたはずだ。静香がちょっと困った女子にしか見えないのが問題なのである。本当に困っている状態から、旅をするうちに、歌って踊ってしまう体質によって、少しずつ人生を前向きに捉えられるようになっていく。そんなプロットが求められていたはずだ。本作にはそれが欠けていた。

 

その歌って踊って体質が役に立ったという演出も弱い。特にchay演じるギター女子とコラボして投げ銭を稼ぐというのは、アイデアとしては悪くないが、その歌と踊りのクオリティの低さゆえに、かえって作品の面白さを減じている。もっともっと、はっちゃけた歌と踊りが必要だった。思わずおひねりをあげたくなるような歌でも踊りでもなかった。本作のハイライトは、実はトレイラーに収められているオフィスで踊るシーン、そしてシャンデリアを空中ブランコにしてしまうレストランのシーンである。そこ以外に盛り上がらない。

 

いや、それはさすがに言い過ぎか。上でも述べたように、最も良い仕事をしたのはやしろ優であり、彼女の肉感的なダンスは確かに魅力的だった。しかし、ここにトーンの問題がある。容姿にも恵まれず、金銭的にも余裕が余りなさそうな千絵が元気いっぱい幸せいっぱいで、容姿端麗、高給取り(っぽい)静香が足取り重く、心持ちも暗いのだ。途中から、タイトルにある“ミー”とは誰を指すのかが分からなくなった。本作をミュージカルとして鑑賞しようとすると、こうした混乱が必然的に起こってしまう。本作を凸凹コンビによるバディ・ムービー、ロード・ムービーとして見るなら、普通にありである。だが本作は【 最高にハッピーなコメディミュージカル 】と銘打っている。看板に偽りあり、羊頭狗肉である。

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総評

本当なら35点をつけたいところだが、三吉彩花のスタイルの良さとやしろ優の好演で10点オマケしておく。これは韓国かアメリカでリメイクした方が、遥かに面白くなりそうだ。その場合は、『 サニー 永遠の仲間たち 』を手掛けたカン・ヒョンチョル監督か、『 ミッドナイト・サン タイヨウのうた 』や『 ステータス・アップデート 』のスコット・スピア監督にお願いしたい。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

 

「そもそもミュージカルっておかしくない?さっきまでフツーにしゃべってた人が急に歌いだしたりしてさ」

 

For crying out loud, aren’t musicals weird? You are talking, and the next thing you know you are singing!

 

For crying out loudは疑問やリクエストを強調するための表現。the next thing you knowで、「次の瞬間には」ぐらいの意味。こういう会話を逐語訳すると往々にして大失敗する。映画やドラマの台詞を訳そうと思うと、普通の参考書ではなく映画やドラマをたくさん参照しなければならないのだろう。

現在、【英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー】に徐々に引っ越し中です。こちらのサイトの更新をストップすることは当面はありません。

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