Jovian-Cinephile1002’s blog

古今東西の映画のレビューを、備忘録も兼ねて、徒然なるままに行っていきます

『 ナースコール 』 -年間ベスト候補最右翼-

ナースコール 85点
2026年3月21日 テアトル梅田にて鑑賞
出演:レオニー・ベネシュ
監督:ペトラ・フォルペ

 

看護師が主人公ということでチケット購入。思いがけぬ大傑作だった。

あらすじ

州立病院で働く看護師フロリアは、師長や同僚の欠勤のため、いつも以上に忙しい夜勤にないた。学生にも優しく指導しつつ、患者やその家族への対応を行っていくフロリアだったが・・・

ポジティブ・サイド

病院勤務看護師には外来担当と病棟担当があり、前者は説明能力が求められ、後者はケア能力が求められる。本作の主人公フロリアは後者の看護師である。キャラの設定としては30代半ばから後半だろうか。まさに看護師として最も脂ののった時期だろう。事実、非常に簡潔な引継ぎ情報を耳で聞いただけで、各部屋の患者の概要を的確に把握していく。

 

さっそうと病棟に向かっていく姿をERのカメラワークよろしく捉え、まずは高齢患者の下着の交換から。その後も各部屋をラウンドしつつ、テキパキと観察とアセスメント、そしてケアを行っていく。看護学校時代に口を酸っぱくして言われた一処置一手洗いの原則をフロリアが厳守している点も見逃すなかれ。

 

常にナーシングカートを持ち歩くのも病棟ナースあるある。また電カル(電子カルテ)用のPCもカート上部に常に設置という二刀流も忙しい病棟ナースのあるあるだ。

 

処置の速さだけではなく、観察眼の鋭さも素晴らしい。看護学生はよく高齢患者をアセスメントした際に「傾眠傾向」と書いてしまうが、フロリアはとある患者を一目見た瞬間に傾眠ではなく意識低下だと見抜いた。その原因をカルテおよび自身の知識から検索し、すぐにそれを低血糖だと判断した。このシーンはまさにフロリアのナースとしてのプロフェッショナリズムが詰まったシーンで、見ていて圧倒された。本当に何気ないシーンなのだが、本職ナースが見たら「ふーん、脚本家や監督はまあまあ分かってるやん」となることだろう。

 

もう一つの名シーンは患者に歌を歌うところ。これは子どもと高齢者、両方に実はかなり効果的だったりする。ちょっと意味は違うが、『 けったいな町医者 』でも寝たきりの患者に音楽を聞かせて、歌うように仕向けるシーンがあった。俺も実習で『夜霧よ今夜も有難う』を歌ったことが一回だけあったな。

 

職務を忠実にこなしていくフロリアだが、満床かつ二名の欠勤により、徐々に職務に追い詰められていく。特に個室の膵臓癌は・・・というように、思わずこちらが禁断の言葉使いをしてしまいそうになるぐらいである。また看護学生への言葉使いや態度も次第に強く、激しいものに変わっていく。本作はそうしたフロリアの変化を決してナレーションや、あるいは彼女自身の独白という形では映し出さない。それをするとフロリアの苦しみが急に他人事になってしまう。そうではなく、彼女の仕事ぶりだけを映し出すことで状況がいかにクレイジーであるかを浮き彫りにする。そしてそんな状況に追い込まれてしまった彼女と観る側がシンクロする。

 

患者への診断を説明せずに帰る医師。母の死に際して心無い言葉を投げかけてくる家族。看護師は別に聖人君子ではない。なんなら看護師の祖ナイチンゲールは喧嘩上等のファイターだった。そして医療ミス(すぐにリカバリー可能だったが)・・・とは言えないだろう。病棟実習の時でも、実際の現場の看護師の声を聞いても同じで、投薬前のダブルチェックなどやっている暇がない。日勤ですらそうなのだ。

 

とにかく医療、就中、看護は人手不足が激しい業界で、Jovianが看護学校にいた頃から「日本の有効な看護師免許発行数は130万、実際に働いているのは80万、残りの50万人が働けば人手不足は解消される」と厚生労働省や経済産業省は主張してきた。ならばそうした潜在看護師、休眠看護師が現場復帰しやすい環境を国が率先して整えるべきだ。そうした施策が上手く行けば、5年で5万人ぐらいは復帰するのではないか。

 

閑話休題。

 

モンスターのような患者たちも人間。そして看護師もエッセンシャル・ワーカーといえども人間。看護師が疲弊するのは看護という仕事が難しいからではない。看護という仕事を遂行することを困難にしてしまう社会的・政治的な状況こそが課題なのだ。ケアする側を誰がケアするのか。それは、いつ彼ら彼女らにケアされることになるか分からない我々の仕事ではないだろうか。

 

ネガティブ・サイド

国外に住む患者家族からの電話が病棟勤務看護師のPHSにかかってくるというのは解せない。それすらもしっかり対応するフロリアはまさにプロ中のプロなのだが。

 

総評

2026年のベスト候補の最右翼である。病棟での一晩という限られた時間と空間の中でこれほど濃密なドラマ、サスペンス、スリルを生み出せるのは、それがこの上なくリアルだからに他ならない。ラストシーンでフロリアの表情は我々からは見えない。このシーンは二通りに解釈可能だが、どちらの説をとってもよい。「エッセンシャル・ワーカーに敬意と安息を!」というのがペトラ・フォルペのメッセージなのだから。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

essential

コロナ禍においてエッセンシャル・ワーカーという言葉が認知された。その一例が看護師。essentialとはラテン語のesseを語源に持つ。これはベネッセ=bene(良く)+esse(在る)のesseと同じで、存在を意味する。essentialとはessenceの形容詞形で、日本語で言うところのエッセンス、すなわち存在の本質に関わるもの。エッセンシャルとは、本質的に存在しなくてはならないという意味。さて、自分は essential worker なのだろうか・・・

 

次に劇場鑑賞したい映画

『 オーロラの涙 』
『 ファンタスティック・プラネット 』
『 プロジェクト・ヘイル・メアリー 』

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