Jovian-Cinephile1002’s blog

古今東西の映画のレビューを、備忘録も兼ねて、徒然なるままに行っていきます

『 ギャングース 』 -半端者たちの中途半端な物語-

ギャングース 50点
2019年12月30日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:高杉真宙 渡辺大知 加藤諒 金子ノブアキ
監督:入江悠

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東宝シネマズ梅田で昨年公開していたのを見逃したので、あらためてDVD鑑賞。日本の暗部を上手くエンターテインメント風にまとめてはいるが、最後の最後のショットは人によって好みや解釈が分かれるところだろう。それが入江監督の意図なのかもしれないが。

 

あらすじ

サイケ(高杉真宙)、カズキ(加藤諒)、タケオ(渡辺大)は少年院上がりの3人組。まともに社会復帰ができない彼らは、半グレ集団からのタタキ(窃盗)を稼業にしていた。そして3人で3000万円を貯めて、正道に立ち返ることを目標にタタキに邁進していくが・・・

 

ポジティブ・サイド

若手俳優たちが躍動している。ヤクザ映画が時代と共に減産となり、入れ替わるかのように盃ごととは異なる次元のアンダーグラウンド世界を描く作品が映画や漫画、小説でも増えてきた。特に高杉真宙は『 君が君で君だ 』のクズ彼氏役が今一つだったが、『 見えない目撃者 』で悪ぶった10代を好演。そして本作でも少年院あがりの半端者をしっかり表現できていた。この調子で精進して第二の菅田将暉を目指すべし。

 

Jovianのお気に入り俳優である渡辺大知も光っていた。『 ここは退屈迎えに来て 』でも、子ども時代になかなか決着をつけられない半端な大人キャラ、さらにはLGBTQをも思わせる役を演じていたが、本作でも爽やかながらに前科者というギャップのあるキャラを、明るさあと腕っ節の両方で描出した。

 

だが何と言っても白眉は加藤諒だろう。三枚目キャラでありながらも最も重い因果を背負っているというギャップがたまらない。刹那的な生き方 ― それはつまり牛丼だ ― を追い求めるのは、一日を生きることにも苦労したことの裏返しである。犯罪を行うことに最も屈託がなさそうに見えるのは、それだけ普通の生活を送ってこなかったことの証明でもある。幸せになりたい、そして誰かを幸せにしてやりたいと心から素直に願えるのは、幸せの閾値が低いからである。それは不幸なことかもしれない。幸せな体験が少ないことを意味するから。一方で、それは幸せなことかもしれない。ありふれたことにも幸せを見出せるから。このカズキというキャラクターをどう捉えるかが、その人の心の豊かさ、または貧しさの度合いを測るリトマス試験紙になっている。そしてカズキは『 存在のない子供たち 』のゼインでもある。詳しくは作品を鑑賞されたし。ところで、このキャラの前科を描くシーンおよび家は『 閉鎖病棟 それぞれの朝 』で鶴瓶が妻と間男を刺殺した家だろうか。家もそっくりに見えるし、殺人に至る流れもそっくりであり。

 

金子ノブアキの番頭ぶりも良い。番頭と言えば漫画『 魔風が吹く 』が思い出されるが、金子も負けていない。オレオレ詐欺の前に従業員に対してmotivational speechを行う様は圧巻である。チンピラ的な役が多かったが、年齢相応に存在感やカリスマ性も増してきた。ピエール瀧の後釜を本気で狙ってほしいと思う。

 

MIYAVIも悪くなかった。『 BLEACH 』では信じられないほどの大根演技を披露したが、本作では喋りだけではなく格闘アクションも披露。『 影踏み 』の山崎まさよしのように音楽と演技の二足のわらじを履き続けられるかもしれない。

 

ネガティブ・サイド

事実を取材したというが、リアリティの欠如も多い。半グレの借りている貸倉庫を急襲してタタキを行うのは分かる。半グレは警察に被害届を出すことをためらうからだ。だが、鍵を壊された貸倉庫の業者はためらうことなく被害届を提出するだろう。それとも貸倉庫自体が半グレの経営によるものなのか?そのような描写はなかった。

 

また、今日のメシ代にも困る奴らがクルマを乗り回していることにも違和感を覚えた。ガソリン代はどうやって捻出している?そもそも免許を持っているのか?車検などをしっかりクリアできている車両なのか?車両保険はどうなっている?いままで一度も検問や職質にひっかからなかったとでも言うのか?

 

六龍天が本当に口にするのもはばかられるほどヤバい組織であるという設定はよい。だが、そのトップが腕っぷしで勝負するタイプというのはどうなのだ?ヤクザなら銃やドスを普通に持っている。自分自身が武装していなくても、取り巻きが短刀やスタンガンなどの武器を携帯していないのは不自然極まりない描写に感じられた。

 

本作の裏テーマは、「家族とは何か」である。『 万引き家族 』を観るまでもなく、血のつながりは濃いものであるが、血のつながりよりも濃いものもあるのである。それは『 スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け 』のテーマでもあった。カズキは疑似的な妹ができるのだが、彼女を引き取ろうという気概はないのか。家族とは作り上げるもの、そしてどんな形であれ最終的には離散するものでもある。子どもとは巣立ちしてナンボなのである。少年院を出たということは少年だったということである。だが、いつまでも少年ではいられない。この3人組は友情を確かめつつも、成長と独立を志向すべきだった。それこそが本当の意味のカタルシスにつながる。エンディングのショットは解釈が割れるだろう。幸せは平々凡々な瞬間に存在するという意味にも受け取れるし、他人の幸せに関心を払う人間など現代には存在しないという風にも受け取れるからである。Jovianは前者の説を取りたい。何故なら、それこそが全編をかけて本作が追い求めてきた真実だからである。だからこそ入江監督には、曖昧な映像ではなく、しっかりとした意図が込められた画で最後を締めて欲しかった。

 

総評

半グレは残念ながら日本社会に根を張ってしまった。そうした半グレを逆に狙う少年たちの物語は、それだけで痛快である。同時にそうした世界に足を踏み入れてしまうことのリスクも一応描かれている。そして、幸せとは何かを考えるきっかけにもなる本作は、中高生の教育用に案外向いているのかもしれない。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Let us do this heist!

タタキという言葉は完全にジャパニーズ・スラングである。だが、英語では強盗・窃盗はheistという。「このタタキ、やらせて頂きます!」も上の英文でOK。ちなみにheistという単語は傑作映画『 ベイビー・ドライバー 』で頻出する。動詞の選択に迷った時はdoでOKである。

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