Jovian-Cinephile1002’s blog

古今東西の映画のレビューを、備忘録も兼ねて、徒然なるままに行っていきます

『 ターミネーター ニュー・フェイト 』 -アクション○、ストーリー×-

ターミネーター ニュー・フェイト 50点
2019年11月9日 梅田ブルク7にて鑑賞
出演:リンダ・ハミルトン アーノルド・シュワルツェネッガー マッケンジーデイビス ガブリエル・ルナ
監督:ティム・ミラー

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T2の正統的な続編であると散々喧伝されてきた。Jovianは『 ターミネーター 』を親父の持っていたVHSで小5ぐらいに観た。『 ターミネーター2 』は小6の夏休み明けに家族で劇場で観た。両作とも文句なしに傑作だった。では本作はどうか。Twitter界隈や多くの海外レビューにある通り、『 スター・ウォーズ/フォースの覚醒 』そっくりであった。

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あらすじ

審判の日は回避された・・・はずだった。しかし、メキシコに暮らすダニー(ナタリア・レイエス)の元にターミネーターREV-9(ガブリエル・ルナ)が未来から襲来。また、それを阻止すべく強化人間のグレース(マッケンジーデイビス)も未来からやってくる。さらに追い詰められた彼女らの元に、サラ・コナー(リンダ・ハミルトン)が姿を現し・・・

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ポジティブ・サイド

20世紀FOXがまたやってくれた。『 ターミネーター2 』のサラの狂気溢れる語りが、製作・配給・提供会社らのロゴを交えたオープニングシーンと混ざり合い、何とも不思議な感覚を生み出している。『 ピッチ・パーフェクト ラストステージ 』や『 ボヘミアン・ラプソディ 』、『 アリータ バトル・エンジェル 』など、オープニングから物語世界へとシームレスに移行していく試みは歓迎したい。ディズニーのやり方に思うところが無いわけではないが、『 スター・ウォーズ 』の世界観を壊さないオープニングや、20世紀FOXのオープニングの工夫を尊重してくれていることは素直にありがたい。

 

冒頭の若いサラとジョン、シュワちゃん演じるターミネーターのシーンは、最初はT2本編からの削除シーンをあれこれといじくったのかと思ったが、体は別の役者、顔だけCGで貼り付けたという。まるでT4のようであるが、これはこれでありだろう。全ての映画で『 ジェミニマン 』的な手法を取り入れては、カネがいくらあっても足りない。

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今作はアクション開始までの時間が短い。あれよあれよとREV-9の襲撃とグレースの護衛ミッションが始まる。そのアクションはT3以上である。ボディの一部を刃物状に変化させるのは新型ターミネーターのお約束になりつつあるが、そのターミネーターとのチャンバラ的にやり合う序盤と終盤のシークエンスは手に汗握ること請け合いである。またクレーンに吊るされたT-800がビルに叩きつけられのとは違い、グレースは強化人間である。つまり、傷=ダメージである。そのことがアクションシーンに更なるサスペンスを生み出すことに成功している。

 

そして何と言ってもリンダ・ハミルトン、そしてアーノルド・シュワルツェネッガーとの再会には感慨深いものがあった。それはまるで『 スター・ウォーズ/フォースの覚醒 』でハン・ソロが“Chewie, we’re home.”と呟く瞬間であったり、もしくはキャリー・フィッシャーの登場に合わせての“Prince Theme”の流れる瞬間であったり、ルークの登場シーで流れる“The Force Suite”だったり、あるいは『 クリード 炎の宿敵 』のトレーラーがDragoというネーム入りのガウンを見せた瞬間、もしくは『 ブレードランナー2049 』でデッカードが登場した瞬間のような、ノスタルジックな気持ちにさせてくれた。特にリンダ・ハミルトンは、戦う姫のプリンセス・レイア、戦う航海士リプリーと並んで、戦う母親像を本作でさらに solidity したと言える。そしてマッケンジーデイビスの華麗なる変身の何と見事であることか。『 タリーと私の秘密の時間 』でも素晴らしい余韻を残してくれたが、今作では女戦士として見ごたえあるアクションを披露してくれた。

 

全体的には、ノスタルジーに浸るには良い作品に仕上がっていると言えるだろう。

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ネガティブ・サイド

まず、製作総指揮のジェームズ・キャメロンは何をやっているのか。あまりにも過去の作品からのアイデアの流用が多すぎる。と同時に、シリーズの原点を見失ってしまっているようにも感じられる。

 

まずターミネーターという悪役にしても味方にしても味のあるキャラクターの最大の恐怖であり魅力は、文字通り「鉄の意志」で任務を遂行しようとする姿勢にある。T2のターミネーターにあった融通の利かなさ、それは例えばジョンに「片足を上げろ」と言われて、いつまでも上げ続けるところや、「人間を殺さない」という誓いを立てた次の瞬間に発砲し、慌てふためくジョンに「死なないよ(He’ll live.)」と事もなげに言い放つところが、ターミネーターの見た目は人間でも中身はロボットという事実をこの上なく物語っていた。そうしたキャラが涙の意味を理解し、従容としてthumbs-upをしながら溶鉱炉に沈んでいくからこそ、感動が生まれたのではないか。本作はそうしたT-800の魅力の半分を奪い取ってしまっている。メカメカしかった動きをすることなく、犬がなつくT-800には激しい違和感を覚えた。スカイネットが自我に目覚めるならば、T-800が自我に目覚めてもおかしくはない。理屈の上ではそうだが、あまりにも現代的なメッセージを無理やり詰め込んだようにしか思えなかった。そもそもこのT-800ネタもT3から来ている。

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いや、冒頭の工場でのバトルからその後のカーチェイスまで、T1、T2、T3で観たアングルやショットのオンパレードである。オリジナルな要素があまりにも少ない。そもそもREV-9というターミネーター・モデルにしても、T3のクリスタナ・ローケンと『 ターミネーター:新起動/ジェニシス 』でのMRIターミネーターの構図が元ネタであることは想像に難くない。というか、ここまで過去作のモチーフを取り入れるのなら、なぜ味方キャラのいずれかに変身・擬態しないのか。ジェネシスですでにやった?ここまで二番煎じを恥じる必要はないだろう。そもそもジェニシスでも一番盛り上がったのは若アーノルドと老アーノルドの激突だった。ここまで過去作へのオマージュを散りばめるのなら、徹底してやるべきだった。REV-9へのトドメもT3のネタをほぼそのまま流用していたので、尚更にそう感じる。

 

ストーリー上の齟齬も散見される。ダニーとグレースに「あんたらは現代を知らない」と一喝しておきながら、ドローンや衛星を考慮に入れないサラ・コナーに喝!『 デスノート Light up the NEW world 』ではないが、細心の注意を払うのならばサングラスにマスクぐらい着用しろと言いたい。それに、二体に分裂するターミネーターの片方にバズーカを一発命中させたぐらいで余裕かまして“I’ll be back.”はないだろう。呑気すぎるし、あまりにも緊張感に欠ける。この決め台詞はもっと別の場面に取っておくべきだった。

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強化人間グレースに弱点を設定する意味もない。設定するならば梅原克文の小説『 二重螺旋の悪魔 』の神経超電導化のような超反射神経、超運動神経、超回復力で、エネルギー効率が超絶悪い=すぐに水分および栄養分不足に陥るぐらいでよかったのではないか。せっかくの女性版カイル・リースなのだから、人間の人間的な部分、ターミネーターと根本的に異なる部分を前面に押し出すべきだっただろう。中途半端な改造強化人間にしてしまったせいで、T4のマーカス・ライトが反転したようなキャラになってしまった。

 

あとはシュワちゃんがたんまり溜め込んだ武器の使いどころがない。T2で、サイバー・ダイン社の爆破時にT-800が警官隊をサラが収集していた武器の圧倒的な火力で蹴散らしたようなシークエンスを期待したが、それも無し。このシリーズの様式美として、圧倒的な火力の放出があるのだが、それが不十分だった。アクションは足りていた。火力が足りなかった。

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総評

期待にしっかりと答えてくれている面とそうでない面が両極端に綺麗に分かれている。ド派手なアクションを期待する向きにとっては最高の作品だろう。だが、これは凡百のアクション映画ではない。ターミネーターなのだ。シリーズの定跡や様式美を受け継ぐことは当然のこととして、T1やT2を超えてやろうという気概こそが求められていたはずだ。結果としてそれが成し遂げられなくても構わない。そのチャレンジ精神は観る者に伝わる。だが、本作はティム・ミラー監督とジェームズ・キャメロンのケミストリーが、良くない結果につながっているように感じられる。

 

Jovian先生のワンポイントスペイン語レッスン

Vamos.

 

スペイン語で頻繁に用いられる言葉。英語にすると“Come on.”であったり、“Let’s go.”だったりする不思議な表現である。リーガ・エスパニョーラ、あるいはメキシコのボクシングを観戦するという人ならば、馴染みの深い言葉だろう。

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