Jovian-Cinephile1002’s blog

古今東西の映画のレビューを、備忘録も兼ねて、徒然なるままに行っていきます

『 ジェイン・オースティン 秘められた恋 』 -社会的属性から偏見を取り除くべし-

ジェイン・オースティン 秘められた恋 70点
2020年9月5日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:アン・ハサウェイ ジェームズ・マカヴォイ
監督:ジュリアン・ジャロルド

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商業柄、TOEFL iBTという英語の資格検定を教えることがある。そこで、出てくることがあるのがJane Austen。Official Guidebookにも出てくる。オースティンは一般には『 高慢と偏見 』の作者として知られているのだろう。彼女は『 メアリーの総て 』のメアリー・シェリーよりもさらに一世代前の人物で、まさに女性小説家の始祖の一人と言える。

 

あらすじ 

イギリスはハンプシャーの貧農家に生まれ育ったジェイン(アン・ハサウェイ)。両親は彼女を裕福な名士と結婚させたがっていた。だが、ジェインは財産ではなく愛を結婚に求めていた。良家との縁談も断ってしまうジェインだったが、法律家の卵であるトーマス・ルフロイ(ジェームズ・マカヴォイ)と出会い・・・

 

ポジティブ・サイド

何よりも目立ったのアメリカ人であるアン・ハサウェイBritish Englishを流暢に操ること。一般的には『 ブレス しあわせの呼吸 』のアンドリュー・ガーフィールドのように、アメリカ人が英国風の英語を話すのは結構骨が折れる。その逆はそうでもない。アメリカ英語を使いこなす英国人やオーストラリア人の俳優は多い。その意味でアン・ハサウェイの演技は際立つ。また、目の大きさが特徴でもあるハサウェイは、その目の演技でも光っていた。初対面のルフロイから得た最悪の第一印象。朗読会の後に、ルフロイに生まれた静かな怒りの炎がその目の奥で燃え盛り始める瞬間の演技はベテラン女優の風格。当時のハサウェイは20代のはずだが、これは凄いと素直に感じられた。

 

対するはジェームズ・マカヴォイ。Jovianが世界で最も実力を評価している俳優である。常に自信満々で、弁が立つ。まさに法律家の卵という感じだが、その根底には男らしさがある。登場早々にボクシングをしているが、その拳闘の腕を力自慢のためではなく自らが信じる正義のために振るう、つまり自らの信念に準じて行動する様は見ていて気持ちがよい。一方で、どれほど頭脳明晰であろうと男はこと色事に本気になるとアホになるという、男の真理も体現している。

 

この主役二人に共通するのは、時代という抗いようのない外形的な圧力を受けながらも、心の中にはしっかりと個人を持っているところである。過剰とも思えるほどに会釈を繰り返すのは、それがマナーであり社会のコードであるからだが、一方でそうしたしきたりめいたものに抗おうとするのは、まさに地域や時代は違えど、ロミオとジュリエット的である。つまり、観る者の胸を打つ。

 

印象に残るのは舞踏会。反目しながらも惹かれ合いつつあるジェインとトムが踊りながら言葉を交わすシーンは大勢の人間に囲まれているにもかかわらず、とてもロマンチックだ。『 スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け 』のレイ・とベン・ソロのような関係を作る、つまり自分たちだけの時空に没入してコミュニケーションを取っているからだ。ロミオとジュリエットよろしく、駆け落ちをしようとするも上手くいかない二人の姿に、言いようのないもどかしさを抱くが、それが時代や社会の違いなのか、それとも自分自身の感性によるものなのかは観る人によって異なるだろう。また男女でもこのあたりの感想は異なって来ると思われる。時間があればRotten Tomatoesあたりのレビューを渉猟してみたい。

 

ラストも泣かせる。『 僕の好きな女の子 』の加藤ではないが、男は自身の恋愛を「名前を付けて保存」する生き物である。そのことを何よりも雄弁に物語るエンディングに、心揺さぶられずにいられようか。このシーンは他の意味でも特に印象的だ。邦画の世界も、メイクアップにこれだけの労力を是非割いてもらいたいと思う。アメリカに逃げられてもいいではないか。第二・第三のカズ・ヒロを生み出そうではないか。

 

ネガティブ・サイド

冒頭の牧師の言葉はあまりにも直接的すぎる。もっと当時の普通の暮らしぶりの中で、女性が個性を発揮することができず、ステレオタイプな役割のみに従事する、あるいはステレオタイプな人格のみを有することが求められる時代と社会だということを、もっと映画的に語る方法はあるはずだ。そうしたシーンを冒頭で一気に見せるか、あるいは牧師の言葉(「女性に機知は無用」云々)は中盤に持ってくるべきだった。

 

プライドと偏見 』とのつながりがよく見える、というよりも『 プライドと偏見 』から逆に計算して作られたかのようで、捻りがない。すべてがある意味で予定調和的である。もっと自由に話を盛ってしまっても良かったのではないか。たとえばトムがジェインの作品を評して「(恋愛)経験が不足している」と言い放つが、であるならばトムがリードする形での恋愛の手ほどきや、あるいは同衾するシーンがあってもよかったのではないか。直接そうしたシーンを見せずともよい。『 博士と彼女のセオリー 』でジェーン(フェリシティ・ジョーンズ)がジョナサンのテントを訪ねたようなシーン、あのような間接的な描写でもってジェインとトムが一夜を共にしたのだな、と観る側に思わせる大胆な演出があってもよかった。

 

最後にジェイン・オースティンという人物の歴史的な役割を総括するシーン、あるいは簡潔な説明が欲しかった。『 ストーリー・オブ・マイ・ライフ わたしの若草物語 』にも共通するが、作家の残した物語は有名でも、作家自身はそれほど知られていないことはよくあるからである。

 

総評 

2000年代の映画であるが、まったく古くない。LGBTQについて世の中の理解は進みつつあるが、やはり男と女が一番のマジョリティであり、それだけ背負わされる社会的属性も多い。そうした社会的属性の中からいかに“偏見”をなくしていくかが21世紀に生きる我々のミッションの一つだろう。そうした原点を思い起こす意味でも本作は幅広い層にお勧めができると思う。ジェイン・オースティンという人物へのある程度の知識や興味がないと難しいかもしれないが、その場合は『 プライドと偏見 』を鑑賞してみるとよい。そんな時間はないという向きには、カーペンターズ"All You Get From Love Is A Love Song" をお勧めしておきたい。

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Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

S have seen better days

直訳すれば「Sはすでに(今よりも)良い日々を見てきた」=Sは今はすでに盛りを過ぎている、ということ。

 

This part of Osaka has seen better days.

大阪のこのあたりも以前に比べて寂れてしまった。

 

That boxing champion has seen better days.

あのボクシング王者も全盛期は終わったな。

 

という具合に使う。

 

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