Jovian-Cinephile1002’s blog

古今東西の映画のレビューを、備忘録も兼ねて、徒然なるままに行っていきます

『 侍タイムスリッパ- 』 -時代劇への愛に満ちた傑作-

侍タイムスリッパ- 80点
2024年9月21日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:山口馬木也
監督:安田淳一

 

単館上映から全国ヒットした『 カメラを止めるな! 』の再来と聞いてチケット購入。確かに近年まれにみる傑作だった。

あらすじ

時は幕末。会津藩士の高坂新左衛門(山口馬木也)は討幕派の長州藩士との決闘の最中、落雷を受けて標的の男と刃を交えた瞬間、落雷によって気を失ってしまう。目を覚ますと、そこは現代の時代劇撮影所だった・・・

ポジティブ・サイド

現代人が過去、特に戦国時代にタイムスリップする邦画はいくつも製作されてきたが、江戸時代の武士を現代に連れてくるというのは相当に珍しいのではないか。このアイデアだけでも本作には価値がある。

 

ゴリゴリの会津藩士、すなわち保守派の武士の新左衛門を山口馬木也が好演。話しぶり、立ち居振る舞い、表情、すべてが武士だった。普通ならこんな石頭の守旧派がタイムスリップ、特に未来へのそれに順応できるはずがないのだが、飛んだ先が時代劇の撮影現場で、なおかつ見覚えのある寺が目と鼻の先にあったことが幸いした。なによりも武士の本懐(武士道とは死ぬことと見つけたり)を果たせる仕事としての斬られ役、これに出会えたことが大きい。徳川幕府の世が終わって140年。佐幕派会津藩士としては斬る側よりも斬られる側になるべきだろう。

 

新左衛門とその周囲の人間とのドラマも見せる。助監督の優子寺の住職やその妻、さらに剣心会の師範らが、妙な男だと思いながらも新左衛門に親身に接していく様はそれだけで現代人が忘れかけている優しさを思い起こさせて、ほっこりとして気持ちになれた。

 

タイムスリップものとしてはお約束の展開が中盤に起こるが、この人物を巻き込むことで、コメディ風のドラマが一気にシリアスなものとなる。忘れてはならないが、新左衛門は死に場所を見失った武士なのである。最後の最後の殺陣のシーンは圧巻の一語に尽きる。低予算映画ゆえにスタントやCGなどを使わず、それゆえに生身の迫力を生み出せていた。

 

時代劇には大道具、小道具、ヘアメイク、メイクアップに、役者の独特の所作(その最たる例はもちろん殺陣)など、映画作りの基本的な要素がふんだんに詰め込まれている。かつての怪獣映画、とくにモスラキングギドラなどは10人がかりでピアノ線を使って操演していたと言うが、これは今やロスト・テクノロジー。もちろん、古典的、伝統的なものすべてを保存しなければならないとは思わないが、日本映画の土台を維持するためにも時代劇には生き残ってほしいと本作によってより強く思わされた。

 

映画を作るという映画にハズレなし。このジャンルにまたも傑作が生み出された。ぜひチケットを購入して劇場鑑賞されたし。

ネガティブ・サイド

幕府滅亡から140年ということは2007年。確かにキャラクターたちはガラケーを使っていた。が、冒頭で出てきた看護師さんがナースキャップをかぶっていたのは何故?ナースキャップは2000年頃にはほとんど姿を消していたはず。現代でも時代考証は必要だ。

 

新左衛門がケーキの美味しさに感涙するシーンでは、説明的なセリフは不要だった。新左衛門の心情を観客の想像力に委ねる作りの方が良かったのではないかと思う。

 

総評

年間ベスト級の傑作である。役者の演技が際立っていて、脚本にも穴がなく、ストーリーのテンポもよく、軽妙な部分は軽妙に、重厚な部分は重厚に仕上がっている。何よりも人間ドラマとして優れている。NHKの『 歴史探偵 』で「戊辰戦争会津」を少し前に観たこともあり、新左衛門という人間のバックグラウンドが頭にあったことも大きかった。もちろん、背景知識や時代劇に関する造詣がなくとも本作は楽しめる。時代劇はちょっと・・・という向きにも自信を持ってお勧めできるヒューマンドラマの傑作である。

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

choreography

振付の意。映画ではしばしば fight choreography と dance choreography が重要で、その専門家も多数いる。本作の sword action choreography には必見である。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 愛に乱暴 』
ヒットマン
『 シュリ 』

 

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