Jovian-Cinephile1002’s blog

古今東西の映画のレビューを、備忘録も兼ねて、徒然なるままに行っていきます

『 ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅 』 -The Wizarding Worldの復活-

ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅 60点
2018年11月29日 レンタルDVD鑑賞
出演:エディ・レッドメイン キャサリン・ウォーターストン ダン・フォグラー クアリソン・スドル エズラ・ミラー ゾーイ・クラヴィッツ ジョニー・デップ
監督:デビッド・イェーツ

 

ハリー・ポッターは最初の1冊だけ小説を読んだ。映画は全部観た。原作の翻訳者が大学の大先輩で、2000年ごろの大学祭での講演も聞いたことがある(ただの自慢話だったと記憶しているが)。Universal Studios Japanにも何度か行ったが、ハリポタのアトラクション・ライドは必ず乗ってきた。大ファンというわけではないが、The Wizarding World of Harry Potterの世界にはそれなりに魅了されてきた。作品としては続編(sequel)だが、物語としては前日譚(prequel)である。

 

あらすじ

魔法動物学者のニュート(エディ・レッドメイン)は、様々な魔法動物の収集と保護のためにアメリカを訪れる。しかし、魔法のトランクから一部の動物が脱走。アメリカ魔法省からお咎めを受ける。逃げ出したファンタスティック・ビースト、さらには未知の魔法生物を探し求めて、ニュートの冒険が始まる・・・

 

ポジティブ・サイド

ハリー・ポッターの世界と地続きなので、非常に入りやすい。服装、街並み、呪文など、いかにも前シリーズを意識していて、すんなりと世界に入って行ける。

 

キャラクターも良い。ハリポタ世界のマグルは、はっきり言ってあの嫌味な一家の印象しかないが、ジェイコブ・コワルスキーに(ダン・フォグラー)は嫌味がない。彼は人間味に溢れ、なおかつ非常に好感を抱きやすい好漢だ。このノーマジ=人間とニュート、ティナ(キャサリン・ウォーターストン)、クイニー(アリソン・スドル)が織り成す関係こそが物語の軸になるということが即座に分かる。素晴らしいは褒めすぎだが、しっかりとした導入部分を作れている。

 

今作では、オブスキュラスという魔法生物?怪物?が猛威をふるう。ハリポタ世界のデスイーターをさらに凶悪かつ破壊的にした感じで、そのCGビジュアルは美麗にして禍々しい。ハリポタ世界では、純血と混血の対立と融和が裏テーマとして存在していたが、ファンタビ世界では、愛される者と愛されない者の対立と融和が、おそらく裏テーマとして設定されているようだ。これはこれで興味深いし、時代や社会の背景を如実に映し出していると言える。愛は種を超えるのか。世界を超えるのか。なかなかに深遠なテーマに挑んでいる。その意気やよし。

 

エディ・レッドメインは『 博士と彼女のセオリー 』では圧巻の演技を見せた。『 ホーキング 』では同役をベネディクト・カンバーバッチが演じたが、両者の30歳前後での純粋な演技力だけに注目すれば、レッドメイン > カンバーバッチとなろう。本作でもその演技力の高さは遺憾なく発揮されており、様々な魔法生物に相対した時の声の出し方、票の作り方、なで方や触り方、歩き方や忍び寄り方の随所に、現実世界の動物学者やレンジャーたちと共通するモーションが見られた。興味と暇のある方は、ぜひ本作のニュートの動き方、立ち居振る舞いを頭に刻みつけた上で、NHKの『 ダーウィンが来た! 〜生きもの新伝説〜 』を視聴してみよう。

 

ネガティブ・サイド

残念ながら、ハリー、ハーマイオニー、ロンの3人組のケミストリーには及ばない。というか、比べること自体が酷であろう。J・K・ローリング自身もそのことを自覚しているからこそ、メインキャラ達を大人に設定し、そこにノーマジを加えてきたのだろう。しかし、ハリポタ世界の sequel ならまだしも、prequel の世界では、それは最善手ではなかった。

 

また、これも比べるのは酷なのだが、ハリー・ポッターにおけるヘドウィグのテーマほどの象徴性のあるサウンドトラックが無かった。例えば、スター・ウォーズにおけるミレニアム・ファルコンのテーマ・・・までは望むべくもないが、これを聞くとニュートの顔が思い浮かぶ、という力のあるサントラが欲しかった。

 

シリーズが続いていくほどに、様々な謎やキャラクターの過去も明かされていくと思うが、グリンデルバルドの登場があまりにも唐突すぎたように感じた。このキャラの深堀りは次作以降に行われるのだろうが、ヴォルデモートの「名前を言ってはいけないあの人/He who must not be named」のような、そんなインパクトある二つ名が欲しかった。

 

最後に、やはりハリポタ世界におけるセブルス・スネイプのようなキャラクターが欲しかった。それがクリーデンス(エズラ・ミラー)なのか、それとも別キャラなのか、それともスネイプ先生は唯一無二の存在なのだろうか。抱える闇の深さが、実は愛の大きさを示していたという屈折したキャラの存在がやはり望まれる。

 

総評

前の打席で場外ホームランを打ってしまうと、次の打席で二塁打を打っても特に騒がれない。そんな不条理さが感じられてしまう。しかし、ニュートというキャラクターはとても魅力的で、今後どのような魔法生物と出会い、どのような魔法生物の知識を披露してくれるのかと思うと、それはそれで胸躍るものがある。期待しすぎないこと。それが今シリーズを鑑賞する時に最も大事なことなのかもしれない。