つぎとまります 50点
2024年11月9日 シアターセブンにて鑑賞
出演:秋田汐梨
監督:片岡れいこ
『 惡の華 』、『 リゾートバイト 』で準主役だった秋田汐梨が、京都を舞台にした映画の主役を張るということでチケット購入。
あらすじ
保津川美南(秋田汐梨)は、日本一のバス運転士になるという夢を実現させるため、かつての地元、京都・亀岡のバス会社に就職する。教習と失敗を通じて徐々に成長していく美南は、ある時、自分が運転士を目指すきっかけになった運転士と再会するが・・・
ポジティブ・サイド
パイロットが呼気検査に引っかかってフライトが延期というニュースは数年に一回あるように思う。一方でバス運転手の呼気検査というのは新鮮だった。えらい大事になるようで、公共交通機関で働くということのプロフェッショナリズムが垣間見られた。
路線沿線の過疎化、それに伴う赤字化などの問題も、軽くではあるが触れられていたところも良かった。亀岡という京都市のすぐ隣でもそうした事態が進行中であるということは、地方の中核都市のすぐ近隣も同様ということ。バス運転士の給料カット、バス路線廃止、さらに万博用のバス運行のためだけに交野市のバス路線を廃止した維新の会を勝たせた大阪府民は、本作を観て何かを感じ取ってほしい。
それは半分冗談として、ビルドゥングスロマンとしては標準的な出来に仕上がっている。教習担当、同僚、上司、友人、常連客と登場人物も多士済々。大型車両をセンチメートル単位で操るシーンもあり、匠の技を見せてくれる。大昔、東京の三鷹市や小金井市に住んでいた頃は小田急バスに時々乗っていたが、今にして思えば、よくあんな図体の車両をあんな細い道路だらけの住宅地で右折左折を軽々行っていたバスドライバーたちはプロだったのだなあと思い起こされた。『 パターソン 』をもう一度観てみようかな。
『 しあわせのマスカット 』でも重要なモチーフになった西日本豪雨は本作でも取り上げられた。鉄道網が充実しているところに住んでいると気が付かないが、ちょっと田舎に行けば電車は基本的に一路線だけ。そこが寸断されてしまえば高校生やサラリーマンはお手上げ。バスの運転士もエッセンシャル・ワーカーなのだと気付きを与えてくれるストーリーには、日本中のバス運転士が喝采を送るのではないか。
オカルト的な展開も、割とまっとうに着地する。変に恋愛要素を入れずにビルドゥングスロマンに徹したのも好判断。
ネガティブ・サイド
バス運転手のプロフェッショナリズムは感じられたが、具体的な技術論がほとんどなかった。唯一あったのが、ある信号から次の信号までゆっくり走ればちょうど青のタイミングになるというものぐらい。これとて、道路事情や信号の時間調整次第ですぐに覆ってしまう。たとえばミラーの角度の調整だとか、西日があたる時間帯の姿勢の取り方だとか、そういったものが欲しかった。「周りをよく見てしっかり判断」とか、実際には何も言っていないに等しい。
新人というか、若い世代、あるいは女性という面で美南が役に立つという場面も必要だった。たとえば現金ではなくキャッシュレスで運賃を支払おうとして手間取る高齢者にてきぱきと対応するとか、あるいはバス利用する高校生たちのちょっとした変化に気づいてあげられるとか、そうした適性や成長過程を見せていれば、上司に直訴するシーンにもう少し説得力や迫真性が生まれていたかもしれない。
越境バスを描くのもいいが、もっと域内交通の足としての側面を強調してほしかった。バスは基本的には近距離移動の足なのだから。たとえば京都パープルサンガの試合前、試合後の観客の移動は大部分はJRおよびマイカーが担うだろうが、地域の小中学校生やサッカー少年少女を招待する場合にはバスが使われることが多いだろう。そうした地域密着型バスとしての側面をもっと強調すれば、亀岡のご当地ムービーとしての完成度を高められたと思う。
総評
明智光秀ファンのJovianにとって亀岡と福知山は、ある意味で非常になじみのある場所。そこを舞台に、バス運転手という誰もがなじみのある職業でありながら、その実態があまり知られていない存在に光を当てようという企画は買い。惜しむらくはストーリーにリアリティがない、演技が大袈裟、地元アピール不足だったことか。京都、大阪の人間なら応援の意味も込めて鑑賞するのもありだろう。本当は40点だが、秋田汐梨が可愛かった&亀岡が舞台ということで10点おまけしておく。
Jovian先生のワンポイント英会話レッスン
Does this bus go to … ?
劇中で一瞬英語も使われていた。「このバスは・・・に行きますか?」の意味だが、こういう場合は未来形ではなく現在形を使う。英語の現在形は、現在の状態だけではなく、性質や習慣性を表す時にも使われる。Will this bus go to … ? だと「このバスは・・・に行く予定(予定は未定であって決定ではない)ですか?」のようなニュアンスとなり不自然。
次に劇場鑑賞したい映画
『 ヴェノム:ザ・ラスト・ダンス 』
『 オアシス 』
『 本心 』
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