Jovian-Cinephile1002’s blog

古今東西の映画のレビューを、備忘録も兼ねて、徒然なるままに行っていきます

『 囚われた国家 』 -Rise up against all odds-

囚われた国家 65点
2021年1月27日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:ジョン・グッドマン ベラ・ファーミガ アシュトン・サンダース ジョナサン・メジャース
監督:ルパート・ワイアット

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ディストピアSFはJovianの好物ジャンルの一つ。アメリカの大統領もきっちりと入れ替わったところで、アメリカ人の意識の一面を映し出しているであろう本作を近所のTSUTAYAでピックアウトしてきた。

 

あらすじ

地球が異星人に統治されるようになって9年。伝説的な活動家の兄を持つガブリエル(アシュトン・サンダース)は、市民集会に現れる“統治者”に一矢報いるために爆弾攻撃を計画するレジスタンスのメンバーたちの動きに関わっていくことになる。ガブリエルの父のかつての同僚、刑事マリガン(ジョン・グッドマン)はそんなガブリエルを常に注視しており・・・

 

ポジティブ・サイド

H・G・ウェルズの『 宇宙戦争 』の頃から、エイリアンが地球へ侵攻してくる物語はカズ仮なく量産されてきた。だが、本作は冒頭のエピローグ部分で人類が敗北して、エイリアンの統治下に入ることになったということ極めて端的に描写した。本筋は、エイリアン統治に馴染んでしまった世界から始まるところがユニークな点である。

 

面白いと感じるのは、異星人、劇中の言葉を借りれば“統治者”の元で生きる者はますます富み栄え、そうではないものはとことん落ちぶれていくということ。なんのことはない。ネイティブアメリカンとヨーロッパからの移民の関係を、アメリカ人と宇宙人に置き換えただけである。つまり、アメリカ人にも自分たちが侵略者であり、自分たちの政治が虚飾であるという意識がはっきりと芽生えてきたということだろう。アメリカの作るSFはひたすら宇宙、つまりは上を目指すばかりだったが、本作では地下、つまりは下を目指すことが物語上で大きな意味を持っている。

 

他にも、アメリカ映画お得意のヒーロー信奉、すなわち一個人の英雄的な活躍により戦局を一気にひっくり返すような展開も、本作では見られない。本作はスパイ映画であるが、『 ミッション・インポッシブル 』や『 007 』のような超人の物語ではなく、圧倒的な強者の目を何とかかいくぐり、協力し合って目的を達成せんとする弱者の連帯の物語でもある。だからとって妙な人間ドラマ路線に舵を切らず、スパイ映画特有のヒリヒリするような緊張感を味わわせてくれるので、そこは安心してほしい。

 

侵略的な宇宙人が存在する世界で警察=体制側の人間vsガブリエルたちのような貧民という、人間同士の争いばかりがフォーカスされるが、本作の本質的なメッセージは「抗え!」ということである。脇役として数多くの映画を支えてきたジョン・グッドマンの静かに抑えた、それでいて内にマグマを秘めた演技が光る。最後のマリガンのネタばらしと言おうか、調査報告のシーンはサスペンスは『 女神の見えざる手 』を思い起こさせてくれた。

 

ネガティブ・サイド

主人公、というよりもオーディエンスが物語世界に没入するために感情移入すべき相手が変わっていく。それ自体はその他多くの映画でもこれまでに行われてきた。問題は、その視点の移り変わりが理解しづらいところだ。ガブリエル、その兄のラファエル、彼らの父の元同僚であったマリガンへと視点が変わっていくが、そこが少々、というか相当に強引だ。被支配者としてのアメリカ、ヒーローではなく群像、上ではなく下、という具合に多くの転倒した価値観を提示する本作であるが、「 物語として示したいもの 」が非典型的だからといって「 物語の示し方 」まで必要以上に凝る必要はない。むしろ、物語の示し方に凝るのならば、そのこと自体が大きな仕掛けになるような工夫を期待したかった(『 メメント 』や『 カメラを止めるな! 』など)。

 

レジスタンスのナンバーワンとされる存在の正体が割と早い段階でばれてしまうのはミスキャストではなかろうか。この役者が演じる役には裏が無い方が珍しい気がする。

 

映画の全編を通じて、編集が雑であるように感じた。あるいは脚本が練られていない。統治者側の特殊部隊の「ハンター」と聞けば『 ザ・プレデター 』を思い浮かべてしまうが、こいつらがあまり強くなさそう。というか強くない。武器を取り上げられた=火力ゼロなので、相対的にどんな相手に対しても地球人は不利になる、というわけではない。警察機構には銃火器の保持が認められている。であるならば、その程度の武力ではハンターにはまったく太刀打ちできないという説明あるいは描写を入れておくべきだった。

 

総評

全体的に非常に静かな作品である。思弁的なSFでありながら現実世界を巧みに写し取ってもいる。本作を通じてスパイ行為、テロ行為を反省的に見つめることもできるだろう。『 オブリビオン 』を楽しんだという人ならば、本作も楽しめる可能性が高い。エイリアンが登場するSFならドンパチが必須だ、と考える向きにはお勧めしづらい。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

a buff

劇中では a history buff  = 歴史オタクと訳されていた。Buffとは「熱中者」や「熱烈愛好家」、「マニア」のような人種を指す。

 

He is one heck of a baseball buff.

あいつは相当な野球狂だぜ。

 

のように使う。

 

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