Jovian-Cinephile1002’s blog

古今東西の映画のレビューを、備忘録も兼ねて、徒然なるままに行っていきます

『 シン・ゴジラ 』 -ゴジラ映画の一つの到達点-

シン・ゴジラ 90点
2019年5月30日 塚口サンサン劇場にて鑑賞(劇場鑑賞は通算8回目)
出演:長谷川博己 竹野内豊 石原さとみ 高良健吾 大杉漣
監督:樋口真嗣
総監督:庵野秀明

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タイトル発表時、シンの字の意味が色々と推測されていた。公開前の特番で松尾諭が「進」の字を当てていたのが印象に残っている。日本で大ヒットを記録し、海外で大絶賛と大顰蹙の両方を得た本作であるが、Jovianは傑作であると評価したい。

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あらすじ

東京湾内で謎の水蒸気爆発が発生。トンネル崩落事故や、船舶航行の停止、航空機の離着陸が停止されるなどの影響が出る中、原因は巨大不明生物であることが判明。その生物は川を遡上し、ついには東京都に上陸。甚大な被害を引き起こしていく。政府の取るべき対策は・・・

 

ポジティブ・サイド

≪重低音ウーハー上映≫および≪日本語字幕付き≫上映に行ってきた。そういえば、エアカナダの機内で英語字幕版も鑑賞していたんだったか。ブルーレイで3回鑑賞しているはずなので、通算では11回観たことになる。それでも2016年当時はテレビで「14回観た」とか「18回観た」とか、東京都内ではシン・ゴジラの感想を喋りまくれる喫茶店(的な店)が臨時オープンしたというようなニュースもあった気がする。それだけの熱量ある反応を生み出せる傑作であるとあらためて感じた。完全に時期外れなので、雑感レベルの落書きになるが、ご容赦を。

 

何よりも新ゴジラである。1954年のオリジナルの呪縛から解き放たれたと言うべきか、第一作を踏襲し、その上で乗り越えてやろうという気概を以って望んだ脚本家や監督はこれまでいなかったのだろう。庵野秀明はそれを希求した。そして異論は有ろうが、部分的にはそれを成し遂げた。戦争の爪痕や負の記憶が色濃く残る時代にゴジラという怪獣を送り込んだのと同様に、震災と津波、そして原発メルトダウンにより大被害を被った2011年の記憶も生々しい時期に、ゴジラという怪獣が日本に現れたことには意味があるのだ。佐野史郎が震災直後に東宝の関係者に「作るなら今ですよね?」と進言したところ、「実はアメリカで作る話が先行しちゃってるのよ」と返されたという逸話を深夜番組で語っていたが、映画人の中にもゴジラゴジラ性、すなわちゴジラは時代と切り結ぶ怪獣であるということをよくよく理解している方が存在することを知って心強く思った。

 

本作は震ゴジラでもあり、侵ゴジラでもあるだろう。不明な勢力からの侵略的行為に対して、この国の政府はどのように動き、またはどのような動きが取れないのかを、本作は徹底したリアリティ追求路線で明かしてしまった。はっきり言って『 空母いぶき 』製作者たち(原作者除く)は、本作を20回は観返して勉強した方が良い。

 

ハイライトのひとつであるタバ作戦の迎撃シーンも恐ろしい。何が恐ろしいかと言うと自衛隊の錬度。『 GODZILLA ゴジラ 』における米軍とは雲泥の違いだからである。いや、昭和から平成までのゴジラ映画において、自衛隊の攻撃の命中率はかなり悪かった。それは、子ども向けの怪獣映画だからでもあっただろう。しかし、本作の自衛隊は本物の自衛隊と見紛うばかりである。ヘリコプターの射撃やミサイル、戦車の砲火、長距離ミサイル、攻撃機からの爆弾(レーザー誘導弾なので当たり前の精度と言えるが・・・)が、一発たりとも外れないのである。ゴジラファンならばどうしても想像する、「もしもこれらの火力が、ゴジラをはずして、そこらの建造物に命中したら・・・?」と。おそらく武蔵小杉駅周辺はものの数分で瓦礫の山だろう。ゴジラだけに命中する火力の凄まじさを見せつけることで、ヤシオリ作戦ゴジラ固定プロセスが光る。この構成には唸らされた。

 

本作の描き方の特徴に両義性が挙げられる。「ゴジラを倒せ!」と「ゴジラは神だ!」と叫び合うデモ隊、日本政府に事前通告なく、いきなり攻撃機を送り込んでくる米政府に、日本の住民避難の時間の無さを心から憂う米大使館関係者、冷静沈着な矢口が激昂する瞬間に、ちゃらんぽらんにしか見えなかった泉が最も冷静さを保っていたこと、中盤のタバ作戦の迫真の戦闘描写&重厚なBGMと、終盤のヤシオリ作戦の漫画的戦闘描写&宇宙大戦争マーチ、陽のカヨコ・アン・パターソンに陰の尾頭ヒロミ、などなど枚挙にいとまがい。観るほどに発見がある。日本で大ヒット、海外ではおおむね酷評というのも、そう考えれば「らしい」結果と言えるのではないだろうか。

 

ネガティブ・サイド

ゴジラの血液サンプルは、蒲田さんから取れた。それは良い。しかし、鎌倉さんゴジラがタバ作戦を乗り越えて東京都心に侵攻、米軍のバンカーバスターで傷ついたゴジラは、背びれの一部を破損した。それも良い。しかし、その後にゴジラ自身が口から放射熱戦を大量に吐き出し、あたり一面を文字通り火の海にしてしまった。その時に、背びれ表面および中の血液も蒸発してしまうはずでは?自衛隊員のすぐそばにかなりの血液まみれの肉片が背びれから剥離して落ちてきたのは、やや不可解であった。

 

もう一つ、素人でも気になったのが鎌倉さんゴジラを上陸直前まで探知できなかったこと。現実の海上自衛隊海上保安庁が総力を以ってすれば、易々と捕捉できるはずだ。『 ハンターキラー 潜航せよ 』を思い返すまでもなく、水は空気よりも音をよく伝える。日本中の潜水艦およびソノブイをフル稼働させれば、上陸前に文字通り水際で作戦展開できたはずだ。リアル路線の中でも、ここだけはもう少し上手い言い訳を思いついて欲しかったと切に願う。

 

総評

今さらではあるが、本作は傑作である。2016年の日本アカデミー賞は本作と『 怒り 』の一騎打ちになると多くのメディアが予測していたが、蓋を開けてみれば本作の圧勝であった。それもむべなるかな。ゴジラファンのみならず、小出恵介ピエール瀧と再会したい映画ファンは、本作を観ると良い。というのは冗談であるが、シン・ゴジラは日本映画史に確実に残る一本である。怪獣というだけで敬遠するなかれ。本作を堪能できるかどうか。それが子どもと大人を見分けるためのリトマス試験紙になるはずである。

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