Jovian-Cinephile1002’s blog

古今東西の映画のレビューを、備忘録も兼ねて、徒然なるままに行っていきます

『 エリザベス∞エクスペリメント 』 -ご都合主義が過ぎる凡作スリラー-

エリザベス∞エクスペリメント 40点
2019年8月8日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:アビー・リー キアラン・ハインズ
監督:セバスチャン・グティエレス

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確か、未体験ゾーンの映画たちでパンフか何かだけ手に取った記憶がある。地雷臭がプンプン漂っていたが、Again, I was in the mood for garbage. 夏と言えばサメがゾンビのクソ映画祭りなのだが、たまには違うジャンルをば。本作はSFというよりもシチュエーション・スリラーである。しかし、シチュエーション・スリラーと呼ぶには、話があまりにもとっ散らかっているという印象である。期待せずに観た。そして、それで正解であった。

 

あらすじ

エリザベス(アビー・リー)は年の離れた億万長者の夫ヘンリー(キアラン・ハインズ)の自宅へと帰ってくる。そこは山中の湖畔にある豪邸で、室内プールにワインセラー、ブティックかと見紛うほどのドレスに靴まであり、自然に囲まれた別天地だった。しかし、ヘンリーはとある部屋にだけ、エリザベスが入ってはならないと言う。ある時、エリザベスがその部屋で見たものとは、彼女のクローンだった・・・

 

ポジティブ・サイド

ある時点までは万人の予想通りに進む。しかし、そのある時点からはやや予想の斜め上を行く展開になる。屋敷の使用人たちが発する雰囲気が、どこか『 ゲット・アウト 』の屋敷の住人およびゲストたちのそれと似ているのだ。こういう映画は観る者の予想を裏切ってナンボなのである。

 

男女、そして夫婦の仲というのは難しい。『 ゴーン・ガール 』を観るまでもなく、男(夫)と女(妻)が、腹の中に何を抱えているのかは外部の人間からは窺い知れない。夫は妻に何を求めているのか。そのような問いを突き付けられた時、そして本作のヘンリーのような夫に自分がなってしまってはいないかとの不安に襲われる諸賢は多かろうと推測する。いくら天才的科学者であっても、男はその本質においてアホなのではないか。英雄色を好む。古人に言によれば「英雄、色を好む」ということだが、逆に言えば「色を好むから英雄である」とも考えられる。

 

ヘンリーも相当であるが、オリバーもかなり危ない男である。エリザベスが魔性の女だからだと勝手に思い込むことなかれ。この盲目の青年の情念は、正常だとか異常だとかの尺度で測ってはならない。やっていることが、まんま山本弘の小説に出てきそうな無邪気で、それでいて自己中心的な思春期真っ只中の子どもの妄想である。というか、山本弘の小説に、地球が自分の意思で世界を二つに割って、片方に生きていたい生物、もう片方に死にたがっている生物を選り分けるような短編があったが、そこに出てくるアホなガキンチョとオリバーは、本質的に同じ思考、同じ行動原理を持っている。キモイの一言に尽きる。

 

男というのは、どうしようもなくアホな生き物であるということをまざまざと見せつけてくる怪作である。

 

ネガティブ・サイド

いくらなんでもセキュリティが緩過ぎるだろう。本当に見られたくないのなら、厳重に施錠しろ。というか、出入り口を作っては駄目だろう。大富豪にしてノーベル賞受賞者なら、もうちょっと頭を使って欲しい。本作はほぼ全編、邸宅内でストーリーが進行する。つまり、舞台が一つだけなのであるが、このようなご都合主義的なドラマツルギーは創作、演出上の逃げである。こういった部分でサスペンスを生み出し、それを終盤のドンデン返しへの伏線とするような脚本が望まれているのだ。

 

その一方で、家の外に出るためのセキュリティが固すぎる。というか、屋敷の外に通じる道が巧妙にふさがれて、あるいは防弾使用になっていることで、ヘンリーの秘密のクローン保管室への扉がいとも簡単に開いてしまうことに納得ができなくなる。このマッドサイエンティストは頭が良いのか悪いのか、分からなくなってしまう。本作のテーマの大きな部分に、クローンという存在に対してどのような感情を以って接するべきかというものがある。理性と感情は別物である。それは分かっている。だが、それでもヘンリーの行動原理や思考には首を傾げざるを得ないところが多々ある。結婚を「誘拐」に例えるセンスには眉をひそめてしまうし、無数にクローンが存在するならばまだしも、6人しかいない貴重なクローンをいとも簡単に始末してしまうところなど、彼の言う愛は自己と他者の関係のことではなく、性欲のことではないのかとさえ感じられてしまう。底知れないキャラクターに見せかけて、非常に底浅く感じられるのである。

 

また、盲目のオリバーについても疑念が残る。というよりも不可解さが残る。盲目であっても、信じられない能力や技能というのは身につくものだ。フィクションの世界では座頭市しかり、実在の人物では石田検校しかり。だからオリバーが銃をぶっ放すぐらいは気にしない。しかし、注射器を巧みに操るというのは一体全体どういうことだ?どの瓶に入っているのがどの薬品で、その薬品の有効期限はいつまでで、なおかつその薬品の適切な投与量がどれくらいなのかを、盲目でありながらどのようにして把握したというのか。合理的な説明が見当たらないし、思いつかない。

 

総評

扱っているテーマは面白い。しかし、邦題がまずい。∞マークは完全なるミスリード材料だ。同じようなSFチックなシチュエーション・スリラーなら、『 トライアングル 』(2009年 クリストファー・スミス監督作)や『 月に囚われた男 』をお勧めしたい。

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