Jovian-Cinephile1002’s blog

古今東西の映画のレビューを、備忘録も兼ねて、徒然なるままに行っていきます

『 ブラック校則 』 -常識を疑え、行動せよ-

ブラック校則 70点
2021年1月4日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:モトーラ世理奈 佐藤勝利 高橋海人
監督:菅原伸太郎

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縁あって大阪や奈良の高校で英検やTOEICの対策講座を受け持たせて頂いているが、校則というのは学校によってまちまちである。象徴的なのはスマホの扱いだろう。学校に入った瞬間からスマホ禁止、朝のホームルームでスマホを没収する本作さながらの高校もあれば、休み時間は使用OKの学校、放課後になれば校内でも使用可能な学校など様々である。スマホ使用の是非はさておき、スマホを禁じる校則に納得している高校生には、Jovianはまだお目にかかったことが無い。

 

あらすじ

校門で生徒の髪型や服装のチェックに余念がない教師たちを疑問に感じていた創楽(佐藤勝利)は、希央(モトーラ世理奈)という同級生に一目惚れしてしまう。しかし、希央は栗色の髪を黒く染めるようにと指導されていた。希央には地毛証明書が出せないある事情があったのだ。不登校になった希央を救うため、創楽は親友の中弥(高橋海人)とともに、ブラック校則打破のため立ち上がるが・・・

 

ポジティブ・サイド

風の電話 』で存在感を発揮したモトーラ世理奈が、本作でも変わらぬ存在感を見せつける。別に台詞が多かったり、大仰なアクションを演じるわけではない。その逆で、希央が何か長広舌を振るったり、キャットファイトをしたりするシーンなどは存在しない。ほとんど全編を通じて、ただ静かに場面に溶け込んでいるだけで、これほどの存在感を発揮する10代はそれほど多くないだろう。普段が能面のように無表情なため、ほんのわずかに笑っただけでとびっきりチャーミングに見える。生まれながらの美少女には決して出せない魅力が、モトーラ世理奈にはある。今後さらに数多くの作品に出演してほしいものである。

 

生真面目な創楽と脱力系の中弥のコンビも、若手ジャニーズとは思えない演技力。滝沢がトップになったことでルックスやトーク、歌やダンスよりも演技力重視になってきたのだろうか。青春ドラマにありがちな順調な滑り出し、快調に物事が進んでいくが、しかし・・・という展開にならない。最初こそ勢い良く立ち上がったものの、主役とその親友がはっきり言って優柔不断の役立たずである。これはなかなかにユニークな物語である。この主人公、本当に情けない。エアギターから虚しさのあまり叫び出し、そこをかなり年の離れた妹の口撃でコテンパンにされてしまう。クラスでもカースト上位ではなく、かといって下層でもなく、という位置づけ。本人はかなりのハンサムボーイだが、表情の暗さや立ち居振る舞いが負のオーラを醸し出している。監督の演出か、それとも本人の演技力によるものなのか。モトーラ世理奈に恋焦がれるなら、イケメン高校生ではなく、こうした等身大の高校生でないと駄目だ。そうした意味で、佐藤勝利をキャスティングした時点で本作は半分は成功している。

 

その他にもほっしゃん演じる体罰教師は、Jovianの中学にいた某教師と雰囲気や言動がそっくりで、ちょっと引いた。今でこそ暴力教師、あるいは生徒から教師に対する暴力がカメラに撮られ、すぐにネット上で拡散してしまうが、20年前、30年前は『 ぼくらの七日間戦争 』の大地康雄倉田保昭の演じた教師、本作の手代木のような教師が実際に存在したのである。本作は現在の10代よりも、30代や40代こそがリアリズムを感じられる作品なのかもしれない。

 

校内でスマホを禁じられ、その他の校則でがんじがらめにされた生徒がどうなるのか。Jovianは落書きとその連鎖に痛く感じ入った。書かれている内容こそ違えど、これはまさに中井拓志の小説『 quarter mo@n 』そっくりではないか。生徒から何かを奪っても、彼ら彼女らはその代替を見つけるものだ。『 quarter mo@n 』はある意味で時代を先取りしすぎた作品である。1999年刊行の書籍だが、ぜひ令和の若者にも読んでもらいたい。こうしたネット黎明期の作品に面白さを感じる向きは奥泉光の『 プラトン学園 』もどうぞ。

 

ダメダメな主人公を軸に、周囲のキャラクターたちも動き出し、圧倒的なパフォーマンスの見られるクライマックスにつながっていく。あるキャラが絞り出す魂の叫びは、『 ブラインドスポッティング 』のクライマックスのラップを彷彿させた。はっきり言って荒唐無稽もいいところのご都合主義的な展開なのだが、それを吹き飛ばすほどのパワーをこのシーンから感じた。最後に訪れるカタルシスも良い。元々、創楽が立ち上がったのは何のため、誰のためだったのか。様々な伏線が最後に一つにつながり、大団円となるラストの爽快感よ。

 

Libertyとfreedomのつづりミスで英語教師のJovianは「ははーん、これはアレだな」とピンと来たが、最後の最後のメッセージもなかなかに秀逸だ。そう、これは高校生に向けられたものではない。現状を是とする思考停止を打破せよ、という作り手のメッセージなのだ。幅広い世代に観てほしいと思える邦画である。

 

ネガティブ・サイド 

ラストに至るまでのサブプロットがとにかく多いし、時間もかかる。だからこそラストの大逆転感が生まれるのだろうが、それでも途中の展開はかなりの中だるみに思える。ここで主人公側に何らかの小さな希望が見える展開、あるいは蹉跌を経験するシーンを挟むべきではなかったか。

 

成海璃子の元カレが云々という背景も不必要ではなかったか。高校という一つの閉じた小宇宙の中で、ブラック校則がどれほどヤバいルールなのかを描き出すことを通じて、「世の中全般に迎合するな、疑え、行動しろ」という激を飛ばすのが本作の狙いのはず。であるなら、ブラック校則以上にネガティブな現実は不要である。

 

手代木を封じ込めるネタが結局はミチロウと同じく、暴力動画をネタにした恐喝とは・・・ もっとなにか別のアイデアがあってしかるべきだろう。例えば、毎朝回収されるスマホを模型と入れ替えて○○を▲▲している証拠を押さえるとか、または・・・って、これ以上書くと犯罪者予備軍と思われるのでやめておく。たた、体制を打破するために出来るもっと別のことがあったのは確かである。

 

総評

公開当時に劇場鑑賞できなかったことが悔やまれる。校則を社則、教師を上司と読み替えれば、社会人目線でも楽しむ(苦しむ?)ことができるジャニタレが主演かよ、と鼻白む向きにこそお勧めしたい上質な青春ドラマに仕上がっている。モトーラ世理奈の出番こそ少ないが、ファンならば本作は必見であろう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

emancipation

freedomとlibertyについては劇中で振れられていたので、ここではemancipationを紹介したい。意味は「解放」であるが、その用例はほとんど「奴隷解放」である。The Emancipation Proclamation = A・リンカーンによる奴隷解放宣言である。他にも、他国の占領や政治的な影響力からの解放についても使われる。英検準1級以上、TOEFL iBT80点以上、IELTS Academicで6.0以上を目指すなら、知っておきたい語彙。

 

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