Jovian-Cinephile1002’s blog

古今東西の映画のレビューを、備忘録も兼ねて、徒然なるままに行っていきます

『 映像研には手を出すな! 』 -キャラ作りや演出が中途半端-

映像研には手を出すな! 40点
2020年10月3日 TOHOシネマズ梅田にて鑑賞
出演:齋藤飛鳥 山下美月 梅澤美波 小西桜子 桜田ひより 福本莉子 浜辺美波
監督:英勉

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旬な女優と人気アイドルを集めて作りました的なにおいがプンプンする作品。そういう映画は嫌いではないが、キャスティングが逆だろうと思う。すなわち、主役に役者、端役にアイドルにすべきだ。このあたりに邦画界の構造的な弱点が見え隠れしている。

 

あらすじ

浅草みどり(齋藤飛鳥)、水崎ツバメ(山下美月)、金森さやか梅澤美波)の個性あふれる3人は、芝浜高校で“最強の世界”を描き出すべく映像研を設立する。しかし、大・生徒会は有象無象の部活や同好会の乱立を快く思っておらず、部活動統廃合令を出してきた。果たして映像研は無事に活動をできるのか・・・

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ポジティブ・サイド

映画作りをする人々を題材にする映画というのはJovianの好みである。近年の邦画でも『 カメラを止めるな! 』という傑作が生まれた。英監督過去作『 トリガール 』は微妙な恋愛要素を入れたことでストーリーの密度や純度が低下してしまったが、本作の主役3人は男にわき目もふらず“最強の世界”を目指すところが小気味よくて、共感もしやすい。恋愛のあれやこれやで空回りする青春もあるにはあるだろうが、大多数の人間は友人や仲間との部活や遊びも同じくらい、時には恋愛以上に大切にしているものだ。

 

CG技術の向上と廉価化も本作は上手く取り入れている。アニメのラフ画をそのまま空間上に描き出し、皆が推敲を重ね、完成形に仕上げていく作業は、まさに現代的なアニメ作りを映像で巧みに表現できていた。今後は邦画も背景や大道具や小道具をCGで描くことが増えていくはず。そうした中、目の前には存在しないものを前に演技する力が、役者には今後ますます求められていく。そうした時代の端緒を描いているとも言えそうだ。

 

アホな部活や同好会が百花繚乱状態の学校だなと序盤で思わせてくれるが、それらを巧みに盛り込んだ終盤の展開は、お約束ではあるがカタルシスがある。『 賭けグルイ 』では有象無象の生徒は食われる存在に過ぎなかったが、本作はモブ連中がドンデン返しの立役者になっていた。これこそ王道的展開というものである。

 

ネガティブ・サイド

キャスティングが奇異に思える。原作を知らないJovianでも「なんか違うぞ?」と感じた。主演に浜辺美波を据えることができていれば、もっとコミカルでユーモラスな「浅草みどり」像を打ち出せていたに違いない。もしくは売り出し中の桜田ひよりもハマりそう。水崎ツバメを演じた山下美月と金森さやかを演じた梅澤美波の配役も逆であると感じた。役者の両親を持ち、読モでもあるサラブレッドには、長身かつ端正な顔立ちの梅澤の方が水先ツバメというキャラにマッチしているように思えた。

 

映画のあちらこちらにどこかで見たようなセットやガジェット、ロケーションが出てくる。

『 暗黒少女 』や『 東京喰種 トーキョーグール 』、『 翔んで埼玉 』や『 賭けグルイ 』など。もちろん、ほとんどすべてのシーンでオリジナルのロケ地を選定していると思われるが、構図の切り取り方がどれもこれも平凡、もっと言えば陳腐に見える。『 水曜日が消えた 』の図書館が『 図書館戦争 』と同じでカメラワークもそっくりだったことにウンザリしたが、作品を作る時に作り手、ことに監督は常にオリジナリティを追求してほしい。それはストーリーだったり、役者に求める演出だったり、カメラワークだったりと様々にあるが、どれでもいいのだ、クリシェで満足してはならない。

 

ストーリー展開にも粗が目立つ。なぜ大・生徒会にあれだけ激しく抵抗する映像研が、文化祭に出展するために他の部活や同好会を潰す必要があるのか。生徒会に反発しながら、やっていることが生徒会と同じになっているではないか。敏腕プロデューサーたる金森氏の面目が、これでは丸つぶれである。

 

ロボ研と手を組む展開は悪くないが、そのロボ研の連中が完全に単なるコミックリリーフ、いや、それ以下の扱い。巨大ロボの存在意義をロマンだと語るその言や良し。ならば、なぜ巨大ロボの戦い方や戦闘時のポーズや武器その他についても熱く語らないのか。そのあたり原作者とは話さなかったのか。もしくは英勉監督の中にはロマンがないのか。巨大ロボットとは、少年の自我の象徴である、怪獣とは、外部世界の理不尽さの象徴である。少年がそうしたものと戦うためには大人にならなければならないが、それはできない。だから巨大ロボに頼るのだ。英監督の心の中に、そうした観念はないのか。巨大ロボットのロマンとは何かについて真摯に向き合った形跡が見られない。

 

最後に、せっかく作ったアニメが映し出されないのは何故なのか。PCのEnterを押下した瞬間に、なぜか点灯していた講堂の照明まで消えたが、どういうことなのだ?執拗なまでに繰り返された爆発音の音響が本番で一切鳴り響かなかったのは何故なのだ?映像研の作品を観客が見られないというこのモヤモヤをどう我々は晴らせばよいのだ?

 

他にも気象研究部だとかピュー子だとか、本当に必要だったのだろうかと疑問になる。

 

色々な要素をとことん納得いくまで追求することなく、とりあえずテキトーにまとめてみました。そんな感じの作りに見えてしまい、残念である。

 

総評 

英監督は2010年以降、普通の映画監督とは思えない多作多産っぷり。だが、それが劇作術の向上の為せる業というよりも、漫画原作の映画化作業テンプレのようなものを手に入れてしまったからに思えてならない。まあまあ面白いけれど、突き抜けた面白さにはならないのだ。この手の「クリエイターを主人公にした物語」ならば、『 バクマン。 』の大根仁監督の方が手腕は優っているように思う。原作ファンにならお勧めできると思われる。Jovianの横の方に座っていた女子高生?女子大生?みたいなペアが、終始クスクスケラケラしていたから。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Creators …

金森の言う「クリエイターって奴らは」の私訳。こういう表現は十把一絡げにして複数形で表す『 スター・ウォーズ エピソード7/フォースの覚醒 』で、ハン・ソロの言葉を無下にするレイアを見たC-3POが一言、“Princesses …”=「お姫様という人種は・・・」と慨嘆していた。職場などで「まったく中年オヤジは・・・」と思ったら“Middle aged men …”、「管理職って奴らは・・・」と感じたら“Managers …”と複数形にして心の中でつぶやこう。

 

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