Jovian-Cinephile1002’s blog

古今東西の映画のレビューを、備忘録も兼ねて、徒然なるままに行っていきます

『 アウトポスト 』 -戦争の最前線の現実-

アウトポスト 70点
2021年3月14日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:スコット・イーストウッド ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ オーランド・ブルーム
監督:ロッド・ルーリー

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米トランプ政権で唯一の肯定的評価と言えば、アフガニスタンイラクからの米兵の撤退方針だろうか。2001年9月11日に端を発する戦争/派兵/駐留が、2021年の今も続いているのは異常である。また、日本はと言えば自衛隊の日報問題の総括もされぬままである。「戦争」とは何なのか。「戦闘」とは何なのか。本作のような硬質な作品を通じて、あらためて考えてみるのも良いかもしれない。

 

あらすじ

2009年6月、アフガニスタン山麓に位置するキーティング前哨基地。そこは四方を絶壁に囲まれた圧倒的不利な陣地だった。ロメシャ二等軍曹(スコット・イーストウッド)らは、いつタリバン兵から銃撃を受けるか分からない恐怖と緊張の中、日々の任務にあたっていた。そして、いよいよ基地からの撤退の日が迫ってきた時、タリバン兵の総攻撃が始まろうとしていた・・・

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ポジティブ・サイド

戦争の経緯も兵士たちの背景情報も何もないまま、観る側はいきなりキーティング前哨基地に連れて来られる。そして、いつどこから撃たれるか分からない恐怖の現場を体験する。その意味では『 ダンケルク 』によく似ているし、実際に銃撃を浴びる際の恐怖感は『 ハクソー・リッジ 』や『 プライベート・ウォー 』のそれに近いものがある。しかも味方陣地が『 KESARI ケサリ 21人の勇者たち 』とは全く逆の低地、というか谷底的なロケーション。関ケ原の戦いでも、実際は高地の要所を抑えた西軍有利をメッケル参謀が一目で断言したという逸話(おそらく創作)がある通り、高地と低地では地の利が違い過ぎる、この絶望感がたまらない。

 

戦闘シーンのカメラワークでも魅せる。『 1917 命をかけた伝令 』のようなロングのワンカットを多用し、それが戦闘の極限の臨場感をさらに高めている。特に終盤には、いったいどうやって撮影したのか分からないアングルからのショットがいくつかあり、非常に興味深かった。特に足を負傷したメイスの救出シーンはワンカット(に見せる編集だと思うが)は印象的だった。

 

傑作戦争映画の例に漏れず、本作でも華美なBGMは流れない。戦闘シーンでは銃火器の発射音、着弾音、爆発音がBGMである。まさに耳を襲撃されているかのような戦闘音の奔流に、否応なく臨場感を感じた。従軍記者をしていた先輩が言っていた「俺はもう花火を見に行けない」という台詞の意味が分かる。

 

タリバンの総攻撃シーンにたどり着くまでに、何度かチャプターが変わるが、それが現場指揮官の交代とリンクしているところが興味深い。勇猛な指揮官が不慮の事故で退場し、臆病な指揮官が着任すると現場の士気が下がる。まるで企業のようである。サラリーマンとして実感できるところが多数あった。特に面白いなと感じたのは、ブロワード大尉に対する下士官の態度と、それを厳しくたしなめるロメシャの図。中間管理職という立場は、会社でも軍でも一番しんどいのだろうな。

 

そうそう、エンドロール後にも重要なシーンが続くので席を立ってはならない。

 

ネガティブ・サイド

戦闘シーンでは素晴らしいカメラワークの本作であるが、それ以外のシーンでは???である。なにか場面と場面のつなぎがスムーズではなかったり、唐突だったり、あるいはあまりにも作為的だったり。特に橋のシーンはイマイチだった。あのタイミング、あの角度でズームアウトしたら、そりゃそうなるでしょ、と。さらにあの場面、あの爆発で橋が無傷というのも解せなかった。

 

エンドロール後の兵士たちのインタビューで気になったのが、「本作を観て、アメリカの国防について考えてほしい」という趣旨のことを語っていた。英語では for the greater good of the United States' security. と言っていたかな。Jovianは軍事については素人に毛の生えた程度の知識しかないが、それでもキーティング基地を見たら、それがどれほど不利な場所に作られているかはすぐにわかるし、実際に劇中の兵士たちも同様に感じていた。自分たちの流した血、そして仲間たちの流した血を思えば、当事者たちが上のように言ってしまうのは充分に理解できる。けれど映画の作り手たちは「こんなアホな場所に若い兵士たちを送り込んだ軍上層部は何を考えていたのか」とは考えなかったのだろうか。よく出来た映画であるが、届けようとしているメッセージがなにやらチグハグであると感じた。

 

総評 

戦争映画の傑作である。というよりも戦闘映画の傑作である。こういう作品に接すると、戦争の是非はともかく(そもそも戦争はすべて非だが)、実際の戦闘で命懸けで戦った兵士には敬意を払うしかない。生き残った者には尚更だ。似非医者の高須某がかつて水木しげるを「落伍兵」と侮辱したことがあったが、水木しげるはこういう現場から離脱することなく帰国しているのだ。一般人がこうした戦闘の現実を知ることが、戦争の一番の抑止力となると思えてならない。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

have the high ground

高い場所を有する、の意。転じて「有利な立場に立つ」、「優位な状況にある」ということを意味する。これは『 スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐 』で、オビ=ワンがアナキンに対して放つセリフで有名かもしれない。

 

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