Jovian-Cinephile1002’s blog

古今東西の映画のレビューを、備忘録も兼ねて、徒然なるままに行っていきます

サンキュー・スモーキング

サンキュー・スモーキング 50点

2018年6月4日 レンタルDVDで鑑賞

監督:ジェイソン・ライトマン

出演:アーロン・エッカート ウィリアム・H・メイシー J・K・シモンズ ロバート・デュバル

 

 ロビイスト映画と言えばジェシカ・チャステイン主演の『女神の見えざる手』とケビン・スペイシー主演の『ロビイストの陰謀』が思い浮かぶが、本作はそれらのシリアスでダークなトーンの作品とは一線を画すコメディである。タイトルが全てを物語っている(ちなみに原題は ”Thank you for smoking”)。

 タバコPR会社のスポークスマンのニック(アーロン・エッカート)は、得意の話術でタバコ規制論者や嫌煙家を文字通り煙に巻いていくのが仕事である。冒頭、過度の喫煙が原因と思われる年少のがん患者も出演するテレビの討論番組で「タバコ会社は顧客に長生きして、煙草を吸い続けてほしいと思っている。その方が儲かるからだ。一方で嫌煙・反煙団体はこの少年に死んでほしいと思っている。そうなれば、彼らの予算が上がるからだ。恥を知るがいい」と、いけしゃあしゃあと言ってのける。屁理屈であることは直感で理解できても、この理屈を正面から論破するのは難しい。何故なら真実を含んでいるからだ。一事が万事この調子で、ニックはすいすいと仕事をこなしていく。一人息子との議論でも、ロビイストらしい屁理屈を並べ立て、議論を煙に巻いていく。

 しかし、あるところで事件が。その事件の詳細については、書くべきではないだろうし、書いてもあまり面白いものではない。陰惨な事件というわけでもなく、コメディタッチの事件であると言えるが、その一方でアメリカらしい、というかアメリカの嫌な面、決して真似をすべきではない面を反映する事件でもある。極端な実例を挙げれば、プロライフ(人工中絶を認めない、胎児の命こそ至高という考え方)とプロチョイス(人工中絶を認める、女性の選択権こそが至上という考え方)を巡る論争が、中絶を手掛けるクリニックの爆破事件という形でピークを迎えてしまったことがある。法治国家で言論や思想の自由が認められていても、それらの自由を極端な形で行使することには一定のリスクが付きまとうというのがアメリカ社会の恐ろしいところ。しかし、それだけ自らの信じる思想に忠実であるという意味では、日本にもほんの少しその芯の強さを分けてほしいと思わないでもない。

 ニックの好敵手の上院議員を演じるウィリアム・H・メイシーはまさに名バイプレイヤーである。大杉蓮的なポジションをがっちりと掴んでいる。くれぐれも心臓発作などで急逝しないでほしい。映画の面白さは脇役や悪役で決まるものだから。

 この映画のテーマは決して煙草の是非を問うものではない。また何故仕事をするのかというものでもない(劇中で「99%の人は住宅ローンを払うため」と繰り返される)。常識を疑い、自分の頭で考え、自分の決断を信じることが簡単に見えて実は難しいということをあっけらかんと語っているのだ。批判的思考(クリティカル・シンキング)のヒントを求める大学生や、子どもが大人の一歩手前にまで成長してきた親が何らかの示唆を求めて観てみると、意外に楽しめるかもしれない。