Jovian-Cinephile1002’s blog

古今東西の映画のレビューを、備忘録も兼ねて、徒然なるままに行っていきます

『 そばかす 』 -アロマンティックという生き方-

そばかす 75点
2023年1月21日 シネ・リーブル梅田にて鑑賞
出演:三浦透子 前田敦子 伊藤万理華
監督:玉田真也

簡易レビュー。

 

あらすじ

三十路になっても結婚せず、実家暮らしを続ける蘇畑佳純(三浦透子)に業を煮やした母親は、佳純に無断でお見合いをセッティングする。半ば騙されてお見合いをすることになったが、出会ったのはいきつけのラーメン屋の店主で、しかも彼は結婚を考えるよりも仕事に打ち込みたいと言う。佳純は彼と友達付き合いを始めるが・・・

ポジティブ・サイド

カメラワークではなく会話劇で魅せる。自宅の居間や職場の屋上など、何気ない日常のシーンをじっくりと切り取って、そこで交わされる言葉とその言外の意味でもってキャラクターの背景を語ってくれる。佳純と母親、佳純と父親、佳純と妹の会話の中身や、その声のトーンなどから、家族の人間関係が浮き彫りになってくる。非常に舞台演劇的で、Jovianは好きである。

 

三浦透子の自然体に見える演技がいい。アロマンティックやアセクシャルを公言する友人知人がいないので想像しかできなかったが、三浦の演技はその意味で非常にリアルだと感じた。村上春樹とは波長が合わないのだが『 ドライブ・マイ・カー 』にも少し興味が出てきた。

 

イニシエーション・ラブ 』あたりでは今一つだった前田敦子が、今や完全に女優になったなと感じる。『 食べる女 』や『 町田くんの世界 』あたりから進境著しい。Jovianは今作で前田のファンになってしまった。

 

シンデレラを書き換えるのは面白いし、実際には文学の世界では feminist theory の元、様々なおとぎ話がリライトされている。代表的なのはフィオナ・フレンチの『 スノー・ホワイト・イン・ニューヨーク 』だろうか。興味のある向きは大型図書館や大学の図書館などで借りてみよう。

 

ネガティブ・サイド

終末の探偵 』でも感じたが、BGMがうるさい。もっとシンプルにキャラクターのたたずないや風景だけで魅せてほしいと感じるシーンがいくつもあった。

 

最後のチェロの演奏シーンは正直ガッカリさせられた。音にではなく、演奏時の三浦の運指が音とあまり合っていなかった。『 セッション 』のマイルズ・テラーや『 ボヘミアン・ラプソディ 』のグウィリム・リーやベン・ハーディとまでは言わないが、玉田監督ならもっとリアリティにこだわって欲しかったし、三浦透子ならその期待にも十分に応えられると思うのである。

 

総評

僕の好きな女の子 』でも感じたが、Jovianは玉田真也監督と波長が合うらしい。男の普遍的な性質を活写する一方で、本作ではアロマンティックやアセクシャルという生き方を鮮やかにスクリーンに描き出した。本作はそうした生き方を素晴らしいと称揚しているわけではない。ただ、自分と同じ生き方を志向している人間はきっとどこかにいるのだ、ということを教えてくれる。実際にそうした人に出会えるかどうかは分からない。けれど、自分は独りではないと知ることは大きな empowerment になることは間違いない。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

aromantic

ロマンティックに否定の接頭辞の a をつけたもの。意味は「恋愛感情を抱かない」。apathy = 感情がない、と構造的には同じ。sympathy = 気持ちが同じ = 共感、telepathy = 遠くの気持ち = テレパシー。asexual = 性的関心・欲求がないは生物学的にレアだと思うが、aromantic は割と普通だと思われる。romantic それ自体が元々が「ローマ的」という意味で、イクラ強力なミームであっても、一民族、一国家の性質を全人類に当てはめられるわけではないと考える。

 

ところで・・・外来語をカタカナで表記する際、元の語の成り立ちや読みやすさを考慮して、ア・ロマンティックのように書けないだろうか。最近、リスキリングという言葉が人口に膾炙するようになったが、これもリ・スキリングと書けば「スキルにイングがついて、死の前にリがついているのか」と感じられるようになる。ただ、そうするとリプレーをリ・プレーと書いたり、プレビューをプレ・ビューと書くことになるのか・・・ 外来語の翻訳と表記はかくも難しい。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 そして僕は途方に暮れる 』
『 パーフェクト・ドライバー/成功確率100%の女 』
ヒトラーのための虐殺会議 』

 

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