Jovian-Cinephile1002’s blog

古今東西の映画のレビューを、備忘録も兼ねて、徒然なるままに行っていきます

『 トップガン マーヴェリック 』 -マサラ上映-

トップガン マーヴェリック 90点 
2022年11月12日 塚口サンサン劇場にて鑑賞 
出演:トム・クルーズ マイルズ・テラー ヴァル・キルマー 
監督:ジョセフ・コジンスキー

 

劇場鑑賞7回目。マサラ上映への参加は実は初めて。『 バーフバリ 王の凱旋 』のマサラ上映を神戸国際松竹で鑑賞しようとするもタイミングが合わなかった。ボリウッド映画以外でもマサラ上映はありだなと感じた。

あらすじ

マーヴェリック(トム・クルーズ)は、予定されていたダークスターのテスト飛行がキャンセルされると聞いたが、クルーと共にフライトを強行し、マッハ10を達成する。処罰の対象になるかと思われたマーヴェリックだが、盟友であり提督となったアイスマンの取り計らいにより、トップガンにおいて難関ミッションに挑む若きパイロットたちの教官となる。しかし、そこにはかつての相棒グースの息子、ルースター(マイルズ・テラー)も加わっており・・・

ポジティブ・サイド

入り口で「マサラ上映ですけど、大丈夫ですか?」の問いに然りと回答。するとクラッカーを2つ渡される。なるほど、良きタイミングで鳴らせというわけか。劇場内はほぼ10割の入り。初対面のおじさんから「これ、使ってください」と紙吹雪の束を渡される。前後左右にサイリウム持ちもチラホラ。異様な熱気である。

 

マサラ上映前の劇場スタッフのコスプレとインストラクションが素晴らしかった。どこまで本当か分からないが、『 トップガン マーヴェリック 』のマサラ上映は世界でも塚口サンサン劇場だけとのことだった。スクリーン上の “Don’t think, just do. It’s today.” の文言にテンションが上がる。

 

オープニングの『 ミッション:インポッシブル 』の最新作のトレイラーの時点で、紙吹雪が舞い、クラッカーがパンパンと鳴らされる。特にあのテーマ曲に合わせてポン、ポン、ポンポン、ポン、ポン、ポンポンとクラッカー鳴らしていた集団はマサラ上映のプロ参加者たちか。

 

トップガン・アンセム” からの “Danger Zone” で劇場のテンションは最高潮。紙吹雪も上がる上がる、クラッカーも発射されまくり。今回の参加者の大半は、おそらく劇場鑑賞5回以上、または配信もしくは円盤で本作を相当回数観ている人たちだろう。機関砲射撃やミサイル発射、その他の印象的なシーンでドンピシャでクラッカーが鳴らされる。いったい何発用意してきたのだろうか。

 

思いがけない副産物としてMX4D鑑賞の時以上に火薬の匂いが感じ取れた点が挙げられる。ジェットがアフターバーナーに点火した時、フレアをばらまく時、爆弾投下した時などに漏れなくクラッカーが鳴り響き、むせかえる程の火薬の匂いが臨場感をいや増すのを感じた。

 

最近、YouTubeでずっと「Fighter Pilots React to TOP GUN MAVERICK」という動画シリーズを視聴していて、映画のどこが現実に即していて、どこが現実離れしている、あるいは完全なフィクションなのか、かなり細部まで study していた。そのことで鑑賞時の楽しみが薄れるかと懸念していたが、それは杞憂だった。本作は何回観ても面白いし、軍人さんのツッコミ内容を知っても尚面白い。またインド映画以外でもマサラ上映と相性の良い作品があることを映画ファンに知らしらめたというのは素晴らしい。あらためて今年のベストであると確信した。

 

ネガティブ・サイド

あまりにもクラッカーがうるさいのが幸いして、台詞を聴くのではなく、字幕を読むことに集中できた。そのうえであらためて感じたのが、戸田奈津子御大の英訳のまずさ。Talk to me, dad. や He called you a man, Phoenix. などの字幕は酷い。これは作品の問題ではないので減点はしない。

 

本番ミッションで渓谷内に橋があるが、事前の調査で分かっておらず、現場でとっさに判断してかいくぐったようだった。これは海軍情報部の重大な落ち度、というよりも脚本上の重大な欠点だろう。

 

総評

マサラ上映は後片付けがなかなか大変だが、上映終了後は観客に一体感が生まれているので、一致団結して掃除も順調に進んだ。記念写真も良い思い出。SNSにアップ不可ということは、多分ブログにもアップ不可だろうと解釈した。もしも本上映の参加者がいたら、ほとんど全員が空軍式の敬礼をしている中、数少ない海軍式の敬礼をしている中の一人がJovianである。本作の劇場公開もさすがに全国的にも終わりつつあるが、劇場で映画を観るということの楽しさを思い出させてくれた功績は計り知れない。

 

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joyride

乗り物に乗って楽しむことを指す。特に盗難車の場合が多い。マーヴェリックがペニーをF-18に乗せ、それがバレたせいでボスニア送りにされたエピソードが披露された。この場合、盗んだのは戦闘機。しかも一般人(といっても軍のお偉いさんの娘ではあったが)を乗せたというのだから、無手勝流のマーヴェリックらしい。Take me on your mighty wings ならぬ Take me on a joyride とペニーが頼んだのだろうか。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 窓辺のテーブル 彼女たちの選択 』
『 警官の血 』
『 窓辺にて 』

 

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『 王立宇宙軍 オネアミスの翼 』 -4Kリマスター版-

王立宇宙軍 オネアミスの翼 60点
2022年11月6日 梅田ブルク7にて鑑賞
出演:森本レオ
監督:山賀博之

漫画『 げんしけん 』で本作を知ったのはいつだったか。劇場公開されたので、これ幸いとチケットを購入。

 

あらすじ

オネアミス王国の宇宙軍は、宇宙に行ったことのない軍として民衆から指示されていなかった。宇宙軍の士官シロツグ(森本レオ)は、信心深い少女リイクニとの偶然の出会いをきっかけに、人類初の有人宇宙飛行のパイロットに志願するが・・・

ポジティブ・サイド

いちばん最初に感じたのは手描きアニメの良さが凝縮されているということ。現代のデジタルで描いて、PC上で動かすという手法ではなく、セル画をひたすらに描き連ねて作った、まさに古き良きアニメという感じがする。

 

戦闘機からロケット打ち上げ発射台にいたるまで、メカのデザインも素晴らしい。現実に実際にワークしそうな設計思想が垣間見えるのが良い。一方で、少年の想像力というか、科学的な考証よりもロマンを前面に押し出したようなメカの造形にもニヤリとさせられる。

 

王国も中世ファンタジー世界ではなく、産業革命のただ中のイングランドそっくり。ただし、どこか違う。バラックや路地裏に東南アジア的な雰囲気も漂っている。『 ブレードランナー 』的、あるいは『 GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊 』的とも言えるかもしれない。

 

そこに住まう人々の意識も、ちょうど中世から近代に脱皮するぐらいか。水軍や陸軍は存在意義を保持しているが、宇宙軍はそもそも宇宙に行ったことがないし、宇宙に敵がいるのかどうかも分からない。しかし、宇宙は宇宙として、人類最後のフロンティアとして厳然と存在する。もちろん本作の製作時にすでに人類は宇宙に到達していた。だから本作の価値が落ちるわけではない。逆に、人類の宇宙到達をリアルタイムで見届けられなかった自分たちに捧げる作品を作ろうとしたのだろう。同時に、当時の宇宙開発が米ソの軍拡競争の一環として繰り広げられていたことへの抗議の意味合いもあったことだろう。

 

まさに少年の少年による少年のためのアドベンチャーアニメと言える。

ネガティブ・サイド

SFは大きく二つに分けられる。一つは、時代と共にそのアイデアが風化しないもの。もう一つは、時代が進むとそのアイデアが風化してしまうもの。前者の代表例はジェイムズ・P・ホーガンの『 星を継ぐもの 』、ロバート・L・フォワードの『 竜の卵 』、グレッグ・イーガンの『 宇宙消失 』あたりか。後者の代表例は残念ながら本作か。

 

有人宇宙飛行を達成するという目的達成のために何かユニークなアイデアが提起されるわけではない。本作は Science Fiction なSFではなく、Space Opera なSFであるが、それでも何か本作の世界を特徴づけるテクノロジーもしくは理論が必要だった。ガンダムが何故あれほど説得力があり、幅広い世代を魅了したのか。それはミノフスキー粒子という設定により、宇宙空間で近接戦闘をする必然性が生まれたからだ。本作も何か一つ、独自の世界観を確立する設定を持ってほしかった。本作のストーリーはかなり政治的な色合いが強いが、もっと純粋に科学や技術を追求するべきだった。

 

シロツグのリイクニへの迫り方は、ちょっとなあ・・・。女子への距離の詰め方を知らないアホなオタクそのまんま。製作者たちはそこまで自分を反映する必要はなかった。

 

総評

作画や音楽の素晴らしさは2020年代でも十分に通用する。むしろ、セル画にこれでもかと描き込む作品は、近い将来にロストテクノロジーとなってしまうだろう。そういう意味では実に貴重な作品をリマスターしてくれたものである。一方で、ストーリーがとにかく陳腐である。本格的なSFらしさを求めるとがっかりさせられる。また製作者の感性が非常に色濃く反映されているので、ガイナックス作品と波長が合わない人は、本作とも波長は合わないだろう。そのあたりを考慮の上、鑑賞するかどうかを判断されたし。

 

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no matter what

使い方が色々ある表現だが、これをセンテンスの最後に置くと「何が何でも」のような意味になる。終盤でシロツグが「俺は死んでも上がるぞ!」のようなことを言うが、これは

I’m going up no matter what!

だろう。I'm going up even if I die! はちょっと変だ。

I’ll get off at 5:30 pm no matter what. Today’s my daughter’s birthday.
何が何でも5時30分にあがるぞ。今日は娘の誕生日なんだ。

のように、日常生活の中でどんどん使ってみよう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 窓辺のテーブル 彼女たちの選択 』
『 警官の血 』
『 窓辺にて 』

 

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『 天間荘の三姉妹 』 -スカイハイだと明示せよ-

天間荘の三姉妹 40点
2022年11月5日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:のん 大島優子 門脇麦 寺島しのぶ
監督:北村龍平

漫画『 スカイハイ 』は、絵柄は好きでも、ストーリーはそんなに好きではなかった。今作も予備知識ほぼゼロで臨んだが、柴咲コウがイズコだと分かってからは、この独特の世界観を楽しめなかった。

 

あらすじ

老舗の温泉宿「天間荘」を切り盛りする若女将の天間のぞみ(大島優子)は、イルカの調教師のかなえ(門脇麦)とともに腹違いの妹、たまえ(のん)を迎え入れる。たまえは行き先を決めるまでの間、天間荘で働くことになるが・・・

ポジティブ・サイド

女子高生に殺されたい 』でも感じたが、アイドルだった大島優子が女優になっている。和服の着こなしだけなく、所作も旅館の女将さんらしさが出ている。それを感じさせたのは歩き方。宿の廊下をしゃなりしゃなりと歩くことができていた。長女として、また若女将として、大女優・寺島しのぶに真っ向から挑むその姿勢や善し。脱アイドル完了まであと2作品ぐらいだろうか。

 

門脇麦も相変わらずの安定感。彼女の出演作はハズレが少なく、作品がハズレでも彼女の演技がハズレであることはほとんどない。日本のジェシカ・チャステインを目指してほしい。『 あのこは貴族 』と同じく高良健吾との共演がよく似合う。また、どことなく寺島しのぶと顔の作りが似ているように感じられ、母子の感じが強く出ていた。

 

ただ。今作では寺島しのぶすら食ってしまう三田佳子御大が出演。本作の色んな面に不満があるのだが、三田演じる財前からは偏屈さと、その根っこある他者を敢えて寄せ付けないという優しさ、そして気高さが感じられた。財前とたまえのサブプロットをメインのプロットに書き換えて、それを1時間30分のたまえのビルドゥングスロマン映画にしても良かった。それぐらい三田佳子の演技は鮮烈だった。

ネガティブ・サイド

残念ながら役者の演技以外に褒められるところがない。震災で亡くなってしまった人々は確かに痛ましいとは思う。けれど最も苦しめられるのは、亡くなった人の家族や友人ではなく、見つからない人、行方不明のままの人の家族や友人ではないか。言い方は悪いが、遺体があれば、その人は死んだと受け入れられる。受け入れざるを得ない。しかし遺体が見つからないままであれば、まだ生きているのではないかという絶望的な希望にすがるしかないではないか。『 風の電話 』が傑作だったのは、まさにここに焦点を絞ったからである。

 

そもそも漫画『 スカイハイ 』は、天国に行く、現世をさまよう、復讐するの三択から一つを選ぶのではなかったか。津波によって街ごと破壊された、なので三ツ瀬という街をそのまま天と地の間に再現しようというのは、原作の世界観を破壊してはいないか。何か腑に落ちない。

 

絵師の少女の物語が今一つ。正直なところ、こんな風に孤立してしまう子は残念ながらどこにでもいる。今の大学生がどれくらいメンタルの不調を抱えて、いわゆる「配慮願い」を学校に提出してくるか、本作の制作者たちは知っているのだろうか。Jovianはこの少女の因果にまったく同情も共感もできなかった。

 

本作はのんのキャラクターと合っていないようにも感じた。のんの持ち味として、たとえば『 私をくいとめて 』や『 さかなのこ 』、『 Ribbon 』のように、世間や時代に簡単に迎合しないキャラクターが挙げられる。これは彼女自身の生き様とも共通するところだろう。その一方で、本作ではいわゆるフリーターで、旅館の女中からイルカの調教師を目指すというサブプロット。偏屈な財前との絡みから、おもてなしを極めることを志すのではダメなのか?死者のメッセージを生者に届ける役目を引き受け、天地の間にたゆたう魂を昇天させるという筋立てではなダメなのか?ぶっちゃけイルカの調教師のシーンは必要か?しかも、ザバーンと水に飛び込んだ直後のシーンで、のんの髪が濡れていないという大失敗の画も・・・

 

本作は『 スカイハイ 』のスピンオフであることを明示するか、あるいは『 パッセンジャーズ 』のようなトリックを仕込むべきだった。天間荘でたまえが様々な客をもてなしていくが、実はもてなされていたのは・・・という感じである。ファンタジーを描きたいのか、ヒューマンドラマを描きたいのか。そこをはっきりさせない中途半端な作品である。

 

総評

一部はとても面白いのだが、全体を観ると凡庸というか、はっきりいって面白くない。製作者の死生観に文句をつけるわけではないが、死者側から生者側を観るという物語の必然性を感じない。『 スカイハイ 』は理不尽に命を奪われた個人が、死を受容したり、あるいは復讐するところが肝なのであって、記憶をもって蘇るというのはご都合主義が過ぎる。チケットを買うなら、役者の演技を堪能するためと割り切るべし。

 

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near-death

ニアミスならぬニアデスで、これは臨死という意味。しばしば near-death experience = 臨死体験という使われ方をする。臨死体験は『 フラットライナーズ 』の昔から映画や小説のテーマになっているので、この表現を見聞きしたことがある人も多いのではないか。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 窓辺のテーブル 彼女たちの選択 』
王立宇宙軍 オネアミスの翼
『 警官の血 』

 

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『 水霊 』 -原作を改変しすぎ-

水霊 50点
2022年11月1日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:井川遥 渡部篤郎
監督:山本清史

ハロウィーンのホラー鑑賞第3弾。原作の著者は田中啓文で、タイトルは同じく『 水霊 』。本作が映画化されているのは、つい先日まで知らなかった。原作は伝記ホラーかつ嫌ミスの要素を兼ね備えた良作だが、映画は別物に仕上がっていた。

 

あらすじ

小規模地震が頻発する東京の武蔵野・多摩エリアで、不可解な自殺事件が相次いで発生する。その原因が水にあることを突きとめた新聞記者・響子(井川遥)は、水道局に勤める元夫・祐一(渡部篤郎)に相談するが、祐一はまったく取り合ってくれず・・・

 

ポジティブ・サイド

原作と全く違うストーリーとキャラクターだが、良い点もいくつか。主人公を男性から女性に変えたのは『 リング 』の真似かな。ホラーは女性が主人公の方が、恐怖のビルドアップに説得力が生まれる。

 

水を原因とする変死、怪死が頻発するが、その描写が結構えぐい。特に水槽の水を吐き出したり、トイレの水を飲んだりするシーンは女子高生役の怪演もあって、非常に見応えがあった。別のキャラの失明シーンもなかなかのグロさだ。

 

人を狂わせる水の出どころを追ってインターネット検索する時に使っているのが Yahoo というところに時代を感じる。同時に、新聞記者の響子が文献ではなくネットを使うところも新鮮。ちょうど日本が情報化していた時期の作品だったという意味でも興味深い。

 

響子に仕込まれた一種の仕掛けもなかなか衝撃的。つのだじろうあたりが描きそうなネタで、これには驚かされた。フェアな伏線も張られているのに、見逃してしまった。

 

ネガティブ・サイド

先行する『 仄暗い水の底から 』の影響を受けたのか、ジメジメとした画作りと水の滴る音、そして暗い人間関係、就中、家族のそれに焦点を当て過ぎている。原作通りに、地方の町興しに天然水を売り出す。しかし、その天然水には・・・という設定を活かせなかったのだろうか。

 

渡部篤郎演じる祐一が自身の発症から、友人の医者に会いに行く場面で「お、ついに原作で度肝を抜かれた、あの場面の再現か?」と興奮したが、それもなし。なんじゃ、そりゃ・・・。

 

黄泉とは黄色い泉という学者の言葉。そして東京を中心とした群発地震。遺跡の出現など、民話ホラーとしての恐ろしさを追求する機会をことごとく逸している。惜しいというか、歯がゆいというか。また原作にいた主人公の元カノにあたるような人物がいれば、水のもたらす人格変容の恐怖も描けるが、それもなし。口渇と多飲だけだと糖尿病に見えてしまう。

 

エンディングも正直しょぼい。もっと日本全土を巻き込むようなバッドエンドを志向しても良かったのでは?どうせ原作をいじるのなら、徹底的にやってもらいたかった。

 

総評

これも映画化失敗作品である。原作小説の怖さは、一般人の想像力をはるかに超えるような最悪の真相が、一般人の想像力で活字からも視覚化できたからである。つまり、(予算と監督の手腕さえあれば)映画化は実は難しくないミッションだったはずなのだ。もちろん、ホラー・ジャパネスクにも数多くの秀作がある。問題は、それを一つのトレンド止まりにしてしまったことか。配信やレンタルで視聴する際は、深夜のテレビ映画だと思って鑑賞するべし。

 

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waterborne

 

水を介して、の意味。似たような語に airborne がある。本作では呪いの正体を水を介した感染症に求めている。その真相はいかに?原作観読者はぜひ小説を読んで確かめられたし。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 窓辺のテーブル 彼女たちの選択 』
『 天間荘の三姉妹 』
王立宇宙軍 オネアミスの翼

 

 

またはアマゾンプライムでもどうぞ。

 

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『 不安の種 』 -民話的ホラーの失敗作-

不安の種 40点
2022年10月31日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:石橋杏奈 浅香航大
監督:永江俊和

ハロウィーンのホラー映画鑑賞第2弾。昔ちょろっと観て、そこそこ面白いと感じた記憶があり、今回再鑑賞してみたが・・・

 

あらすじ

バイク便ライダーの巧(浅香航大)は、怪我をした青年を救助しようとしたが、彼はおぞましい死を遂げてしまった。そのことが原因で新しいバイトを始めた巧は、勤務先で陽子(石橋杏奈)という不思議な女性に出会う。以来、街に潜む怪異が徐々に姿を現し始め・・・

 

ポジティブ・サイド

時系列をばらばらにして観る者に混乱を、その後に不安や恐怖をもたらそうとする試みは悪くない。様々に現れる怪異の正体のほとんどが不明であるところもいい。特にインパクトが強いのは顔面を藁で覆った女性だろうか。別に危害を加えてくるわけではない。ただ存在するだけ。それが逆に不安を掻き立ててくる。まさに不安の種だ。

 

ストーリーは巧と陽子を軸に進んでいくが、陽子のメンヘラっぷりがなかなかキツい。また、陽子に仕込まれた一種のトリックはなかなか興味深い。山口雅也とか筒井康隆のような小説家が思いつきそうなプロットである。

 

グロ描写もそれなりに頑張っている。須賀健太津田寛治のシーンでは、Jovian妻は悲鳴を上げて目を背けた。普通の映画好きにこれだけの反応をさせれば、ホラーやスリラーとしては及第点だろう。

 

オチョナンさんの正体を様々に考察するのも面白い。座敷童ならぬ一種の都市童なのだろう。怪異のもたらす不安に負けないためにはどうすればいいのか。自分もその怪異になってしまえばいい。子どもの目から見た社会、世界の理不尽さを強烈に皮肉っているのかなと感じた。さあ、不安の種が生み出すものは何なのか、あなたも考えてみよう。

 

ネガティブ・サイド

2010年代の作品だとしてもCGが相当にしょぼい。眼球が這いずり回るのはなかなかシュールだが、これがもし眼球についた筋肉が蠕動したり、あるいは眼球を覆うヌメヌメの粘液のようなものの質感までCGで表現できていたら、それだけで掴みの印象はかなり異なっただろう。世界観を一気に伝える establishing shot にカネを惜しんではならない。

 

怪異のオンパレードだが、原作に登場する怪異を全部出してやろうとするのではなく、いくつかに絞って、そのうえで登場人物たちにじっくり不安の種を仕込む展開の方が良かったように思う。巧に関して言えば、バイト先の謎の客はまだしも、右腕がない金づち女は蛇足に感じた。

 

アパートのドアに貼られる死のシールも、ちょっと奇異に映った。ここで陽子がアパートの住人の死因を急性心不全ではなく心筋梗塞だと言い切ってしまうのは流石にやりすぎ。そんなことが分かるはずがないし、分かったとすれば犯人だ。本作はスリラーやホラーであってもミステリではない(その要素もあるが)のだから、死因はある意味で二の次でいい。ここは脚本上の大きなマイナス点だ。

 

全体的に古典的なジャンプ・スケアが多めなのも気になった。本作の肝は不安であって恐怖ではない。じわじわと不安感を盛り上げていく手法を模索すべきところを、安易なクリシェに逃げた点も減点対象にせざるを得ない。踏切の向こうで不穏な形と動きを見せる雲・・・のようなシーンをじっくりと積み上げていくべきだった。

 

総評

いくつかのシーンを取り出せば結構面白いのだが、つなげて観ると「なんだかなあ・・・」という出来になる。日常の中に怪異が紛れ込み、さらにそこから怪異が日常を飲み込んでいくという流れは面白いのだから、そのあたりの登場人物の不安をもっと丹念に描くべきだった。来年はもっと面白そうなホラーを選びたい。何かお勧めの和製ホラーがあれば、誰かお教えください。

 

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anxiety

発音はアングザイアティのような感じ。ザイにアクセントを置こう。これは「不安」という意味の名詞。

This movie caused me a lot of anxiety.
この映画は僕を凄く不安な気持ちにさせた

のような使い方をする。 

 

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『 天間荘の三姉妹 』
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『 キュリー夫人 天才科学者の愛と情熱 』 -伝記映画の佳作-

キュリー夫人 天才科学者の愛と情熱 70点 
2022年10月30日 シネ・リーブル梅田にて鑑賞
出演:ロザムンド・パイク サム・ライリー アニャ・テイラー=ジョイ
監督:マルジャン・サトラピ

 

怪作『 ハッピーボイス・キラー 』の監督が、マダム・キュリーを料理するという。そして演じるは円熟味を増したロザムンド・パイクということでチケット購入。

あらすじ

マリ・スクウォドフスカ(ロザムンド・パイク)は、大学で満足なラボを与えられずにいた。そんな中、マリはピエール・キュリーサム・ライリー)と出会い、交際し、結婚してキュリー夫人となる。二人は共同で研究を積み重ね、ついにマリは大発見を行うが・・・

 

ポジティブ・サイド

キュリー夫人というとラジウム発見のイメージが強い。というか、それしか知らなかった。本作を鑑賞して、かなり脚色されている点はあるのだろうが、単なる科学者ではない人間マリ・キュリーが分かった気がする。

 

本作は非常にユニークな構成だ。いきなりキュリー夫人の死亡直前から始まる。そして、彼女が自身の人生を走馬灯のように振り返る形で、物語が提示されていく。不遇の研究者時代に出会った夫ピエール、結婚、出産、放射能の発見、ノーベル賞受賞などがドラマチックに描かれていく。印象的なのは、明らかにキュリー夫人の死後のイベントも回想されるところ。たとえばヒロシマへの原爆投下や、チョルノービリ(チェルノブイリ)の原発事故などがある。自身の発見が、世界を良い方向にも悪い方向にも変えうるということは作中でも言及されていたが、それを具体的なビジョンとして見せることで、キュリー夫人の卓越した想像力を見事に表していた。

 

ロイ・フラーピエール・キュリーの交流も個人的に興味深かった。フラーが当時の最先端科学と踊りを融合させようとしたことはよく知られている。その後、スピリチャルな方面に傾倒していったのも史実。観ているうちは「自分には興味深いが、このパート要るかな?」と感じてしまったが、これは浅慮だった。このフラーとの交流が、中盤以降に思いがけない形で人間マリ・キュリーをクローズアップすることにつながる。マルジャン・サトラピ監督はかなりの手練れである。ロイ・フラーについて知りたいという人は『 ザ・ダンサー 』を鑑賞されたし。

 

悲惨極まる戦争に対しても、殺傷のためではなく人命救助のために物理学の知識と技術を応用したことを不勉強にして知らなかった。フローレンス・ナイチンゲールより2世代ほど下のマリ・キュリーであるが、ほぼ同時代人と言ってよいだろう。ナイチンゲールも知識と技術をクリミア戦争野戦病院で発揮したが、マリ・キュリーもそうだったのか。女性として、妻として、母として、そして科学者として生きるマリ・キュリーの生涯と、過去・現在・未来をすべて俯瞰するかのような構成がよくよくマッチしている。『 ドリーム 』よりもシリアスさは上だが、そちらを楽しめた向きは、きっと本作も堪能できるはず。

ネガティブ・サイド

マリ・キュリーの苦闘を描くことに多大な時間を費やしているが、厳しさや険しさが前面に出すぎていたと感じる。彼女にもほのぼのとした家族の団らんや、夫婦としての睦まじい関係性はあったはず。そうした面に光を当てることがなかったのは残念である。当時の世相や、彼女自身の在フランスのユダヤポーランド人というバックグラウンドがあったのは事実だろうが、もう少し想像力を発揮して、人間味のあるマリ・キュリーを描き出してほしかった。

 

娘夫婦もノーベル賞を受賞したことに触れられなかったのは何故なのだろう。

 

邦題が今一つ。キュリー夫人というのは馴染みのある名前であるが、敢えて「マリ・キュリー 天才科学者の愛と情熱」のような邦題にしても良かったのではないか。映画が描いたのは夫人としての面だけではなく、母親や科学者としての面も多かったのだから。

 

総評

猿橋勝子も苦労したが、それよりもっと苦労したのがキュリー夫人なのだなと、しみじみ思う。こうした作品を観ると、人類は進歩しているのか、それとも進歩していないのか分からなくなってくる。一つ言えるのは、作り手はそんな短絡的な結論は求めていないということ。放射能の放つ妖しい光を、美しいものにできるのか、それとも破滅的なものにしてしまうのか。それはマリ・キュリーの後半生の生き方を参考にしてください、というのがマルジャン・サトラピ監督のメッセージなのだろうと思う。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

speak for oneself

「自らのために語る」が直訳だが、これはしばしば無生物を主語に取る。

His achievement speaks for itself.
彼の業績は(誰かが語るまでもなく)素晴らしいものである。

These facts speak for themselves.
これらの事実を見れば(誰かが説明しなくても)分かる。

The results spoke for themselves.
結果がすべてを物語っていた(誰かが説明せずともすぐに分かった)。

のように使う。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 窓辺のテーブル 彼女たちの選択 』
『 天間荘の三姉妹 』
王立宇宙軍 オネアミスの翼

 

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『 ISOLA 多重人格少女 』 -映画化は失敗-

ISOLA 多重人格少女 40点
2022年10月29日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:木村佳乃 黒澤優 石黒賢 渡辺真起子
監督:水谷俊之

ハロウィーンということで、伊丹のTSUTAYAで本作と『 不安の種 』、『 水霊 』を借りてきた。本作のことは『 この子は邪悪 』で思い出した。

 

あらすじ

自分探しの為に阪神淡路大震災のボランティア活動に参加した由香里(木村佳乃)は、解離性同一性障害を持つ千尋黒澤優)と出会う。千尋には13人の人格が宿っていた。由香里は千尋に接していくが、周囲では不審死が頻発する。その原因は、千尋の中に隠れた人格の一つのようで・・・

 

ポジティブ・サイド

冒頭の水音と空中浮遊視点に、原作読了者ならゾッとさせられることだろう。素晴らしい establishing shot で、ドローンのない時代によくこんな空中浮遊映像が撮れたなと感心させられる。 この巧みなカメラワークは本編でも健在で、ISOLAの視点とその他の人物の視点で、カメラワークが全然違う。撮影監督は素晴らしい仕事をしたと思う。

 

阪神大震災をエンタメの題材として扱ったものには、小説『 未明の悪夢 』など割とたくさん活字媒体では生産されたが、映像作品として真正面から震災と向き合ったのは、おそらく本作が初めてではないか。家屋が倒壊した被災地、避難所で雑魚寝する避難所を、かなりの程度、本作は再現したと言える。大道具や小道具のスタッフは相当な労苦をもって仕事をしたことだろう。

 

渡辺真起子って、この頃からバリバリの女優さんやったのね。女の情念を体現できる、日本では希少価値が高い女優さんであると思う。

 

『 CURE 』や『 39 刑法第三十九条 』と並んで、精神のダークサイドを追求しようとした邦画としては、一定の貢献と価値が認められる。

 

ネガティブ・サイド

水曜日が消えた 』も一人七役と言いながら実質は一人二役だった。本作はそれよりも酷く、一人十三役とは言わないが、せめて一人四役ぐらいは演じさせるべきだった。黒澤優はアイドルではなく女優だったのだから、それぐらいは追い込むべきだったろう。

 

原作の由香里のエンパスとしての能力、さらに風俗で働いていたというバックグラウンドがきれいさっぱり消されていた。何じゃそりゃ・・・。エンパスとして強烈な想念が視えるということ、そしてISOLAも強烈な想念が視えるということが、原作では強烈なホラーとサスペンスを生み出していた。それが本作では実現されず。難しいのは分かるが、そこを避けて映像化する意味はあったのか。

 

木村佳乃の演技は、今も昔もあまり変わらない。基本、薄っぺらいというか、原作の由香里の持っている強かさと人間らしい弱さ、そのどちらも表出できていなかった。石黒賢も若いというか、ちょっと浮いていた。この人はテレビドラマの役者で、映画向きではない気がする。セリフをしゃべることはできても、表情や立ち居振る舞いで語ることができていない。

 

最大の不満は、磯良とISOLAの説明。なぜISORAではないのか。なぜISOLAなのか。原作にあったこのあたりの説明の巧みさ、そして恐ろしさが本作ではきれいにスキップされてしまった。また原作のバッドエンドが、本作ではハッピーエンドに。いや、改変はある程度認められるが、それならこれ見よがしに出していた漢字辞典の意味は・・・。最後に唐突に現れる憧子という人格は、原作では心臓が止まるほどの恐怖を引き起こす存在なのに、本作では非常にほんわか。ホラーとはいったい・・・

 

総評

端的に言って映画化失敗。当時は角川ホラー文庫から面白いホラー小説が陸続と出てきていたが、今作は『 リング 』から始まったホラー・ジャパネスクの流れに乗り損ねたらしい。DVDが出て、すぐにTSUTAYAで借りた記憶があるのだが、20代の頃はこれを結構楽しんだ記憶がある。黒澤優が可愛かったからか?ぶっちゃけ観る価値はあまりない。原作小説の方が遥かに怖い。読んだら観るなが正解である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

path

道・・・ではない。由香里は empath とされるが、これは共感能力が高い人を意味する。pathはギリシャ語のパトス由来で、人間の感情のこと。ここから telepathy =遠くの人の気持ちが分かるからテレパシー、apathy =感情が無いから無気力、sympathy = 気持ちが一緒になるから同情・共感となる。形態素(接頭辞、語幹、接尾辞)が分かると、語彙力を伸ばしやすくなる。英検準1級に合格したら、ボキャビルの際には形態素を意識してみよう。

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 窓辺のテーブル 彼女たちの選択 』
『 天間荘の三姉妹 』
王立宇宙軍 オネアミスの翼

 

 

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