Jovian-Cinephile1002’s blog

古今東西の映画のレビューを、備忘録も兼ねて、徒然なるままに行っていきます

『 ひるね姫 知らないワタシの物語 』 -五輪前に鑑賞すべきだったか-

ひるね姫 知らないワタシの物語 50点 
2021年9月20日 レンタルBlu rayにて鑑賞
出演:高畑充希
監督:神山健治

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ハルカの陶 』や『 しあわせのマスカット 』と同じく、岡山を舞台にした映画ということで近所のTSUTAYAでレンタル。

 

あらすじ

東京オリンピックの年。森川ココネ(高畑充希)はいつも昼寝の時に同じ夢を見ていた。ある日、自動車整備工である父親が突然、逮捕され、東京へ連行されてしまう。幼馴染のモリオと共に父を救おうとするココネは、いつも自分が見る夢に父と亡き母の秘密が隠されていることを知り・・・

 

ポジティブ・サイド

眠りの先に広がるファンタジー世界というのは、それこそジャック・フィニィの昔から存在する。近年の邦画でも『 君の名は。 』などに見られるように古典的な設定だ。そこに本作はタブレットを使った魔法という、何とも摩訶不思議な設定を持ってきた。アーサー・C・クラークの「十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない」をそのまま適用しているわけで、これはこれで古くて新しく、非常に面白いと感じた。

 

絵柄も適度にデフォルメされていながら、媚びたようなアニメ的造形になっていないくてよろしい。妙に甘ったるいロマンス要素を極力排除したことで、家族のドラマとして成立している。

 

ココネというキャラが基本アホなのだが、それが時にユーモアを、時にスリルとサスペンスを生み出している。妙に頭が冴えたキャラよりは、こちらの方がよい。頭の良いキャラを設定してしまうと、行動に不合理さがなくなり、思わぬ展開を生み出しにくい。ココネが等身大の高校生キャラであることが、要所要所でストーリーを前に進める原動力になっている。

 

悪役が身震いするような悪ではなく、どこまでも小悪党であるのも良い。中学生ぐらいでは理解が難しいであろう経営哲学の違い、そのぶつかり合いが描かれるが、本作の悪役を本格派にしてしまうと「それも正しい」と感じてしまうナイーブな少年少女が絶対に一定数は出る。そうさせないで、しかし明確に悪は悪であると印象付けるキャラ設定の妙が光っている。

 

夢と現実のつながりの謎も、伏線自体は結構フェアに張られている。このあたりに『 君の名は。』の影響があるとみる向きもいるかもしれないが、これはパクリでもなくオマージュでもなく、オリジナル要素であると前向きに受け取りたい。

 

ネガティブ・サイド

ファンタジーでありながら、時間によってどうしても陳腐化してしまう科学の力にもフォーカスしているせいで、古典的な傑作にはなりえない。しかも、東京オリンピックというタイムリーなようなタイムリーでないようなイベントに関連させてしまったせいで、10年後に鑑賞する人からすれば「なんだこれ?」という物語になってしまっている。もっとプロ野球の優勝チームのパレードとか、力士の横綱昇進パレードのようなイベントにはできなかったのだろうかと思ってしまう。特に、現実の東京オリンピックの舞台で「事故」が実際に起こってしまったので、なおさらである。

 

岡山で鬼とくれば桃太郎であるが、イヌ、サル、キジはどこだ?また鬼が攻めてくるのにも違和感。鬼相手に攻め込んでは負け、攻め込んでは負けしながら、最後に勝つ方が桃太郎的では?

 

やっぱり岡山弁が下手。まあ、方言が上手い邦画というのは少ないし、アニメに至ってはもっとだろう。それでも、敢えて東京あるいはその周辺の、いわゆる標準語エリアから遠く離れた地域を舞台にするからには、もう少しその地域にリスペクトが欲しい。

 

全編通じてどこかで観た作品のパッチワーク的である。『 ゴジラvsコング 』のアレだったり、『 ぼくらの 』だったり、『 ドラえもん のび太の海底鬼岩城 』のバギーやら、とにかく指摘し始めるときりがない。オリジナル要素も強いが、過去の様々な作品の影響があまりにも濃厚に見えすぎるのも考えものである。

 

総評

評価が難しい作品。また、アニメでありながらも低年齢向けではない。ファンタジーでありながら、時間で風化する要素が強すぎる。しかし、根本のテーマである家族は鉄板で、ろくでなしの父の愛、死んでしまった母の愛というのは、陳腐でありながらも確かに観る者の胸を打つ力を持っている。高校生以上なら、そこそこ楽しめるはずだ。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

take a nap

「昼寝をする」の意。他にも get a nap や have a nap も使う。単に nap だけを動詞として使ってもよい。最も一般的なのは、やはり take a nap だろうか。

 

現在、【英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー】に徐々に引っ越し中です。こちらのサイトの更新をストップすることは当面はありません。

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『 レミニセンス 』 -トレイラーに偽りあり-

レミニセンス 45点
2021年9月19日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ヒュー・ジャックマン レベッカ・ファーガソン
監督:リサ・ジョイ

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大学の後期開講で多忙を極めるので簡潔なレビューを。

 

あらすじ

温暖化で都市は水没。戦争で人心は荒廃。人々は美しかった過去に囚われた。ニック・バニスター(ヒュー・ジャックマン)は、人々に過去の記憶を再現させる装置を使った生業をしていた。そこに謎めいた女性メイ(レベッカ・ファーガソン)が失くしものを探したいという依頼で舞い込んできた。やがてニックはメイと恋仲になるが、メイはある日、忽然と消えてしまい・・・

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ポジティブ・サイド

冒頭からの水没した都市の遠景から徐々にズームインしていく中、ヒュー・ジャックマンの語るナレーションにはしびれた。人々が絶望し、何かに救いを求めざるを得ない世界は十全に創り出されていた。土地持ち=資本家と、その下で生きる大多数の一般庶民という構図は、今後ますます顕著になっていくのかもしれない。

 

BGMも良い。金属質な音と液体的な音が効果的に背景に使われ、世界観を増強する。サントラの中でもレベッカ・ファーガソンが歌う ”Where or when” は初めて聞いたが、素晴らしい楽曲であると感じた。

 

消えたメイを追慕して装置に入り浸るニック、そして全く異なる事件の容疑者の記憶の中に偶然に見つかったメイを追ううちに、予期せぬ人物や思わぬ展開が目まぐるしく入り乱れる展開は、エンターテインメント性は抜群である。

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ネガティブ・サイド

ネタに新鮮味がない。ウィリアム・アイリッシュの小説『 幻の女 』以来の消えた女を追うというテーマに、『 秘密 THE TOP SECRET 』と『 インセプション 』と『 アンダー・ユア・ベッド 』の要素を足したように見える。

 

肝腎かなめの記憶再生の装置の仕組みも謎であるし、何よりも記憶が立体ホログラム再生されるのが腑に落ちない。一応、ヒュー・ジャックマンレベッカ・ファーガソン相手にそれらしく説明するシーンがあるもの、この説明で「なるほど」と納得できる人間がどれだけいるのだろうか。たいしたネタバレではないので書いてしまうが、「ファーストキスを思い浮かべろ」と言われて、その時の記憶が3Dで俯瞰的に、あるいはやや離れたところから広角レンズで捉えたもののように脳内で再生される人がどれだけいるというのか。せっかく映像と音によって構築された世界観が、この時点でガラガラと音を立てて崩れ落ちた。Jovianはそのように感じた。

 

映画の本筋とは関係ないが、日本版のトレーラーや各種販促物のあらすじは一体全体何なのか。よくもこれだけ間違った情報を流布できるものだと感心させられてしまう。ニックは記憶潜入捜査官ではないし、トレーラーや色々な紹介サイトで触れられている記憶世界の3つのルールもストーリーにほとんど絡んではこない。公正取引委員会に訴えることもできるほどの酷さである。

 

総評

映像と音楽・音響は素晴らしい。ケチのつけようがない。しかし展開に全く意外性がない。どこかで観たり読んだりした物語のパッチワークである。ライトな映画ファンにはお勧めできるが、ディープな映画ファンには勧め辛い作品である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

serve in the military

軍役に就く、の意。service = サービスであるが、これには戦務や戦役の意味もある。日本で使うことはまずない表現だが、戦争映画や歴史ドキュメンタリーではよく使われる表現なので、中級以上の学習者なら知っておいてよいだろう。

 

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『 マスカレード・ナイト 』 ー人間模様の描写が弱い-

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マスカレード・ナイト 45点
2021年9月19日 MOVIXあまがさきにて鑑賞 
出演:木村拓哉 長澤まさみ 
監督:鈴木雅之

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大学後期の開講ラッシュで仕事が多忙を極めているが、なんとか映画館通いは継続させたい。そこでお気軽に犯人当てでもするかと思い、本作をチョイス。犯人は2択まで絞って、なんとか的中させた。

 

あらすじ

都内アパート暮らしの女性殺人事件を捜査する警察の元に匿名ファックスが届く。その事件の犯人が、大みそかに仮面舞踏会を主催するホテル・コルテシア東京に現れるというのだ。警視庁捜査一課の刑事の新田(木村拓哉)は捜査のため再びフロント係としてホテルに潜入し、腕利きコンシェルジュの山岸尚美(長澤まさみ)と共に事件の解決に乗り出すが・・・

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ポジティブ・サイド

前作『 マスカレードホテル 』に引き続き、豪華キャストをよく揃えたものだと思う。木村拓哉長澤まさみを当て書きしたかのようにハマっていたが、今作でも他人をどこまでも疑う刑事と他人をどこまでも信じるホテルマンの対比が映える。

 

ホテルのフロントロビーのプロダクションデザインも、やはり見事の一語に尽きる。前作のスタートは拍子抜けするようなホテル外観のCGから始まったが、マスカレード=仮面舞踏会をタイトルに持つ本作は、そんな Establishing Shot は持ってこない。

 

冒頭の殺人事件から、怪しい客が次から次にやって来るシークエンスは確かに引き込まれる力を持っている。そこへ、他人のかぶる仮面を引っぺがしたい新田と他人のかぶる仮面を守りたい山岸のぶつかりあい=漫才的な掛け合いは、ワンパターンではあるが面白い。

 

冒頭の殺人事件の犯人、その密告者、そして犯人と密告者の関係が複雑に絡まりう展開は観る者をぐいぐいと引き込んでくる。謎解き要素を別にすれば、デートムービーにもなりうるだろう。

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ネガティブ・サイド

これはミステリに対してどれだけ慣れているかによるが、おそらく密告者が誰であるかは、分かる人はかなり早い段階で分かったのではないか。ズバリこの人物だと指摘できないまでも、こんな「属性」の人物あろうと見当はつく。これから観る人は、映画製作者(小説の作者も)は、新田や山岸を騙そうとしているのはなく、我々を騙そう、ミスリードしてやろうと思っていることを忘れるべからず。同時に、我々に対して結構フェアに伏線を呈示してくれてもいる。だが、今回の新田のファックスの文言への指摘は、あからさまにミスリードすぎるだろう。もう少し見せ方に工夫が必要だった。

 

犯人候補=ホテル客なのだが、ここの見せ方もあからさますぎた。「さあ、この人物は怪しいですよ」という人間を何度も何度も出し入れするが、さすがにここまでやるとすれっからしならずとも犯人候補からは外すだろう。このキャラをもっと怪しく見せる小道具として、とある隠語になっていない隠語(以下白字、Love Affair、情事、不倫、頭文字を取ればLA)をもっと効果的に使えたはずだ。

 

別の犯人候補について言えば、小日向文世が語る捜査情報とあからさまに食い違う情報が呈示された瞬間(以下白字、夫の死亡時期)に「こいつだ!」と思えたが、新田がその矛盾に反応できなかったのは無理がある。また、この犯人候補同士のとあるインタラクションをコンシェルジュである山岸がお膳立てせざるを得ない場面があるが、この展開にはおそらく全世界のホテルマンが頭を抱えることだろう。無理が通れば道理が引っ込むという極めて日本的な悪弊の顔が見える。もちろん、最後には痛快な肘鉄を食らわせるわけだが、この切羽詰まったタイミングでこんな展開を持ってくるか?この無茶苦茶な展開のおかげで「やっぱりあいつが犯人だ」と確信した。もっと純粋に推理をさせてほしかった・・・

 

ホテルのバックヤードに設置された警察の捜査本部は無能の集まり。「なんとしても犯人を見つけろ」の一点張りで、捜査の方向性も論理的な指揮も何もない。元警察官のJovianの義理の父親が見たら、どう感じることか。また、犯人の犯行動機も前作の極めてパーソナルなものから、巨大な相手に対する憎悪になっているが、そんなもんのどこに説得力があるのか。警察の権威を失墜させたいなら、衆人環視の中での犯行を止められなかったという汚名を着せるのではなく、誰も注目していない事件には警察は本腰を入れないということをもっと効果的に満天下に知らせるべきだろう。気宇壮大な犯行動機だが、ここまでくると小説ではなく漫画に思える。

 

総評

ミステリ小説の映画化というよりも、割と上質な2時間ドラマ、テレビ映画、またはドラマの劇場版だと捉えるべきだろう。長澤まさみはキャリアウーマンや母親役として芸域を開拓していくだろう。キムタクはおそらくキムタクのままか。おそらく第三弾も制作されるだろうが、その時はもっともっと純粋ミステリに徹してほしいものである。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

the 

冠詞は英文法の中で最も難しいと思っている。ちなみに難しさランク2位は単数・複数の使い分け、3位は前置詞である(あくまで私見)。時々、ホテル名には the をつけるべしと解説する書籍やサイトを見るが、厳密には正しくない。 

ホテル~には the はつかない

~ホテルには the がつく

というのが正しい解説。例を挙げると

〇 The Cortesia Hotel

✖ Cortesia Hotel

〇 Hotel Cortesia

✖  The Hotel Cortesisa

となる。英検1級、TOEFL iBT90点、IELTS7.0を目指す人なら正しく理解しておきたい。

 

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『 TENET テネット 』 -Blu rayで再鑑賞-

TENET テネット 80点
2021年8月28日~2021年9月5日にかけてレンタルBlu rayにて複数回鑑賞
出演:ジョン・デビッド・ワシントン ロバート・パティンソン エリザベス・デビッキ ケネス・ブラナー
監督:クリストファー・ノーラン

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TENET テネット 』の記事にコンスタントに色々な方からコメントを頂戴していて、ずっと再鑑賞を考えていた。忙しいなら忙しいなりに観るしかないと決意して近所のTSUTAYAでレンタル。様々な解説記事や解説動画と合わせて観ては戻り、観ては戻りを繰り返したところ、初回鑑賞時とは全く異なる感想を持つに至った。これは傑作である。

 

あらすじ

男(ジョン・デビッド・ワシントン)はとあるテロ事件鎮圧後、テロリストに捕らえられ拷問を受けていた。隙を見て服毒自殺した彼は、ある組織の元で目覚める。そして、時間を逆行する弾丸を教えられる。未来で生まれた技術のようだが、いつ、誰がどうやって開発したのかは謎。それを探り、第三次世界大戦を防ぐというミッションに男は乗り出すことになり・・・

 

ポジティブ・サイド

映像の迫真性に息を飲むことたびたび。初見時には話の筋を理解することに脳のリソースの結構な割合が費やされていたが、そこを抜きに目だけで鑑賞することで色彩の一貫性やカメラワークの巧みさが光る。決して極彩色にすることなく、全体に非常に金属的な鈍い色のトーンが全編を支配するが、それが時間の順行と逆行というテーマによくマッチする。

 

BGMも派手さはないものの、こちらも金属的な硬質さに満ちている。如何に現代が物質および機械に支配されているかを象徴しているかのようである。こうした映像や音楽の面での硬質さ=ある種の無機質さが通奏低音になっているが故に、未来人が環境の荒廃から絶滅の危機に瀕しており、それゆえに文明を滅ぼして豊かな自然に包まれた地球へ回帰したいという意図や願望が感覚的に想像できる。

 

コメント欄で紹介してもらったTENET/テネット 「陽電子は時間を逆行する」の意味&この映画のコンセプトを解説【核心ネタバレなし】という動画の「陽電子は理論上、時間を逆行しうる」という解説により、NHKにもちらほら出てくる東工大の山崎詩郎先生の量子擬人化説に賛同するようになった。鵜の目鷹の目の映画評論家やYouTuberによって、あのシーンのここにあれがこうで・・・という解説や説明、考察の洪水をかき分けながら何度も鑑賞したが、細部に関しては見れば見るほどに難しい。同時に big picture、つまり全体像についてはかなりはっきりした(ような気がしている)。未来人が現代人を使って現代人を滅ぼそうとしているのを、未来人が現代人を使ってそれを止めようとしている。その未来人というのが近未来人と遠未来人になっている。順行と逆行が交錯する”今”という瞬間、あるいは順行と逆行が完全に分離してしまう”今”という瞬間に生まれる人間の儚い関係性、しかし力強い関係性を描いているように見える。それはつまりニールと主人公の友情。ここだけは何度見ても小説および映画の『 ぼくは明日、昨日のきみとデートする 』そっくり。原子核と電子が惹きつけ合うのも、電子と電子が対生成、対消滅するのも、愛と憎しみ、生と死のアナロジーで説明できるかもしれない。

 

タイトルのTENETはラテン語学習者なら 原形は tenere で、それの 3rd person, singular, active, present でtenetやなと分かるが、これが原義の「持っている、持って行く、引っ張る」と英語のTENET = 主義主張、思想信条につながり、ラテン語と英語を組み合わせれば、「彼は主義主張を有している」という意味にも解釈ができる。Tenet 単体のラテン語であれば、He remembers.となり、「彼は覚えている」あるいは「彼は忘れない」となり、彼=名もなき主人公の男だと解釈すれば、実に意味深長だ。さらに ten = 10 を前後からくっつけた語にもなっているという解説には正直度肝を抜かれた。最後の10分の時間挟撃作戦というわけである。よくまあ、タイトル一つとってもここまで凝れるものだなと感心させられる。

 

ネガティブ・サイド

初見時と同じ感想になるが、やはり誰かと誰かが対消滅するシーンは必要だったように思う。それによって主人公が謎のマスク男と戦うシーンの緊張感がさらに高まるから。なおかつ、量子の擬人化という作品テーマをこれ以上なく具現化するシーンになっただろうから。

 

序盤に主人公が船の上で「このジェスチャーとテネットという言葉だけを覚えておけ」と言うシーンがあるが、そのジェスチャーが効果的に使われる場面はその後なかった。

 

総評

SF作品には2種類ある。時の経過、つまりは科学の進歩によって色褪せてしまう作品と、科学の進歩によっても色あせない作品である。もちろん科学は常に発展の途上で、過去30年にわたって名作とされてきた作品でも、10年後には核となるアイデアコモディティティ化しているかもしれない。その意味で本作は恐るべきアイデアと演出と驚き、そして実に陳腐なテーマ(=友情)を備えた作品で、長く時の試練に耐えることだろう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

What happened happened.

滑走路 』ではMove on = 「前に進む」を紹介したが、そこで What happened happened. にも触れていた。関係代名詞whatが云々と言い出すとJovianの嫌いな文法説明になってしまうのでやめておく。ニールが何度か口にするセリフで、直訳すれば「起こったことは起こった」、意訳すれば「起こったことは変えられない」となる。仕事でミスってしまった時、ひとしきり悔やんだら”What happened happened.”と心の中で唱えて、挽回のために動き出そうではないか。

 

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『 モンタナの目撃者 』 -山火事と暗殺者から逃れられるか-

モンタナの目撃者 65点
2021年9月11日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:アンジェリーナ・ジョリー フィン・リトル ジョン・バーンサル エイダン・ギレン ニコラス・ホルト
監督:テイラー・シェリダン

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テイラー・シェリダン監督の最新作。アメリカの大自然アメリカ社会の闇の両面を描くという点で『 ウインド・リバー 』の同工異曲だが、クオリティはそこまで及んではいなかった。だからといってホームランと比べると2塁打は確かに劣るが、凡退やシングルヒットよりも全然良い。

 

あらすじ

森林局のパラシュート隊員であるハンナ(アンジェリーナ・ジョリー)は、過去の消防活動からトラウマを抱えていた。そんな中、小川のほとりでコナー(フィン・リトル)と出くわす。コナーの父が恐るべき陰謀に巻き込まれたことを知ったハンナはコナーを助けると決意する。しかし、そこには追手と彼らが放った火によって起きた森林火災が迫って・・・

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ポジティブ・サイド

アメリカの雄大な自然の森や山々が活写されると共に、それが牙を剥いてきた時の恐ろしさも真正面から捉えられている。山火事の炎は言うに及ばず、雷の恐怖もなかなかのもの。序盤に新人たちの入隊セレモニーが行われているそばで飲んだくれながら、F-words連発で下世話なトークを繰り広げるハンナとその仲間たちに「こいつらが消防隊員で本当に大丈夫か?」と思ったが、実際はこれぐらい図太さと豪胆さがなければ大自然の脅威には立ち向かえないということがよく分かった。

 

かといってハンナは単に口が悪い、頭のねじが外れた消防士ではない。過去のトラウマに今も苛まれている。そんな彼女がコナーと巡り合うことで、過去のトラウマに決着をつけられる機会を図らずも手に入れる。序盤、いきなり住宅が吹っ飛ばされ、それをニュースで知った男性が息子を連れて逃走するシーンは観る側を置いてけぼりにするが、それを追撃してくる暗殺者ふたりの奇妙なバディっぷりが不気味さを倍増させる。

 

あるサバイバルスクールで文字通りに役者が揃い、ハンナとコナー、ハンナの元恋人で地元の保安官とその妻、そして山火事の猛威の三つ巴の戦いはまさに手に汗握る展開。「殺される」と感じた瞬間からの逆転や、「勝った」と確信した瞬間からの再逆転など、とことんまでサスペンスを追求した作りに100分という上映時間をもっと短く感じた。

 

エイダン・ギレンニコラス・ホルトの暗殺者二人組の容赦のない仕事ぶりと、それゆえの倒され方には納得。ジョン・バーンサルの保安官役も板についていた。子役のフィン・リトルの演技力も堂に入っている。涙を流すのではなく、父の遺志を継いで涙を必死にこらえる姿には脱帽。演出家や演技指導者の腕が良いのか、この子の訳とシーンの解釈が素晴らしいのか。最後にアンジェリーナ・ジョリーを称えないわけにはいかない。豪快さと繊細さ、力強さと優しさの両方を備えている。父子家庭で育ったと思しきコナーが父を失くしたからといって、安易に母親的な存在になろうともしない。相手を子どもではなく一人の人間として、まっすぐに目と目を合わせて話をする。ルックスでデビューして、加齢とともに消えていくどこかの国のアイドル卒の女優たちには、アンジェリーナ・ジョリーの出演作品を10回以上見せてやりたいと思う。

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ネガティブ・サイド

コナーが仔馬と交流するシーンが冒頭近くにあるが、これは何だったのだろう。てっきり終盤に森林の中で馬と出会い、動物と心通わせる力でもって、窮地を脱するのかと思ったらさにあらず。

 

バーンサルの上官が自身の妻からの電話応答を”Absolutely not.”といって断るシーンは必要だったか。これをやってしまうとそそっかしい人は「保安官は職務中は家族からの電話にも出ないのだな」と思ってしまう。ここは逆に電話に出て、保安官同士で使う隠語で妻に言葉をかけるぐらいが望ましかった。

 

不満を言わせてもらえば、落雷する平原を駆け抜ける際のハンナの指示にプロフェッショナリズムがもっとあれば良かった。いつ落雷するか分からないような超危険地帯では、雷しゃがみが鉄則。「こんな風にしゃがむのよ」的なことを言っていたが、こここそ「手を地面につかない」とか「かかとを浮かせる」といったことを復唱させる場面であると感じた。

 

あとは映画そのものの出来とは関係ないが、これまたトレイラーがほとんど全部のプロットを明かしてしまっている。できるだけトレイラーを見ずに臨むのが吉である。

 

総評

炎の熱がスクリーン越しにこちらに伝わってくるようなヒリヒリ感に満ちた作品である。自然の脅威と人間の追撃者の両方を扱った作品としては『 ローグ 』以上のサスペンスとアクションに満ちている。アンジェリーナ・ジョリーの迫真の演技とテイラー・シェリダンの描く極限的な状況がハイレベルで融合した佳作である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

read 

「読む」の意。通常は文字を読むのに使われる表現だが、日本語動揺に実は守備範囲が非常に広い動詞である。

lipreading = 読唇術
mind reading = 読心術
palm reading = 手相見
card reading = カードの読み取り(クレジットカードからタロットカードまで)

劇中では read the wind wrong =「風を読み違えた」という表現が出てきたが、ここまでくれば wind reading = 風読みも、ゴルフをたしなむ人なら分かるだろう。もっと一般的なところでは、正月に凧を揚げる時にどこに注目するかを思い浮かべればいい。それが風読みである。

 

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『 シャン・チー テン・リングスの伝説 』 -MCU新フェイズの幕開け-

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シャンチー テン・リングスの伝説 65点
2021年9月5日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:シム・リウ オークワフィナ ミシェル・ヨー トニー・レオン
監督:デスティン・ダニエル・クレットン

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ブラック・ウィドウ 』に続く Marvel Cinematic Universe の新フェイズ。明らかに中国市場を意識した作りになっているが、諸事情あって肝腎の中国では上映されないとか。なかなかの力作だけに実にもったいないと思う。

 

あらすじ

ホテルの駐車係のショーン(シム・リウ)は親友のケイティ(オークワフィナ)との出勤途中のバスで、片腕が剣になっている男に襲われる。ショーンは自らの秘めた力で応戦するが、それは彼の父の組織「テン・リングス」との闘いの幕開けだった・・・

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ポジティブ・サイド

冒頭からトニー・レオンが荒ぶる。テン・リングスという、まさに仙術武具とも言うべき武器の威力を見せつける。元ネタはやはり乾坤圏なのだろうか。非常にアジア的で、MCUの新フェイズを強く印象付ける。最初から最後まで悪役なのだが、MCUにちらほら出てくる小物的な悪ではなく、カリスマ的な悪のオーラを放っている。それもこれも愛する妻のためだというのが、陳腐ながら説得力あり。

 

ショーンことシャン・チーの実力発揮までも簡潔でよろしい。オークワフィナ演じるケイティとのバディっぷりを見せながら、バスの中でのいきなり格闘戦の始まりまでに無駄がない。アクロバティックな体術ながら、確かにこれなら鍛錬を極限まで積んだ人間なら出来そうなムーブで敵モブを蹴散らすのは爽快だった。ブルース・リージャッキー・チェンなら実際にできただろう。シム・リウには悪いが、彼らの顔を思い浮かべながら楽しませてもらった。

 

妹シャーリンとの再会と共闘もどこか『 フェアウェル 』的で、中国を市場として大いに意識しつつも、西洋文化に回収してやろうという意識を読み取れないでもない。シャン・チーとシャーリンの叔母にミシェル・ヨーがキャスティングされているのはその表れだろうと思う。CGとスタントダブル全開ながら、そのミシェル・ヨーもアクションで魅せる。とにかく一時期のWWEかと思うほど、ストーリーの緩急の緩に差し掛かると、無理やりにバトルである。ここまで開き直った作りは嫌いではない。

 

クライマックスのシャン・チー勢力 vs 父率いるテン・リングスの激突に第三勢力の登場、そしてスペクタクル満載のフィナーレへ。深く考えてはならない。『 ゴジラ FINAL WARS 』のようなものだと思うべし。人間同士のバトルと、怪物同士のバトル。つまりは派手なお祭りである。祭りなら楽しんだ者の勝ちである。

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ネガティブ・サイド

さすがにMCU映画も作りすぎてしまったか、映像やアクション面で新境地は少しは開かれているものの、構図がどれも似たり寄ったりになっていると感じる。バス車内でのバトルは『 デッドプール 』の乗用車内でのバトルを彷彿させるし、家族内の争いがそのまま世界の命運につながってしまうというのは、まんま『 ブラック・ウィドウ 』である。建設中のビルの足場でのバトルは残念ながら『 ザ・ファブル 殺さない殺し屋 』の方が先に映像化および公開をしてしまった。

ラストのバトルも、後から思い起こすと『 千と千尋の神隠し 』+『 モンスターハンター 』+『 アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー 』の足し算に見えてしまった。パッと見には真新しく見えるけれど、実は古い革袋に新しい酒ならぬ、新しい革袋に古い酒になっている。

 

未見だが、ディズニーの実写『 ムーラン 』もこんな感じなのだろうか。アジアのスーパーヒーローのMCU参戦は大歓迎だが、シャン・チーが『 ドクター・ストレンジ 』のエンシェント・ワン並みにユニークな闘い方の特徴を今後見せられるかが少し不安になってしまった。

 

総評

往年のブルース・リーの名作の数々から『 ベスト・キッド 』までの流れを汲みつつも、『 クレイジー・リッチ! 』や『 フェアウェル 』のような家族ドラマの要素も強い。アクション全開かつ満載で、何も考えなければ一気に最後までノッて行けるが、「どっかで観た構図だな、これ」とか考え出すとドツボにはまる。『 ドラゴンボール超 』のアニメ映画を観るつもりで鑑賞すべきだろう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

90% confident

劇中で「90%自信がある」というふうに使われていた。ここで知っておいてほしいと思うのは、【 数字+(単位)+形容詞 】という構造。最も一般的なのは I am 20 years old. や She is 155 centimeters tall. のような使い方だろう。ところがどういうわけか英会話スクール講師(日本人)の中にすら、Your student, 〇〇 san, will be late for 10 minutes. のような文章をメモやメールで使う者が多い。正しくは、〇〇 san will be 10 minutes late. である。ちなみにJovianの前の職場の日本人英会話講師は全員 late for 10 minutes を正しい英語だと判断する困った方々であった。

 

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『 サムジンカンパニー1995 』 -モデルはサムソンではない-

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サムジンカンパニー1995 80点
2021年9月4日 塚口サンサン劇場にて鑑賞
出演:コ・アソン イ・ソム パク・ヘス
監督:イ・ジョンピル

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Jovianは前職では英語・英会話講師、現職では企業・学校向け英語レッスンの教務担当である。今春に本作の紹介記事を読んで「TOEICのスコアアップに奮闘するOLたちの物語」と早合点していたが、どうしてなかなか骨太の社会はエンターテインメントであった。

 

あらすじ

サムジン電子に勤める生産管理のジャヨン(コ・アソン)、マーケティングのユナ(イ・ソム)、会計のボラム(パク・ヘス)は高卒というだけで制服を着せられ、小間使いばかりに従事させられていた。ある日、ジャヨンは近くの河川で魚が大量に死んでいるのを目撃、その後、自社工場から汚染水が排出されているのを目撃する。会社の不正行為に立ち向かおうとするジャヨン達であるが・・・

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ポジティブ・サイド

Jovian妻は大学新卒から東証一部上場企業の事務職であるが、旧態依然たる制服勤務、ファイリング、データ入力などに従事する毎日で、当然分厚いガラスの天井がある職場である。その妻が本作のオープニング映像に痛く感銘を受けていた。詳しくは見てもらえれば分かるのだが、とにかく男の仕事がいかにいい加減で、しかも縁の下の力持ちの存在に全く気が付いていないことが分かるだろう。1990年代の韓国企業を舞台にしたストーリーであるが、これが2021年の東証一部上場企業の中身にそっくりなところがいっぱいあるということに、我々はもっと衝撃を受けねばならない。

 

TOEICスコアが600点に達すれば「代理」になれるというお達しに色めき立つジャヨン達であるが、その一方で目撃してしまった自社工場からの汚染水の放出。これに目をつぶってTOEICスコアと共に栄達を目指すのか、それとも自身の正義感に忠実に行動するのか。このあたりの分かれ目がリアルに感じられた。当然彼女らは後者。持ち前の行動力と、長年の事務作業で培ってきた事務知識と事務処理能力を駆使して『 ミッション・インポッシブル 』的な潜入や調査を行っていく。FAXと電話番号の関係や、電話機の操作、オフィス用品の意外な用途など、知っている人であれば納得できる行動だろうし、知らない人が見れば「すごい!」と素直に感心できるだろう。

 

その過程で明るみになっていく数々の事実。それに関わるサムジン電子社内の複雑な権力構造と人間関係。ジャヨンたちが真実に迫り、それを社会に向けて告発しようと、まさに『 記者たち 畏怖と衝撃の真実 』や『 オフィシャル・シークレット 』のような展開が見えた瞬間に、韓国社会の無情な現実が立ちはだかる。『 トガニ 幼き瞳の告発 』のような胸糞バッドエンドなのか・・・と思わせてからの大逆転劇が愉快・痛快・爽快だ。韓国映画が近代史実を料理すると『 国家が破産する日 』のような展開かつエンディングを普通に作ったりするので油断できない。そうした自国映画の特徴までも伏線にした傑作である。

 

グローバル化、そして英語がキーワードの本作であるが、TOEIC対策のために会社で皆が勉強するという風景がどこか前時代的なのだが、これすらも伏線にしてしまうのだからイ・ジョンピル監督の手腕には恐れ入る。ジェットコースター的な展開の連続で「これはいける!」と思った瞬間からの転落劇や、どん底からの逆転劇が、行きつく間もなく繰り広げられる。社内の意外な人物が敵だったり、あるいは味方だったり、そうした人間たちを相手に虚々実々の駆け引きが行われ、観る側を決して飽きさせない。恋愛要素ゼロで突っ走るという、邦画では絶対に企画時点で却下されそうな脚本で最後まで全力疾走する。2020年代の韓国社会(日本社会も同様だ)の旧弊を公然と非難し、それを呵呵と笑い飛ばす会心の韓流コメディである。

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ネガティブ・サイド

出てくる男性キャラクターが一人を除いてアホ、鈍感、悪人のいずれかである。いや、根っからの悪人というのは少数なのだが、ある意味で自分の愚かしさや行動原理の醜悪さに気づかないアホや鈍感なので、同じ男としていたたまれない気持ちになってしまった。人の振り見て我が振り直せである。まあ、これは減点対象となるところではない。

 

英語クラスで自らに English name をつけるのだが、ジャヨンが自分につけたのはDorothy = ドロシー。「これは『 オズの魔法使 』へのオマージュか」と感じさせたが、特にそういった工夫はなし。Ma belleであるMichelleの過去が名前の意味と合っていただけに、SilviaやDorothyという名前にも、もっと意味を持たせて欲しかった。

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総評

痛快の一語に尽きる傑作である。シリアスでありながらコメディ、コメディでありながらシリアス。エンタメ性と社会性のバランス配分も素晴らしい。TVドラマの『 ショムニ 』のようだというレビューをちらほら見かけるが、全然違うだろう。片や、欲望のままに動いて結果的に会社の利益に。片や、正義感と信念に突き動かされて社会の利益に。本作は韓流『 エリン・ブロコビッチ 』であり『 女神の見えざる手 』であり『 ドリーム 』と評すべきだろう。遅くに上映してくれた塚口サンサン劇場に感謝。多くの方に劇場またはレンタルや配信でご覧いただきたい傑作である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Even a worm will turn.

「一寸の虫にも五分の魂」・・・よりも「なめくじにも角」の方がニュアンス的には近いように思う。作中ではTOEICによく出る英語の格言・諺の一つとして扱われていたが、主人公たちが一貫して見せつける意地を表す言葉にもなっている。TOEICには英語の格言や慣用表現というのはあまり出ないはず。イディオムについては、どちらかと言うとTOEFL ITPを受験しなければならない大学生が知っておくべきか。

 

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