Jovian-Cinephile1002’s blog

古今東西の映画のレビューを、備忘録も兼ねて、徒然なるままに行っていきます

『 アキラとあきら 』 -大企業パートがファンタジー-

アキラとあきら 50点
2022年8月28日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:竹内涼真 横浜流星
監督:三木孝浩

 

空飛ぶタイヤ 』や『 七つの会議 』の池井戸潤による小説の映画化。中小企業パートは見応え抜群だが、大企業パートは現実味が非常に薄かった。

あらすじ

倒産した町工場経営者の子、山崎瑛(竹内涼真)と大企業の御曹司、階堂彬(横浜流星)。正反対の理念を持つ同期入行の二人は、それぞれの仕事に邁進していく。しかし、山崎はある取引先との仕事で私情を挟んだことから左遷される。一方で東海郵船の社長、階堂彬の父が脳梗塞に倒れ、階堂は親族のしがらみに縛られることになり・・・

 

ポジティブ・サイド

Jovianの大学の寮の大先輩にカナイマンWikiではUFJ出身となっているが、実際はほぼ三和出身であられる)がいる。ありがたいことに今でもFacebookでつながりがある。その先輩が銀行員時代の債権回収の辛さを当時大学4年生だったJovianやその他の後輩にしばしばこぼしておられた。血も涙もない人間が上に行く世界というのは、逆に言えば血も涙もある人間が冷や飯を食わされる世界である。竹内涼真演じる山崎瑛がそのような世界で誠心誠意に銀行マンを務める姿は観る者の胸を打つ力があった。

 

銀行員でなくともサラリーマンなら、瑛の抱えるジレンマにいたく共感できることだろう。なぜ自分の提案が通らない。なぜ自分の稟議が通らない。若くしてそのような思いを抱き、だんだんと組織に染まり、情熱を失い、いつしか惰性で仕事をするだけになってしまった多くの中年サラリーマンが、 トップガン マーヴェリック 』におけるトム・クルーズの現役バリバリの姿に rejuvenate されている今、本作は純国産のサラリーマン賛歌たりうる。

 

本作のストーリーを一言でまとめてしまえば、お定まりの不良債権処理。しかし、単に融資を引っぺがして資産を切り売りし、銀行本体のダメージを最小限に食い止める話ではない。経営が悪化した企業に勤める従業員とその家族の姿を序盤のうちに十分に観る側に焼き付けることで、観客がその企業の従業員あるいはその家族であるかのように感じられる仕掛けがここで効いてくる。企業買収や融資について専門的な知識がなくても、凄いアイデアで大逆転できるということは十分に伝わってくる。しかもそれがもう一人の彬のパーソナルな問題の解決にもつながるという力業。原作未読のため、この筋立てが原作に忠実なのか、それとも脚色の妙なのか判断しかねるが、一定のカタルシスが得られることは間違いない。

以下、マイナーなネタバレあり

 

ネガティブ・サイド

冒頭の新人研修のファイナルでいきなり興ざめ。渡された資料の数字を粉飾するか?普通、こんなことをすれば役員激怒→新人研修担当激怒→新人にしてキャリアのお先真っ暗となりそうだが。それともそれが20世紀末の銀行だったのだろうか・・・

 

序盤で描かれる山崎瑛の行員としての仕事ぶりと対を成すはずの階堂彬の仕事ぶりが全くと言っていいほど描かれない。己に忠実な男が左遷され、己に忠実な男が順調に出世していくというコントラストが弱いせいで、その後に二人のキャリアが思わぬ形で交わり、共闘していくという流れに説得力が生まれてこない。ドラマのエピソードを持って詰め込めなかったか。

 

企業売却案件の相談行脚にしても、銀行員だけで回るものか?交渉の場には着かなくとも、東海グループの人間も同行して然るべきと思うが。またメインバンクの支援融資の可否が決まる前から買収先の企業が合意書に印鑑まで押していることに至ってはファンタジーとしか言えない。

 

役者の演技で見せるべきところでもBGMが少々邪魔をする。『 暗数殺人 』のクライマックス、BGMも何もなく、キム・ユンソクが訥々と語る。それでいて迫力満点のようなシーンは邦画では撮れないのだろうか。最後のBGMも物語の世界観とずれているようにJovianとJovian妻は感じた。

総評

社会や企業の成り立ちを基に本作を観るべきではない。タイトルにある通り、瑛と彬(こちらはちと弱いが)の二人の人間の思いや行動力に注目して観るべきである。鑑賞中は場面ごとに銀行員や、融資先企業の従業員、その家族という具合に共感の対象を変えていこう。そうすれば『 アキラとあきら 』というタイトルの意味に迫れるはずである。物語の整合性やリアリティなどは考えてはいけない。素直にサラリーマン賛歌として観るのが吉である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

fate

「宿命」の意。映画での使用例では『 ターミネーター2 』の There is no fate but what we make for ourselves. が特に印象深い。もう一つ、『 インディペンデンス・デイ 』のウィットモア大統領(『 トップガン マーヴェリック 』のボブの父親)の “Perhaps it's fate that today is the Fourth of July” から分かるように、客観的な事象としての宿命の場合は不可算名詞である。まあ、英語講師以外には全く不要な知識だろう。

 

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